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24. アスペクトへ

補説§24

 §24.1 「テイル」と「見る」こと §24.2 「テイル」の範囲について §24.3 「基準時/参照時」  §24.4 「テシマウ」  §24.5 工藤真由美の動詞分類 §24.6 『現代日本語文法3』 §24.7 「〜ないでいる」と「〜ていない」   ◇アスペクトに関するいろいろなノート、メモなどを書いていきます。  バラバラなことになるかもしれませんが、あとで整理するつもりです。
§24.1 テイルと「見る」こと
1 「進行中」と「見る」こと(庵・清水2003)  庵・清水(2003、p.28)は、「〜している」の基本的な用法として、     進行中は、動作や出来事を見たとき、その動作や出来事が続いている     (続いていた)ということを表す。動作や出来事を見たときが現在か     未来の場合は「〜している」、過去の場合は「〜していた」が使われ     る。  と説明し、「見る」ことを必要条件?としている。  この説明は興味深い。(見るだけでなく、聞いても、感じてもいいわけだが)     鐘の音がどこからか響いていた。     あたりには甘い香りが漂っていた。     床がかすかに揺れていた。 2 直接経験と伝聞  同じく庵・清水から。(p.33)     過去のある時点で動作や出来事を見たり聞いたりしていたことが明ら     かな場合は進行中になるので、「〜していた」が使われる。      3日前私がその店に行ったとき、林さんは一人で食事をしていた。      調べによると、3日前、林さんはその店で一人で食事をしている。  これも「見たり聞いたり」となっている。  その前のページの会話例     刑事:この男に見覚えはありませんか。     店員:ああ、この人は3日前ここで食事をしていましたよ。  「しました」ではいけないか。「していきました」なら?     刑事の報告       店員の証言によると、3日前犯人はその店で食事をしています。  こちらは「していた」でもいい。  「私」がずっと店にいた場合。     3日前、私がその店でバイトをした(していた)とき、林さんは一人     で来て食事をしました。(していました)   「していました」だと、「私」がチラチラ見た感じ?     「動作や出来事を見たり聞いたりしたことが明らか[でない]場合」というの  はどういう場合だろう。「刑事の報告」の場合か?   庵功雄・清水佳子2003『日本語文法演習 時間を表す表現 −テンス・アス    ペクト−』スリーエーネットワーク

§24.2 テイルの範囲について

1 テイルの範囲:金水   金水(2000、p.22)の説明。     田中さんは3時から5時まで運動場を走っていた。    「3時から5時まで」は必ずしも「運動場を走る」出来事の過程のすべ   てに一致するとは限らない。3時以前に走り始め、5時以降に走り終えた   としても、この表現は成り立つ。その点が、次の完成相の表現と異なる。     田中さんは3時から5時まで運動場を走る/走った。    完成相の表現では、「3時から5時まで」がそのまま「運動場を走る」   出来事の出来事時と一致していることを表す。  そういう話ではない!  これは次の高橋の記述と矛盾するか?  2 テイルの範囲:高橋  高橋(1985、p.36)は、     とけいが2時から3時までとまった。   (ク)     とけいが2時から3時までとまっていた。 (コ)  に関して、     ク)は(2−1/∞)時から(3+1/∞)時であり、     コ)は(2+1/∞)時から(3−1/∞)時であるともいえようか。  と述べている。   つまり、ク)は2時・3時という両端の時刻を含み、コ)は含まないとい  うことを言いたいらしい。   これはことばの遊びであり、意味のないへりくつである。 3 テイルの「内部構造」  むしろ、高橋の次のページ(p.37)にある、「いつ見ても」を含む例、     時計は、2時から3時まで、いつ見ても、とまっていた。  と言える、という論の意味するところを考えねばならない。  「とまった」とはちがい、「とまっていた」は、その中にその動作について  「参照する」点を取りうる、ということが重要なのである。  「シタ」と「シテイタ」の違いは、両端が含まれるかどうか、あるいは両端  の外側まで伸びているかどうか、などというところにあるのではない。  内部の構造(コノコトバガナニヲイミスルノカハトモカク)が重要なのである。 4 継続相と状態動詞  上の「いつ見ても」というテストは、状態動詞でも成立する。     彼は、2時から3時まで、いつ見ても、そこにいた。  このテストが「継続相」の規定にとって重要であるならば、継続相は状態動  詞と基本的な性質を共有する、という考えてみれば当然の結論が導かれる。 [文献]  高橋太郎1985『現代日本語動詞のアスペクトとテンス』秀英出版  金水敏2000「時の表現」『日本語の文法2 時・否定と取り立て』岩波書店  

