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「56.連体節」へ

  


[補説§56 連体節]

 §56.1 寺村秀夫「外の関係の名詞」  §56.2 「文末名詞」  §56.3 安田論文:「ヨウナ」

§56.1 寺村秀夫「外の関係の名詞」

寺村秀夫の本から[外の関係の名詞」について書かれた部分のまとめをのせます。 寺村秀夫 1981『日本語の文法(下)』国立国語研究所 から 外の関係の名詞 名詞の内容を表わす文を連体節として名詞に前接させる場合に「という」というつなぎ のことばが、(イ) 必要な場合、(ロ) 付けようと思えば付けられるがなくてもかまわない場 合、(ハ) 付けることができない、言い換えると、内容節と底との間に「という」が割り込 んでくるのを許さないような場合の三通りがあること、そしてそれが内容節の構造と関係 があるらしいことが分かった。内容節の構造は、それによって内容が表される名詞の性格 に由来すると考えられるから、上のことは底になる名詞の性格を考えることでもある。 つなぎのことばは、「という」のほかにも、「との」「ような」「というような」など があるが、ここでは「という」だけにしぼる。「という」の介入の条件を考える時には、 「と(ひとが)言う」という、もともとの「いう」意味を保持している場合、たとえば、 太郎がそのとき聞いたという音は、こんな音か? というような場合は除外しなければならない。ここでは形式化した「という」の機能を分 析の手がかりに使うのである。形式化した「という」は、以下で見るように、ある種の名 詞を底とする場合は付けることができないが、前章で見た「内の関係」の修飾節の場合も 付けることができない。 p.108-109 「という」が必要なもの (その連体節が「〜は〜だ」「〜です」というような形になっているのに加えて) 1..言葉、手紙、返事、電報、電話、申し出、噂、小言、不平、命令、誘い、依頼、、 「言う」ことに関係             主張、文句、要求 2..意見、期待、思い、考え、想像、気持、決心、意志、信念、、 「思う」ことに関係      思想、仮定、前提、疑い、〜観、気 「(文)と」という形の補語をとる動詞 それが名詞化したもの 意味的に何らかの発話・伝達、思考の動詞と関係づけられるような名詞 およそどのような形の文でも包み込むことができる 疑問、命令、意志 「という」がなくてもよいもの (ただし、題目がある、ダ・デスで終る強い断定、命令・依頼の表現、誘いの表現、 終助詞ないしそれに準じる文末表現、でないこと) 3..話、事実、事、事件、騒ぎ、歴史、記憶、夢、過程、くだり、可能性、恐れ、、                           結果、公算、危険性 4..癖、習慣、風習、運命、身の上、過去、経歴、商売、作業、仕事、技術、方法、準   備、目的、資格、必要               性質(タチ)、意図、つもり、意向、宿命、覚え、約束、方針   節というようりは「句」といったほうが適当なような性質のもの 「何(誰)かが〜する(した)」というような、具体的なある外界の事象を 表わすものであるより、動詞や形容詞によって、そしてそれに伴う「〜を」 「〜に」などという(主格以外の)補語によって内容的にくわしくされた 一般的、抽象的に、概念化された動作・出来事・状態を表わす言い方であ るのが本来であると思われる。 「という」「との」は入らないもの 5..音、匂い、味、様子、姿、絵、写真、場面、形、感じ、感触、、                           気配、光景、さま     感覚・知覚を表わす、あるいは、視覚、聴覚などと何らかの関係をもつ名詞 内容節中の主格の名詞(「〜が」)は、「〜の」として直接底の名詞に結びつ けられる場合がほとんどである。 相対的な概念 6..上、下、右、左、中、外、前、後、原因、理由、結果 一方、一面、ほか、反面、半面 すき、途中、帰り、横、名残り、最初、最後、当日、前日、翌日、中、相手、同志 7..悲しみ、淋しさ、落着かなさ、やましさ、焦り、不安、怒り、 傷、よごれ、おつり、拍子、煙、たたり、証拠            報酬、罰、跡、傷跡、惰性、残り、お釣り、拍子、勢い、報い (寺村秀夫の日英比較の論文から語を補いました。)

