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[補説§46]

      §46.1 新川忠「なかどめ」  §46.2 村木新次郎:ナガラ §46.1 新川忠「なかどめ」  論文の抜粋です。大量の例文を使って「〜して」と「〜し」の違いを分析した論文のノートです。 新川忠1989「なかどめ」『教育国語』99号 第二なかどめ(〜シテ) 複合的な従属の関係 第一なかどめ(〜シ) 並列の関係 1 第二なかどめ 3 一人の動作主の二つの継起的動作 AはBをおこなうために必要な、先行する動作 Bは副次的な動作 AシテBは一つの複合動作 (複合性を犠牲→シテカラ) くしから抜いて、ムシャムシャ食べた スカートを広げて、アイロンをかけた Nをこしらえて夫に飲ませた 電気を消して寝床に入った 縁側に出て、庭を眺めた 物干しへ上がって、布を広げた 4 同時進行動作 副次的な動作が主要な動作に同伴している複合動作 シナガラ ラッパを吹いて、新聞を売りに来る 「ワー」と叫んで、駆け抜けていく 手をふって、見送っていた Nを肩にかついで、奥へ入っていった 子猫を抱えて、寮に避難する 汗を流して、食った 5 同時に存在する状態と動作とが複合 Aは結果としての状態(姿勢・服装) ションボリたって、眺めていた 道端にしゃがんで女の子を眺めていた 首をかしげて、彼の顔をみつめた 背広を着て、入ってきた 下駄をはいて、診察に回っている 手拭いをかぶって、掃除をしていた 6 状態と状態の複合 Aは姿勢や服装 人が倒れて、大手をひろげていた 毛布を掛けて、ぐっすり眠っている 手拭いを腰に巻いて、しゃがんでいた 着物を着て、畳に座っている 洋服を着て、椅子に腰掛けている 特殊化したもの AもBも服装 銘仙をきて、伊達巻をしめていた ゲートルを巻いて、ドタ靴をはいていた 8 同時という時間的な関係を切り捨てて、複合性を全面におしだす AがBの動作の側面をとらえる 二つは一つの動作 時間的な関係はなし し方 大きな声を出して刑事を呼んだ ぶらぶら歩いてNの方に渡った 様態 輪になって、グルグル踊る 行列をつくって、さかのぼっている 心理的な状態 落ち着いて、髪を分けた まじめくさって、答えた 表情・みぶり 目をつりあげて信吾をにらんだ じだんだをふんでくやしがる この種のシテから、イソイデ・キソッテ・キソッテ・オモイキッテ・アマンジテ・    ウチトケテ・キドッテなどの副詞が派生 あわてて石段をかけのぼる いそいで出かけるしたくをした そろって、でかける あまんじてその罰をうける Aが具体的な動作で、Bがその動作の「意義」を与える Bが動作を抽象的に、あるいは一般的に意義付け、Aがその具体的な内容を 動作はやはり一つ 落葉を集め回って、遊んでいる びわを買って、手土産にした 堀を掘って、露営の準備にかかった 子供の世話をして、暮した Aが空間的な配置を示す動詞・一定の方向への移動を示す動詞 空間的な関係のあり方・移動の方向を表現 →後置詞が派生 正太と並んで、歩いていった 二人は向かい合って、席についた ルソン島めざして、南下した 下宿をさして、帰っていった 9 複合性を切り捨てて、継続的に起こってくる、二つの動作を結びつけているように見 える場合でも、二つの動作は純粋に先行・後続の時間的な関係のなかにあるのではな い。そこには何らかの意味的な関係がつきまとっている 先行・後続の関係の二つの動作が一つの目的によって結びつけられ、一つの活動に きゅうりを出して、塩包みをひらいた 湯河原に行ってけさ帰った さらに、おたがいに関係を持たない二つの動作が場面によって統一される 湯を一口飲んで、頭をたれた 見舞いに来て、先生の話をした 先行する動作Aが後続する動作Bを条件付けている場合 原因 落ちて、死んでしまった 足をとられて、尻餅をついた 動機 心配して、迎えに来てくれた それを恐れて、乗り換えていった 目的 梱包を探して、走り回っていた 叔父を訪ねようとして、道へ出た