§24.3 「基準時/参照時」

アスペクトの議論の中でよく使われる、ある概念についての用語が研究書によって 違うので、それを並べて引用しておきます。 1 「基準時」(高橋1985)  高橋1985は「基準時」という用語を、角張の「時間的な中心」という用語に触発さ れて使っている。     修一郎がそこに入っていったとき、トシ子はジンジャエールをのんで     いた。   「そこに入っていったとき」があらわす時間的な点において、主体はジン   ジャーエールをのむといううごきの継続の状態にあったのである。      (角張1976Aの記述を高橋1985、p.12から孫引き)  ただし、角張は次の例で     しばらく二人は黙って山を歩いていた。  「しばらく」を「時間的な中心」とし、高橋もそれを受け継いでいる。 2 「基準時」(庵2001)  庵2001は、次の工藤の「設定時点」の意味で「基準時」を使っているものと思われる。    (28) 私がここに来たとき、彼はもう夕食を食べ始めていた。   (中略)    つまり、(28)は「食べ始める」という動作が基準時以前に行われたということを    表すのです。   (p.159)  時間的関係は、     食べ始める → 私が来る(基準時) → 発話時  となっている。 3 「設定時点」(工藤1995)  工藤1995は「発話時点」「出来事時点」と別に、「設定時点」をたてる。  「パーフェクト」に関してのみで、一般の継続用法には使用していない。     あなたがこの手紙を手にする頃、私はすでに死んでいるでしょう。           (手にする:設定時点) (死ぬ:出来事時点)     手紙を書く(発話時点) → 死ぬ → 手紙を手にする 4 「設定時」(金水2000)   金水(2000,p.14)は工藤の「設定時点」を一般の継続にも適用するが、格  別の議論はしない。常に「出来事時」に収まってしまうから、論じる意味が  ないのである。     ここで、設定時と出来事時はほぼ等しいのであるから、設定時という    概念を導入する必要性は薄いようにも見える。しかし、シテイルの派生    的意味であるパーフェクト相との関係を考えると、設定時を仮定してお    くことには十分意味がある。  (p.22) 5 「参照時(点)」(森山2000)   森山2000も工藤の説を受けていると思われる。    去年の正月にはすでに彼は帰国していました。     彼の帰国(出来事) → 去年の正月(参照時) → 今(発話時) [文献]  高橋太郎1985『現代日本語動詞のアスペクトとテンス』秀英出版  庵功雄2001『新しい日本語学入門』スリーエーネットワーク  工藤真由美1995『アスペクト・テンス体系とテクスト』ひつじ書房  金水敏2000「時の表現」『日本語の文法2 時・否定と取り立て』岩波書店  森山卓郎2000『ここからはじまる日本語文法』ひつじ書房

