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補説§25

 §25.1 寺村秀夫の「態」のまとめ §25.2 寺村秀夫の「態の体系」の図

§25.1 寺村秀夫の「態」のまとめ

 寺村の「態」の研究は、「ボイス(ヴォイス)」の記述的研究の一つの出発点になる ものだと思います。少なくとも私にとってはそうでした。(もう一つあげるなら、高橋 太郎の『動詞九章』でしょう。)その「まとめ」を引用します。 寺村秀夫 1982『日本語のシンタクスと意味機戮ろしお出版 第3章 態 6.まとめ  本章では、「態(ヴォイス)」を「格と相関関係にある動詞の形態」と定義し、1か ら4まででそれが文法的形式として一般的に記述できる部分について考察し、5では、 語彙的、個別的部分について考えた。(引用者注:「1から4まで」は、順に受身態・ 可能態・自発態・使役態、「5」は動詞の自他)  文法的態と語彙的態の違いは、要するに、規則性、生産性の高さの程度の問題であ る。両者は、一応の境界線をひくことができはするものの、もともとは自他の対立が多 様に存在し、そのうちにその形態のある部分が規則的にあらわれるものとして認識さ れ、固有の類型を形成するようになったのではないかと思われるが、通時的考察は本書 の範囲の外にある。しかし、純粋に共時論的に考えても、文法形式と語彙との連続性を 考慮に入れずには、文法的形式の正しい把握もできないだろうと考える。  本章での上のような視点からの観察をまとめ、その全体の体系を視覚化すると320〜 321ページの図のようになる。自他のペアのうち、中央の縦の線からの左右への距離は、 どちらが「もと」でとちらが「派生」かという相対的な関係をおおよそ示す。線から左 右等距離にあるもの(たとえば mawasu-mawaru)は、いずれからいずれが派生されたと いうのではなく、対照的にいわばつり合っているような対立である。  他動詞のほうから自動詞を見ると、背後その延長線上に自発、可能、受け身の形が見 える。自動詞の側に立って他動詞を見ると、その向こうに使役の形が見える。他動詞の 対立する自動詞がないとき、表現的には受け身がその役をすることがあり、逆に自動詞 に対する他動詞がないとき、使役がその役を代行することがある。その間の事情を四種 の動詞について見たのが次ページの表である。                             (p.318) ▽この「次ページの表」はまた時間があったら写します。 ▽下に「次ページの表」を写しました。けっこう時間がかかりました。 ┌──┬─────────────┬─────┬─────┬────┬────┬──────┐ │ │ │ │おのづから│みづから│他を/に│ 他を/に │ │春庭│   他に然せらるる │ │然せらるる│然する │然する │ 然する │ ├──┼──────┬──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │主体│   +生 │   ±生 │ +生 │ −生 │ ±生 │ ±生 │ ±生 │ ├──┼──────┼──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │ │間接受動態 │直接受動態 │ 可能態 │ 自発態 │ 自動 │ 他動 │ 使役態 │ ├──┼──────┼──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │絶自│走ラレル │ −−− │ 走レル │ −−− │ 走ル │ −−− │走ラセル(走ラス) │ │対動│(光ラレル) │ −−− │ −−− │ −−− │ 光ル │ −−− │光ラセル(光ラス) │ │ 詞│(済マレル) │ −−− │ −−− │ −−− │ 済ム │ −−− │済マセル(済マス) │ ├──┼──────┼──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │ │アゲラレル │アゲラレル │アゲラレル│←‥‥‥‥│‥‥‥‥│アゲル │アゲサセル │ │ │アガラレル │ −−− │アガレル │ −−− │アガル‥│‥‥‥→│アガラセル │ │ ├──────┼──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │相自│タテラレル │タテラレル │タテラレル│←‥‥‥‥│‥‥‥‥│タテル │タテサセル │ │対/│タタレル │ −−− │タテル │ −−− │タツ‥‥│‥‥‥→│タタセル │ │ 他├──────┼──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │ 動│コワサレル │コワサレル │コワセル │←‥‥‥‥│‥‥‥‥│ コワス │コワサセル │ │ 詞│コワレラレル│ −−− │ −−− │ −−− │コワレル│‥‥‥→│コワレサセル│ │ ├──────┼──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │ │高メラレル │高メラレル │高メラレル│←‥‥‥‥│‥‥‥‥│高メル │高メサセル │ │ │(高マラレル)│ −−− │ −−− │ −−− │高マル‥│‥‥‥→│(高マラセル)│ ├──┼──────┼──────┼─────┼─────┼────┼────┼──────┤ │絶他│切ラレル │切ラレル │切レル │切レル │ −−− │切ル │切ラセル │ │対動│見ラレル │見ラレル │見ラレル │見エル │ −−− │見ル │見サセル │ │ 詞│コロサレル │コロサレル │コロセル │−−− │ −−− │コロス │コロサセル │ │ │タベラレル │タベラレル │タベラレル│−−− │ −−− │タベル │タベサセル │ ├──┼──────┼──────┼─────┼─────┼────┴────┼──────┤ │両用│ヒラカレル │ヒラカレル │ヒラケル │ヒラケル │ ヒラク │ヒラカセル │ └──┴──────┴──────┴─────┴─────┴─────────┴──────┘ ▽「春庭」というのは江戸時代の国学者・本居春庭のことです。