§56.2 「文末名詞」

 本文の「56.9 名詞述語となる連体節」というのは、「文末名詞文」という特徴ある 文型の不完全な紹介です。本文はいずれ書き直すつもりですが、以下に「文末名詞」に 関する資料を参考としてのせておきます。  この文型の名付け親である新屋映子の論文からその名詞を拾ったものと、同じ文型を 「体言締め文」と名付けた角田太作の論文から同じく名詞を拾ったものです。その後に 例文集を付けます。  
新屋映子「”文末名詞”について」1989 国語学159集
 「性格」「感じ」「様子」のように、連体部を必須とし、コピュラを伴って文末に 位置し、主語と同値または包含関係にない名詞を便宜上「文末名詞」、文末名詞を持 つ文を「文末名詞文」と名付けることにする。  文末名詞になる名詞はふつう単独では述語にならず、常に連体部と共に合成述語を 形成する。・・・ 文末名詞というのはあくまで用法上の命名である。 A パラディグマティックな位置づけ  種類、類、たぐい、タイプ、方、部類、クラス、階層、系統、パターン    類・集合を表す名詞 B 属性  性質、性格、気質、気性、性分、たち、体質、人柄、立場、構成、構造、  仕組み、形式、様式、顔立ち、人相、体格、匂い、形、趣、体裁、運勢、  身分、出身  仲、関係 (属性文に準じる) C 様態を感覚的に把握  感じ、様子、模様、状態、風、有様、形、風情、格好、空気、気配、景色、  態度、素振り、言い方、口調、口振り、表情、調子、具合、勢い D 主観  1 身体的感覚   感じ  2 感情・心理   感じ、気持、思い、心持ち、気分、心境  3 意思   意向、気、魂胆、料簡、覚悟、考え、決心、心組み、方針、予定、主義、   計算、つもり  4 客観的な事象に対する主体の認識や意見   意見、考え、印象、考え方、認識、味方、解釈、判断 E 状況をより詳しく述べたり、別の角度から解説を加える  塩梅、具合、次第、道理、話、理屈、わけ、顛末、始末 F 時間的または空間的な位置関係  ところ、近辺、近く、そば、隣、寸前、最中、途中、頃、直前、直後、後 G 他から得た情報として事象を伝達  こと、話、噂、評判、由 
角田太作「体言締め文]1996
1「意志」の類。  意向、所存、魂胆、企み、狙い、気、気持ち、考え、決心、決意、構え、姿  勢、覚悟、方針、予定、計画、作戦、戦略、など 2「段取り、見込み」の類。  段取り、運び、方向、見通し、見込み、流れ、勢い、など 3「状況、結果」の類。  様子、気配、模様、状態、状況、情勢、事態、有り様、形、恰好、始末など 4「感情」の類。  感じ、気、気持ち、気分、思い、心境、など 5「印象、雰囲気」の類。  印象、感じ、趣、雰囲気、ムード、感触、など 6「習慣」の類。  傾向、風潮、習わし、風習、習慣、癖、生活、など 7「人間の性格」の類。  性格、性質、性分、気質、たち、タイプ、など 8「役目」の類。  役目、役割、責任、立場、資格、運命、宿命、定め、身の上、など 9「体の特徴」の類。  体、体つき、体質、表情、口ぶり、姿勢、など 10「無生物の構成」の類。  作り、仕組み、構造、内容、設計、システム、スタイル、など 11「疑い」(この名詞1つでグループを成すとする)
◇例文集
新屋から抜粋  川田君は素直で朗らかな性格です。  梓川は、この前の春の時とは少し異なった感じだった。  平岡はあまりこの返事の冷淡なのに驚いた様子であった。  私の学校の絵の先生は、先生というより芸術家のタイプです。  彼の行動は子どもが後先も考えず突っ走るたぐいだ。  このカバは、入園以来、17年余りもぼくと苦楽をともにしてきた仲である。  我々は持ちつ持たれつの関係だ。  神谷は返事に窮した様子だった。  隣の部屋に誰か人がいる気配だった。  体が宙に浮いている感じでしたね。  心も体も疲れ果てた感じである。  僕だってこのままでは兄さんに対してすまない気持ちです。  いま初めてその憂鬱さから抜け出すことができた思いだった。  僕の悪いところはちゃんと謝る覚悟です。  あれ!本当にやる気だよ。  じゃ、僕等二人は世間のおきてに叶うような夫婦関係は結べないという意見だね。  常盤の方はそういうこともあり得るといった程度の考え方だが、  これの最たるものが、・・・手では汚いことをしていた塩梅だ。  お前は嫌われただけの話だ。  取り急ぎ使いをもってご挨拶申し上げる次第であります。  彼は辞職する考えだ。  私は彼の作品がいちばん出来がいいという印象だ。  彼は平岡に逢って、三千代のために充分話をする決心であった。  ともかく、魚津はほっとした気持ちだった。  相手は返事を考えあぐんでいる様子であった。  彼はその新聞を出しそうもない態度だった。  犯人を見たものがいるという話だ。  長官の方は急に事を運ばなくてはならない事情であった。  彼は責任逃れをしようという態度だった。  今回のことで困っている次第です  彼は彼女を恐れている有様だ  彼がそそのかしていた塩梅だ 否定に限る  私の出る幕じゃない  けんかしている場合じゃない 人称制限  ×彼は泣きたい思いだ  ×彼は夢を見ている気分だ  ×彼は、皆いい人だったという印象だ  ?私は雨でも行く気です  ?