§24.4 「テシマウ」

「〜てしまう」について文法書の解説を一部省略して引用します。 『文法ハンドブック(初級)』   この宿題は簡単だったから、1時間でやってしまった。(完了)   すぐ片づけちゃうから、ちょっと待ってて。       〃   父の花瓶を落として割ってしまった。    (話し手の後悔)  「〜てしまう」には完了を表す以外に、「話し手の後悔」を表す用法もあります。  どういう場合にどちらの用法になるかにはさまざまな要因があり、一概には言え  ませんが、次のことは言えます。    嵬軌媚崙飴譟椶討靴泙Α廚里箸は後悔の意味になりやすい   ◆屐舛討靴泙う」のときは完了の意味になる                                (p.47) 『日本語文型辞典』 (かなり省略して引用)  1 完了   動作の過程が完了することを表す    仕事は、もう全部完成してしまった。    あの車は売ってしまったので、もうここにはない。   継続する動作を表す動詞の場合は、「〜おわる」に近い意味になる     この本はもう読んでしまったから、あげます。    「でかけますよ」「ちょっと、この手紙を書いてしまうから、待ってく    ださい」    この宿題をしてしまったら、遊びにいける。  2 感慨   文脈によって、残念、後悔など、いろいろな感慨をこめて使われる。「とり   かえしがつかないことがおこった」というニュアンスが加わることもある。    バカなことを言ってしまった    うっかり水の中に落としてしまった    かさを忘れてきてしまった    だまっているのはつらいから、本当のことを話してしまいたい。    知ってはいけないことを知ってしまった。    友達に嫌われてしまった    アルバイトの学生にやめられてしまって、困っている。  3 V-てしまっていた   「〜ていた」を用いることもできるが、「すっかり完了した」と完了の意を強  めたり、「とりかえしのつかないことがおこった」というニュアンスが加わった  りする。    私が電話した時には、彼女はもう家を出てしまっていた。    友達が手伝いに来たときには、ほとんどの荷造りは終わってしまっていた。                             (p.254-255)   ▽この二つの用法をうまく使い分けることは、学習者にはかなり難しいことのようです。  はっきりと片方の意味の場合と、両方の意味が重なっている場合があり、区別を難しく しています。    