それを上げようと思って、とっといた 方法 青酸カリをのんで、死んでいる うまいものを食って、体力をつける Aが原因や動機づけを表現し、それがまともに作用しない 逆接条件 日本に生れて、米の飯が食えない 自分で言って、忘れるな 10 Bが進行する空間=状況 ホームにたって、隣を見ていた 女がこしをかけて、話し込んでいた 宿にいて、親戚のものをまちうけた 継続相(テイル) で示される状況 畑仕事をしていて、被爆した 近所で遊んでいて、よくいじめられた 11 動作主が違う場合 それぞれが異なる出来事 一つの場面の中に同時に存在する、対照的な二つの出来事 英子は椅子にかけて、もう一人は立っていた 縁側の障子はしまって、土間口の障子戸が開いていた 物の全体をめぐる出来事と物の部分・側面をめぐる出来事、あるいは一つ物の二つ の部分・側面をめぐる出来事 顔をやけどして、皮膚がはげていた 時計も同じ位置にかかって、振り子が同じように動いていた ガラスが一面に散らばって、ふすまが菱形になっている 一つの空間のなかに同時に存在する、二つの現象 街なみがどんよりとくもって、ネオンが光っていた 海はないで、かもめが飛んでいた 一つの場面の中で継起的に起こってくる、二つの出来事 原因になることもある 足音が聞こえて、子どもが顔をのぞかせた ドアの閉まる音がして、発車のエンジンの音が聞こえた 川もひあがって、どじょうが骨だけになっていた 物音が聞こえてきて、将棋に身が入らなかった Bの時間=状況 夜になって、雨が来た 一時間にわたって、砲撃した Bの進行する物=空間を表現 留守宅があって、母親が暮していた 鳥が巣をかけていて、親鳥が虫を運んでいた 12 一文にシテが二つ以上 意味的な関係は以上に準ずる サンダルを脱いで、電話のところへいって、受話器を外した ゲタをはいて、自転車に乗って、診察に回っている 驚いて、階下へ降りて、手拭いを持ってきた おなかのへったのも忘れて、台所へおりて、コップへ水を受けて、のどを鳴ら して、飲んだ 2 第一なかどめ 13 同じ動作主の二つの動作は相互に独立 従属的な関係はない 対等なもの 「並列」 先行・後続という時間的な関係 同時的な関係はない 煙をはき、「ああ」とうなずいた 室の中をちょっとのぞきこみ、「ハイ、〜」と、たちさった。 ちょっと照れた顔になり、ぐっと脚をのばした。 ひとりで寝床をのべ、カヤをつった。 相互に独立した動作を対等に並べ立てるだけ それらの間にどのような意味的な関係があるか、積極的には表現しない コンテキストにもとづいて、シテが表現するいくつかの意味的な関係をよみとること ができるばあいがある。 カギをはずし、ガラッと窓をあけた。 長持のふたをあけ、紙束をとりだした。 酒によい、うきうきした気持ちになっている。 爆風でなぎたおされ、気絶していたのが真実であったかもわからない。 三千代をどうしてもとってみようという気持ちになり、三千代と勝手に所帯を もった。 同一あるいは同種類の二つの動作 時間的先行・後続の関係はかなりあいまいに 姪に寺の見える絵はがきを選び、京子に牧場の絵はがきを選んだ。 〜と女中にも言い、私にも言っていました A先生に予防の処置を取らせ、小山先生に病棟をたてるように言い付けた。 老夫人が財産をみんなにわけてくれ、遺言までもしたあとで、、、 この種の特殊化したもの 時間的関係をきりすて、二つの動作を並べ立てる 実際には、継起的なことも、交互に行なわれることもある 丸裸のものには皮膚に墨汁で名前をかき、布着れを少しでも付けているものに はそれにも名前をかいた。 火傷の手には塗り薬をあたえ、苦痛を訴える患者には注射をしていたが、、 14 同時に存在する、持ち主の同じ二つの状態 二つの状態は、例えば、服装と服装のような同質のもの ズックのくつをはき、ちぎれたズボンをはいていた。 白い海水帽をかぶり、しまの水着をつけた新子が、ふと口走った。 耳をつつみ、ゴムの長靴をはいていた。 襟巻で鼻のうえまでつつみ、耳に帽子の毛皮をたれていた。 