§25.2 寺村秀夫の「態の体系」

寺村の本の最後から、態の体系を示した図を写しました。 寺村秀夫 1982『日本語のシンタクスと意味機戮ろしお出版 p.320-321 日本語の態(ヴォイス)の体系   受身(PASSIVE) 直接関与                  ┌ ik-are(ru) (Direct involvement)   間接受身(Indirect)‥‥‥┤ ┌────────┴─────────┐             ┌ │ yom-are(ru)   直接受身(direct)‥‥┤ │          自動 他動           ┌ └ │ mi-rare(ru)  (INTRANSITIVE)          (TRANSITIVE)           │   │ ┌───┴────────────┐ │┌───┴─────┐ 可能 │ └ nige-rare(ru)                   │  (POTENTIAL)‥‥┤           husag-ar(u)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥│ husag(u)  │ ┌ yom-e(ru) tunag-ar(u) │ tunag(u) │    │  │ └ │ tob-e(ru) │ 自発 │ │ (SPONTANEOUS)‥‥‥‥ ┤ mi-e(ru) │ │ mituk-ar(u)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥│‥‥‥mituk-e(ru) └ tor-e(ru) tasuk-ar(u) │ tasuk-e(ru) │ ak(u)‥│‥‥‥ak-e(ru) tat(u) │ tat-e(ru) │ mawa-r(u)‥‥‥‥‥‥‥‥‥│‥‥‥‥‥‥‥mawa-s(u) too-r(u) │ too-s(u) kae-r(u) │ kae-s(u) │ huy-e(ru)‥‥‥‥‥‥‥│‥‥‥‥‥‥‥‥huy-as(u) d-e(ru) │ d-as(u) │ tao-re(ru)‥‥‥‥│‥‥‥‥‥‥‥‥tao-s(u) naga-re(ru) │ naga-s(u) │ ot-i(ru)‥‥‥│‥‥‥‥‥‥‥‥ot-os(u) ok-i(ru) │ ok-os(u) │ ik-i(ru)‥‥‥│‥‥‥‥‥‥‥‥ik-as(u) nob-i(ru) │ nob-as(u) │ tob(u) │‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥tob-as(u) kawak(u)│ kawak-as(u)     使役                                                           (CAUSATIVE)  ┌ ik-ase(ru) ‥‥←‥‥‥‥‥(間接的に影響を受ける)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥間接関与‥‥‥‥‥‥‥‥(間接的に惹き起こす)→ ┤ yom-ase(ru)    (Indirect involvment) │ nare-sase(ru) 結果に主な関心  原因に主な関心  └ mi-sase(ru)        (Result- oriented) (Cause- oriented)    (注)原文では動詞の中のハイフンはなく、その後がイタリックで示される。また、  左下の矢印からの点線は一番上の間接受身までつながっていて、関連を示す。 ▽動詞の自他とボイスとを一つの体系の中にまとめた、有名な図です。   
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