§24.5 工藤真由美の動詞分類

工藤真由美の本からアスペクトによる動詞分類を引用します。一つ一つ見ていくと、 おや?と思うものもあります。そのコメントはまた書く機会があれば。 アスペクトによる動詞分類(工藤真由美1995『アスペクト・テンス体系とテクスト』) (A)外的運動動詞   (A・1)主体動作・客体変化動詞<内的限界動詞>[他動詞]     1客体の状態変化・位置変化をひきおこす動詞      ・あたためる、あける、あむ、いためる、おる、かえる、かたずける、       かためる、かわかす、きざむ、きる、くずす、くだく、けす、けずる、       ころす、こわす、さく、さます、しばる、しぼる、しめる、それる、       そろえる、たおす、たく、たたむ、たばねる、ちらかす、つぶす、       とく、とじる、とめる、なおす、にる、ぬう、ぬらす、ひやす、ひらく、       ひろげる、ふさぐ、ほる、ほどく、まげる、まくる、まとめる、みがく、       むく、むすぶ、やく、やぶる、ゆでる、わかす、わける、わる、よごす、       ゆるめる(もようがえ動詞)      ・あてる、いける、いれる、うえる、うずめる、うめる、おく、かくす、       かける、かさねる、かざる、かぶせる、くむ、きせる、さげる、しく、       たてる、つぐ、つける、つなぐ、つむ、つるす、のせる、ぬる、はさむ、       はる、まく、まぜる、もる(とりつけ動詞)      ・おとす、かる、つむ、ちぎる、とる、ぬく、のける、(とり)のぞく、       はずす、はぐ、はなす、むしる(とりはずし動詞)      ・あげる、あつめる、うつす、おろす、だす、とどける、はこぶ、もどす、       よせる(うつしかえ動詞)      ・きずく、おしらえる、たてる、つくる(生産動詞)     2所有関係の変化をひきおこす動詞       あげる、あずける、うる、かう、かす、かりる、はらう、もらう、やる   (A・2)主体変化動詞<内的限界動詞>     1主題変化・主体動作動詞[再帰動詞]      ・かぶる、きがえる、きる、ぬぐ、はく、はおる、はめる、まとう      ・おぶう、かかえる、かつぐ、くわえる、だく、つかむ、にぎる、もつ     2人の意志的な(位置・姿勢)変化動詞[自動詞]       ・あがる、あつまる、いく、うつる、かえる、かくれる、くる、さる、       ちかづく、でかける、でる、はいる、はなれる、ひきかえす、まわる、       もどる、よる      ・かかむ、こしかける、しがみつく、しゃがむ、すがりつく、すわる、       たちどまる、たつ、つかまる、ならぶ、のる、ねころぶ、もたれる、       よりかかる、(おきる、ねる)      ・(人の社会的変化)けっこんする、しゅうしょくする、そつぎょうする、       にゅういんする、りこんする     3ものの無意志的な(状態・位置)変化動詞[自動詞]      ・あたたまる、あく、うれる、おれる、かたずく、かたまる、かれる、       かわく、かわる、きれる、くさる、くずれる、くだける、くもる、       きえる、こわれる、さける、さめる、しぬ、しぼむ、しまる、すむ、       そまる、そろう、たおれる、ただれる、ちらかる、つぶれる、とける、       とまる、なおる、にえる、にごる、ぬれる、はげる、はれる、ひえる、       ひろがる、ふける、ふる、やける、やつれる、やぶれる、よう、わく、       わかれる、われる、よごれる、(もようがえ動詞に対応する自動詞)      ・うわる、うずまる、うまる、かくれる、かかる、かさなる、かぶさる、       さがる、たつ、つく、つながる、つもる、のる、はさまる、まざる       (とりつけ動詞に対応する自動詞)      ・おちる、ちぎれる、とれる、ぬける、のく、はずれる、はげる、はなれる       (とりはずし動詞に対応する自動詞)      ・(出現)あらわれる、うまれる、たつ、できる、はえる   (A・3)主体動作動詞<非内的限界動詞>     1主体動作・客体動き動詞[他動詞]       うごかす、ふる、とばす、ながす、こぐ、まわす、ゆらす/ならす、       もやす     2主題動作・客体接触動詞[他動詞]      ・いじる、うつ、おす、かく、かじる、かむ、ける、こづく、こする、       さす、さする、さわる、たたく、(つっ)つく、つねる、なぐる、なでる、       ぬぐう、ひく、ひっぱる、ふく、ぶつ、ぶつける、ふむ、もむ      ・かじる、する、すする、たべる、なめる、のむ、はく      ・あう、ほうもんする、まつ、みおくる     3人の認識活動・言語活動・表現活動動詞[他動詞]      ・かぐ、きく、ながめる、にらむ、のぞく、みる/あさる、かぞえる、       くらべる、さがす、さぐる、しらべる、ためす、はかる      ・いう、かく、きく、こたえる、さけぶ、ささやく、しかる、しらせる、       しゃべる、せつめいする、たずねる、つたえる、はなす、よぶ、よむ      ・うたう、おどる、ひく、まう     4人の意志的動作動詞[自動詞]       あそぶ、あばれる、あるく、いそぐ、うごく、うなずく、およぐ、       かける、けんかする、すすむ、すべる、はう、はしる、はたらく、       うろつく、たどる、おおる、ぶらつく、むかう     5人の長期的動作動詞[他動詞、自動詞]       いとなむ、かよう、くらす、けいえいする、すごす、すむ、つうきん       する、つきあう、つとめる     6ものの非意志的な動き(現象)動詞[自動詞]      ・うごく、さえずる、とぶ、ながれる、なく、まわる、ゆれる、なる、       ほえる、もえる、もがく、わらう      ・かがやく、きらめく、くすぶる、ごったがえす、ざわめく、そよぐ、       とどろく、はやる、ひかる、ひびく、ふく、ふる         (注1)二側面動詞           