15 Aが一般化された動作・Bがその具体的な表われとしての動作 動作は一つ 酔うほどに無口になり、ろくろく返事もしない。 職員たちは市庁舎のなかで職場をまもり、諸般にわたる事務をとっている。 16 相互に独立している二つの出来事 多くの場合同種類 一つの空間における二つのものの存在 どの家にも垣根があり、背の低い門がある。 溝の手前の地面にはコケが密生し、溝の向う側には水引草の群落がある。 一つの空間の中で同時に進行している二つの出来事 医者が忙しそうに通路を歩き、けが人がとぼとぼ歩いているのが見えた。 僕は会社に行くか家に帰るかの二つに迷い、夫人は工場に帰るか取引先に行く かに迷った。 一つの空間の中に同時に存在する二つの現象 野づらには朝のもやがただよい、空はしだいに明るさを増していた。 大地には雨がふりそそぎ、室の中には焼グリのにおいがただよっていた。 一つのものの、二つの部分・側面をめぐる出来事 墓は、閃光に当たった面だけ焼けただれ、当たらなかったほうはなめらかにな っている。 隣家は窓の色絵もふるび、屋根のゆがんだカフェであった。 複数の主体とそのうちの一部の主体をめぐる出来事 顔面、両手ともやけただれ、左手の皮膚がはげかえっていた。 葉はみんな南にむかってたおれ、ひどいのは破れ傘のようになっている。 物の全体をめぐる出来事と物の部分・側面をめぐる出来事(稀) 背中一面ただれ、皮膚が油紙の一枚のようにめくれている。 外壁が大きくこわれ、かけた部分が宙に浮いているのが見えた。 一つの場面の中で継起的に起こる二つの出来事 原因・結果の関係をよみとれる ばあいもある 英子が修一にしゃべり、修一がまた菊子にしゃべったのにちがいない。 母が先立ち、父が死んでみると、田畑は売り尽くされていて、家屋敷が残った 歩き出すと、汗が流れ、体じゅう水をかぶったようになってきた。 アスファルトは靴の裏に密着し、容易に足をはこべない。 二つの出来事の間に空間=状況的な関係をよみとることができるばあい 右手には背の低い杉林があり、油ゼミがジイジイないていた。 丹念に畑がたがやされ、トマトが勢いよくのびそだっていた。 17 一つの文に〜シが二つ以上共存 これまでと同じ 玄関に鍵をかけ、鍵をあずけに行き、留守を頼んだ。 救急袋をはずし、頭巾をぬぎ、仰向けにねころんだ。 帽子をかぶり、白い手袋をはめ、行ったり来たりしていた。 踏み切りを越え、村を過ぎ、橋を渡り、川にそい、ガケの下を通り、トラック はのろのろと進んだ。 18 〜シと〜シテの使用の、主な違いのまとめ シテは二つの動作の間の、時間的な先行・後続の関係と同時的な関係とを表現できる シは二つの動作の間の、時間的な先行・後続の関係しか表現しない シテは状態(姿勢・服装)と動作とを結び付けることができる シはできない シテは動作の特徴を表現できる シはできない これらの違いは、シテが複合的な従属関係の表現者であるのに対して、シは並列関係 の表現者である、ということにもとづいている このことは、シとシテが共存する文の調査によって一層明らかになる 3 一つの文の中の共存 19 Aシ+Bシテ+Cの場合 1.[Aシ+Bシテ]+C AとBは並列で、Cに対して従属的 A、Bともに副次的な動作・状態(姿勢・服装)・側面 火鉢のやかんをとり、茶だなから湯飲みを出して、ぬるい湯を飲んだ。 窓を開け、犬を抱えあげて、外に出してやった。 マントにくるまり、ヴェエルをかぶって、お座敷に通った。 眉をよせ、少し口を開けて、何か考えているふうだった。 2. Aシ+[Bシテ+C] BはCに従属し、複合動作を形作るか動作を特徴づける Cは並列の関係、対等の独立した動作 書棚を整理し、引き出しから鏡をとりだして、髪をなでつけていた。 煙草をすってみたくなり、マッチをさがして、煙草に火をつけた。 三里に灸をすえ、足が痛いのをがまんして、たちあがった。 途中から顔を変にゆがめ、おしまいに、口を大きくあけて、ワアワアなきだして しまった。 20 Aシテ+Bシ+C 1.