私は来月渡米する意向です 角田から  太郎は明日つくばに来る予定だ。  太郎はどうしても東京へ行く気だ。  政府は米の輸入を認める意向だ。  政府は明日、野党と話し合う段取り/運びだ。  政府は米の自由化を認める見通し/見込みだ。  太郎は元気な様子だ。  太郎はいつも苦しい状況だ。  工場で大きな事故が続いている模様だ。  政府は失敗を認めた形だ。  私はやっと目標を達成した感じです。  私は1人取り残された思いです。  この町は別世界にある感じ/印象/雰囲気です。  日本人は正月と盆を祝う習わし/習慣です。  太郎はなかなか怒らない性格/性質だ。  太郎は皆を助ける役目だ。  花子は結局失敗する運命だった。  太郎はいつも明るい表情だ。  あの力士は立派な体つきだ。  この車は時速千キロで走る仕組み/設計/構造だ。  県警は前知事を逮捕した。調べでは、前知事は建設業者から1千万円を貰った疑い。 ▽新屋と角田のあげている「文末名詞」の例を比べてみると、重出する語は意外に少なく、 重出する34語を除くと異なり語で約150語となります(形式名詞は除く)が、角田の「〜など」 が暗示しているようにまだまだ多くの語があるのではないかと思われます。
文末名詞の再分類の試み
 両者の文末名詞の例語をまとめて新しい分類を試みます。両者の分類のしかたが異な るので、重なる語もそれぞれ重複してあげます。(新屋(ABCDEFG)・角田(1-10)) ―動詞相当の文末表現と見なせるもの a[様態・状況]:「〜ヨウダ」などのムード表現に近い意味のもの  角田「3 状況、結果」   様子、気配、模様、状態、状況、情勢、事態、有様、始末、形、恰好  角田「5 印象、雰囲気」   印象、感じ、趣、雰囲気、ムード、感触  新屋「C 様態を感覚的に把握」   感じ、様子、模様、状態、風、有様、   形、風情、格好、空気、気配、景色、調子、具合、勢い   態度、素振り、言い方、口調、口振り、表情  b[推量]:「〜ダロウ」などに近いもの  角田「2 段取り、見込み」   見通し、見込み、段取り、運び、方向、流れ、勢い     政府は明日、野党と話し合う段取り/運びだ。(角田例) c[意志]:「〜しようと思う、することにしている」などに近いもの  新屋「D3 意思」   意向、気、魂胆、料簡、覚悟、考え、決心、心組み、方針、予定、主義、計算、つもり  角田「1 意志」   意向、所存、魂胆、企み、狙い、気、気持ち、考え、決心、決意、構え、姿勢、覚悟、   方針、予定、計画、作戦、戦略 d[説明]  新屋「E 状況をより詳しく述べたり、別の角度から解説を加える」   塩梅、具合、次第、道理、話、理屈、わけ、顛末、始末 ∋弭諭Υ蕎陲瞭飴豼蠹と見なせるもの a[思考]:「〜ト考エル」などの動詞に近いもの  新屋「D4 客観的な事象に対する主体の認識や意見」   意見、考え、考え方、印象、認識、見方、解釈、判断 b[感情]:「〜ト感ジル、ト思ウ」などの動詞に近いもの  新屋「D2 感情・心理」    感じ、気持、思い、心持ち、気分、心境  角田「4 感情」    感じ、気、気持ち、気分、思い、心境 主体の部分・側面など  新屋「B 属性を実現する側面」   性質、性格、気質、気性、性分、たち、体質、人柄、立場、構成、構造、仕組み、 形式、様式、顔立ち、人相、体格、匂い、形、趣、体裁、運勢、身分、出身  角田の分類ではここに属するものが細かく分けられている。   「9 体の特徴」 体、体つき、体質、表情、口ぶり、姿勢   「7 人間の性格」 性格、性質、性分、気質、たち、タイプ   「6 習慣」 傾向、風潮、習わし、風習、習慣、癖、生活   「8 役目」 役目、役割、責任、立場、資格、身の上 運命、宿命、定め   「10 無生物の構成」 作り、仕組み、構造、内容、設計、システム、スタイル ▽´△鉢との比較   は上の ↓△箸論質が違う。   ´△蓮∧犬瞭睛討砲△覦嫐9腓い魏辰┐襪發   は主題の名詞と不可分の部分・側面を表す   a 彼は出掛ける。   b 彼は出かける様子だ。 (。瓠   c 彼は出掛けるようだ。 bは、aがはっきり言い切っているのに対して、「彼」の「様子」からそう判断でき る、という意味合いを付け加えており、ムードの助動詞を使ったcに近い。 a 彼は素直で朗らかな性格だ。 b 彼は素直で朗らかだ。 c 彼の性格は素直で朗らかだ。   d 彼は性格が素直で朗らかだ。  aの「性格だ」をとってしまったbもほぼ同じ意味になる。  aはcの「NのN」の形やdの「ハ・ガ文」の形でも言いうる。  同じ「文末名詞」と言っても、かなり構文的性質が違う。 ▽両方の類に入るもの    彼はいつもにこやかな表情だ。    彼の表情はいつもにこやかだ。    どちらもだいたい同じ意味で、体の部分について述べているが、    彼はいかにも行きたくないという表情だった。  という使い方では、    彼はいかにも行きたくなさそうだった。  に近くなり、ムードの助動詞相当(,領燹砲噺世┐襦      ぜ鑪燹  新屋「A パラディグマティックな位置づけ」    種類、類、たぐい、タイプ、方、部類、クラス、階層、系統、パターン ▽このグループをどう位置づけるかはよくわからない。