くだる、ころがる、したたる、すすむ、たれる、のぼる、           ふえる、へる         (注2)遂行動詞           あやまる、おわびする、きょかする、きんじる、ことわる、           さんせいする、はんたいする、ひきうける、やくそくする (B)内的情態動詞<非内的限界動詞>   (B・1)思考動詞      ・おもう、かんがえる、うたがう、しんじる/わかる、さっする      ・いのる、きたいする、ねがう、のぞむ   (B・2)感情動詞      1あきらめる、あこがれる、いらいらする、うらむ、うんざりする、       おそれる、かんしゃする、かんしんする、かんどうする、きになる、       くるしむ、けいふくする、けいべつする、こうかいする、しっとする、       しんぱいする、どうじょうする、なやむ、にくむ、はらがたつ、       はらはらする、はんせいする、まよう、めいる、よろこぶ      2あきあきする、あきれる、あんしんする、おどろく、がっかりする、       こまる、せいせいする、たいくつする、たすかる、びっくりする、       ほっとする、まいる、よわる   (B・3)知覚動詞       あじがする、おとがする、かんじる、きこえる、ざらざらする、       つるつるする、におう、ぬるぬるする、みえる   (B・4)感覚動詞      1いたむ、うずく、かんじる、くらくらする、(めが)くらむ、つかれる、        づつうがする、どきどきする、ふるえる、ほてる、むかむかする、       (いが)もたれる      2しびれる、つかれる、(のどが)かわく、(はらが)へる (C)静態動詞   (C・1)存在動詞      ・ある、いる      ・そんざいする(そんざいしている)、てんざいする(てんざいしている)    (C・2)空間的配置動詞       そびえている、ひしめきあっている、めんしている、りんせつしている   (C・3)関係動詞      ・あたいする、あたる、あてはまる、そうとうする、      ・いみする(いみしている)、いぞんする(いぞんしている)、ことなる(こと       なっている)、しめす(しめしている)、ちがう(ちがっている)、てきする       (てきしている)      ・にている   (C・4)特性動詞      ・あますぎる、おおきすぎる、およげる、はなせる      ・にあう(にあっている)      ・ありふれている、すぐれている、しっかりしている、せいつうしている、       ばかげている、まさっている                                (p.73-78) ▽ひらがなばかりだと、同音語の場合わかりにくくなりますね、前後の動詞の意味と似 ている動詞を思い浮かべればいいわけですが、その場合は漢字を添えておいてほしいも のです。  以上の分類表の後に、次の解説が続きます。(ここでは、なぜか動詞の例が漢字で示 されています。)  それぞれの動詞グループは、切断的であると同時に、連続的である。  まず、マクロにみて、(A)と(C)は、アスペクトの有無で、切断的に対立していて、 (B)はその中間に位置づく。そして、(C)静態動詞が、基本的に(「いる」を除いて)、 非意志的なものであるとすれば、(B・1)の意志的である思考動詞は、より運動動詞に 近く、(B・3)(B・4)の非意志的な知覚動詞、感覚動詞は、より静態動詞に近いであ ろう。(なお、「愛する、嫌う、疎んじる」は、意味的に感情を表しているのだが、<長 時間感情>を表しているためであろうか、1人称主語であっても、他の感情動詞とちが って、スルが<現在>を表さない。  次に、(A)外的運動動詞のなかの、(A・1)(A・2)(A・3)は、典型的には切断的 に対立する。が、(A・2)の主体変化動詞のうち、1「着る、行く、坐る」のような <自らに変化をもたらす人の意志的な動作>を表す動詞は、3「折れる、ぬれる、腐る」 のような<ものの無意志的変化>を表す動詞と比べて、(A・1)のタイプに近いであろう。 また、(A・3)の主体動作動詞のうち、1「動かす、回す」のような他動詞は、(A・  1)に近いし、逆に、6「光る、響く、降る」のような現象動詞は(C)に近い。  さらに、(注1)の二側面動詞(自動詞)は、主体の動作と共に変化をとらえている両義 的なものである。従って、シテイルにおいて、<動作の継続><結果の継続>のどちらを実 現するかは、動詞の語彙的意味自身では決定できず、構文的条件が決めることになる。    崖の上にのぼっている/崖をのぼっている    1万人にふえている/じょじょにふえている  「着る、脱ぐ、履く」のような(A・2)に属する再帰動詞も、主体の観点から動作と 変化の両方をとらえているが、この再帰動詞では、シテイルは、普通<結果継続>であっ て、<動作継続>となる場合には、構文的条件が必要である。従って、この再帰動詞では、 主体の変化の方がより全面化されているといえよう。    お母さんが浴衣を着ている。      <結果継続>    お母さんが鏡の前で浴衣を着ている。  <動作継続>  この二側面動詞の存在は、(A・2)と(A・3)の連続性を示している。  また、(注2)の「謝る、許可する、約束する」のような、社会的効力をもつ個人的行 為を表す遂行動詞は1人称主語のスルにおいて、<実行>の価値をもつ。従って、<表明 ・表出>の価値をもつ内的情態動詞に近いが、過去形(シタ)の場合には、人称性から 解放されて<確認・記述文>になる点で、必ずしも、内的情態動詞と同じではない。    私のせいです。謝ります。/花子さんは、お友達に謝りましたよ。  このような遂行動詞の存在は、外的運動(行為)と内的情態との連続性を示していると 言えよう。  以上、アスペクトの観点からの動詞分類を行ったが、これは、既に指摘されているよ うに、テンス対立のあり方と相関する。(以下略)                             (p.78-79)