[Aシテ+Bシ]+C AはBに従属 その全体がCと並列 老眼鏡をとりだして、かけ、手紙を両手でひろげもった。 メモに「〜」とだけかいて、机のうえにおき、警視庁を出た。 弁当をもって、養魚池へでかけ、水温の調節をした。 幸子の腕をひっぱって、医院の玄関にはいっていき、大きな声で案内をこうた。 2. Aシテ+[Bシ+C] BとCが並列的 Aはそれら全体に従属 洗面所へ行って、水をのみ、体じゅうを手拭でぬぐった。 みかんをとりだしてきて、一つを繁の手ににぎらせ、もう一つを娘の前にもって いった。 体中の血がわきかえるような激情におそわれて、まっ青になり、ふるえだした。 初江が気にして、梯子段のところへいき、「〜」と呼んだ。 21 従来の研究において、シとシテとは文体論的なヴァリアントとみなされていた。 シテは会話・文章 シはもっぱら文章 シはふるめかしく、シテは新しい このような見方に根拠がないわけではないが、ごく限られた一面しかとらえていない 私たちの研究によれば、意味的にも機能的にも違いがある シテは複合的な従属関係を表現 シは並列関係 歴史的には、シはもともと並列と従属を未分化のままに表現していたが、やがて、そ こから従属の関係のみを表現するシテが派生してきて、シはもっぱら並列となった、 と考えられる。

§46.2 村木新次郎:ナガラ

村木新次郎「「−ながら」の諸用法」『日本語文法の新地平3』くろしお出版2006  以下のような点が問題となる。  (a) 「−ながら」が単語か句(節)か。 (b) 前件(以下、Pとよぶ)の事態が動的な事態(運動)か、静的な事態(状態)か。     また、後件(以下、Qとよぶ)の事態が動的か静的か。 (c) ふたつの動的な事態が同時的であるか、継起的であるか。 (d) 二つの事態の主体は同一か否か。   (e) 表現者(あるいは理解者)が、ふたつのことがらの生起を自然であるととらえ     るか、不自然であるととらえるか(なんらかの矛盾を感じとるか)。いわゆる 順接か、逆接かの問題である。 (f) 表現者の評価的な態度がかかわっているかどうか。「−ながら」で述べられ     ることが、後続の文の要素に対して<不十分>ととらえるかどうか。    
単語を構成する「−ながら」
  さまざまな品詞に属する単語に接尾し、表現主体による主観的な意味をふくませ ている   () 名詞から:我ながら 自分ながら よそながら ひとごとながら 陰なが ら () 動詞から:はばかりながら 恐れながら 及ばずながら   () 形容詞から:はずかしながら あつかましながら あやしげながら      遺憾ながら 勝手ながら 簡単ながら 残念ながら 失礼ながら      僭越ながら 不得意ながら 不本意ながら 不承不承ながら 不憫ながら   () 副詞から:今更ながら 細々(と)ながら 漠然とながら いやいやながら      渋々ながら おそるおそるながら こわごわながら  表現主体の主観的な意味とは、事態に対する<不足><不十分さ>への思いであり、ま たみずからの<謙虚さ/へりくだり>や他に対する<配慮>をあらわしている。   
名詞述語+ながら
  「Pでありながら、Q」    PとQとが並存するのは不自然であると認識される場合     「P。それにもかかわらず、Q」       あいつは学生でありながら、ベンツを乗り回している。    ふたつの相反する事態を対立させる場合  並列・対比       「P。しかも、Q」       来た道と、帰る道とは、同じ道でありながら別の道だった。     同一主体の二つの側面を対比して述べたもの     「P。しかし、Q」       彼は、校内では秀才で、注目の的でありながら、土手裏では陰鬱で怠惰       な生徒にすぎなかった。    子供ながら、礼儀作法をわきまえている。  名詞の<不十分さ>   ×大人ながら、礼儀作法をわきまえていない。      大人でありながら、礼儀作法をわきまえていない。 (tuzuku)