§56.3 「ような」

 連体節と名詞を結ぶ「ような」についての論文から例を引用します。 安田芳子1997「連体修飾形式「ような」における<例示>の意味の現れ」『日本語教育』92 ・基本的な例       探るような目つき      オーケストラを演奏しているような快感      彼が語ったような日系人の傾向 ・連体節の「内の関係」「外の関係」どちらもある   様態     内  ハイヒールをはくような女     外  探るような目つき   比喩     内  貴族が着ていたような服       外  鉄条網でひっかいたような傷   内容の名付け     内  彼が語ったような日系人     外  高齢化が進んでいるような現実    ・例文集   様態      逃げるような歩き方      つぶやくような独り言  足を引きずるような歩き方      ささやくような歌い方  誰かに頼るような姿勢      1秒を惜しむようなしゃべり方      哀れむような目つき   詰め寄るような話し方      白けたような顔     恐縮したような態度      照れたような言い方   放心したような目つき      思い出したような顔つき あきらめたような口調      疲れたような表情    咳き込んだような話し方   比喩      白金で覆われたような雲の割れ目  獣が吠えるようなボーカル      魂の飛ぶようなご馳走      コヨーテでも殺すような調子で      胎内にいるかのような感情         「何て変なことを聞くのだろう?」というような顔をしながら      押し殺したような声、砂をかむような思い、雲をつかむような話      血のにじむような努力、苦虫をつぶしたような顔      酔っぱらったような赤い顔(様態・比喩)      興奮をかみしめるような顔   内容の名付け      予想していたような圧勝   新聞に載っているような事件の経過      先に述べたような方法    
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