§24.6 『現代日本語文法3』

 「現代日本語文法」の2冊目がやっと出ました。 アスペクトとテンスで200ページ、肯否、つまりは否定で100ページ、という すごい本です。 『現代日本語文法3 第5部 アスペクト 第6部 テンス 第7部 肯否』  日本語記述文法研究会編 くろしお出版 2007 ページ 第5部 アスペクト              第1章 アスペクトの概観        3  第2章 スル形とシテイル形        17   第3章 アスペクトに関わる形式      35  第4章 アスペクトに関わる副詞的成分   65  第5章 アスペクトから見た動詞の分類   77-114 第6部 テンス                  第1章 テンスの概観          117  第2章 主文末における非過去形・過去形 125  第3章 従属節内での非過去形・過去形  151   第4章 テンスに関わる副詞的成分    201  第7部 肯否               第1章 肯否の概観           209  第2章 否定の形式           219  第3章 否定の機能           237  第4章 否定の周辺           261-298 (第1章に関して書いた部分はひどいかんちがいがあったので削除します。) 「第2章 スル形とシテイル形 第1節 動き・状態とスル形・シテイル形」から。    p.17-18   第2章 スル形とシテイル形     第1節 動き・状態とスル形・シテイル形
1.1 動き・状態を表すもの
   述語は、動きを表すものと状態を表すものとに大別できる。    「立つ」という動きは、立っていない状態からたった状態への変化として時   間の流れの中で成立する。「走る」という動きも、走ることを開始し、それを   持続し、終結するというように、やはり時間の流れの中で成立する。このよう   に、動きは、時間的な展開の過程をもち、いくつかの局面から構成される。一   方、「赤い」「大きい」などの状態は、時間的な展開の過程をもたず、複数の   局面から構成されるということもない。    動きと状態のこのような違いは、発話時との関わり方の違いに反映する。動   きは、時間的な展開の過程をもつので、それを発話時の瞬間において成立する   事態としてとらえることはできない。そのため、動きを表す動詞(動き動詞)   のスル形は、「現在」「目下」などの現在時をさす副詞的成分と共起すること   はない。     ・*現在、気温は33度まで上がる。(動き)     ・*目下、警察が付近を捜索する。(動き)   これに対して、状態を表す述語(状態性述語)の場合には、これらの副詞的成   分と共起できる。状態には時間的な展開がないので、発話時においてその状態   が成立していれば、それを現在の事態としてとらえることができるからである。     ・ 現在、気温は相当高い。(状態)     ・ 目下、その問題は未解決だ(状態)    動きを表す動詞(動き動詞)はシテイル形にすれば状態の表現となり、「現   在」「目下」などと共起できるようになる。 ▽「現在」は「現在時」しか指さないのかどうか。    現在、円は1ドル100円まで上がりました。  これは「過去時」?  この疑問は、「23.テンス」の補説の「過去のタ」にも書きました。
  1.2 時間的な把握のあり方
    動きの表現は、基本的に、事態の全体をひとまとまりにとらえる。そ    のため、話し手が事態の全体を知っているようなニュアンスになる。      ・田中が倒れた。      ・この建物は汚れましたね。      ・ひげが伸びたね。    これらの例のようにある事態を動きとして表現するのは、通常、話し手    がそのことの一部始終を見ていた場合や、そのことについて一定の情報    を得た場合である。     一方、その状態を初めて見るような場合には、、事態の推移ではなく、    事態の一部を把握しているというとらえ方になるので、次のようにシテ    イル形による状態の表現になる。      ・田中が倒れている。      ・この建物は汚れていますね。      ・ひげが伸びているね。     このように、アスペクトの表現には、表現者である話し手がその事態     をどのように観察しているかということが反映される。                              (p.18) ▽非常に書きにくい、説明しにくいところです。  前半部分でわかりにくいのは、「そのことについて一定の情報を得た」とい う言い方の、特に「一定の情報」が具体的に何を表すのかがはっきりしない点 です。その上の例で言えば、「建物が汚れた」「ひげが伸びた」ということで しょうか。  後半部分では、「その状態を初めて見るような場合」と初めに言ってしまう と、あとの「〜ので、〜状態の表現になる」という説明が意味を持たなくなっ てしまいます。「状態」を表すのは「状態の表現」でしかないでしょうから。  「その事態を初めて見るような場合」のように「事態」にすると、上の「ひ げが伸びたね」も同様に言えてしまうことになるのでマズイのでしょうか。  ここは、最初の「§24.1 テイルと「見る」こと」に関係するところでしょ う。どうもわかりません。 (p.22)   第2節 動きを表す動詞のスル形    1. スル形の意味と用法
  1.1 スル形の基本的意味
  動詞のスル形が現実世界に生起する具体的な動きを表す場合、その動きは、基   本的に、前後に切れ目のある、ひとまとまりの運動としてとらえられている。こ   の意味は、動作を表す動詞(動作動詞)の場合も変化を表す動詞(変化動詞)の   場合も共通である。    (中略) ▽「ひとまとまり」という説明のしかたはよく使われるものですが、「前後に切れ目の ある」というのは、新しい言い方かもしれません。  心理的な動詞、例えば「愛する」「悲しむ」などで「終わり」ははっきり切れ目があ るものかどうか。  「ひとまとまり」という言い方も、反省するとあやしいものなのでしょうが、それを 補うためにはっきり定義すると、反例が出てきそうです。
  1.2 発話現場に密着した用法
   発話現場で観察される現象をリアルタイムに表現する場合には、具体的な動き   を表すスル形が現在を表す。非過去形の場合(例(1))も過去形の場合(例(2))をあ   るが、いずれの場合も発話時に密着した動きをとらえている。     ・ あっ、だれか来る。 ・・・・(1)     ・ バッター、打った。 ・・・・(2)                                (p.22-23)   ▽このすぐ後、「思う」「わかる」「どきどきする」などの「内的状態を表す動詞」が 非過去形で発話の瞬間、つまり「現在」のことを表せることを述べているのですが、こ れらも「発話現場に密着した用法」という節の中にあるので、同じ用法と考えるのかど うか。  上の例(1)(2)と、これらの動詞の場合とはずいぶんちがった話ではないかと思います。 (つづく)

§24.7 「〜ないでいる」と「〜ていない」

「〜ないでいる」という形について書くのを忘れていました。  『日本語文型辞典』(くろしお出版)には、    「…しない(できない)ままの状態でいる」という意味を表す。    「…(せ)ずにいる」とも言える。  と説明してあります。(p.371) 「〜ないでいる」は、多くの場合、意識的にそうしない、「〜しない」という状態を 続ける、という意味があります。  (電車の中で)   座席に座っていない   単に状態を述べる   座席に座らないでいる  何か考えがあり、意識的にそうしている   座席に座らずにいる   値が上がったが、まだ株を売らないでいる  (もっと上がると思っている)               売らずにいる               売っていない   夕べから何も食べていない         食べないでいる  (今日の健康診断のため)         食べずにいる     今、日曜の朝8時、子供はまだ起きていない                 起きないでいる  (目は覚めているが、、)   ですから、ごくふつうの現在を表す場合に使うと、不自然です。   今、勉強していない       ?しないでいる    何のため?     テレビを見ていない         ?見ないでいる 可能形の動詞では、「〜ていない」が意味的に不自然になります。   (何を言っても言いわけになりそうで)     何も言えないでいる       言えずにいる       ?言えていない    何も食べられないでいる  (病気)      食べられずにいる        ?食べられていない     「雨が降る」のような自然現象には使えないはずですが、google で「降らないでいる」を 検索すると、けっこう実際には使われているようです。   ?雨が降らないでいる   また、命令や依頼の形にすることができます。   あのことは話さないでいてください。   (「話さない」という状態を続ける)        ?話していないでください。   廊下でいつまでも話していないでください。(「話している」という状態を続けない) (つづく)
24. アスペクトへ

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