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補説§49

§49.1 「セルフマスターシリーズ7 条件表現」から §49.2 「バ」と望ましい結果   §49.3 「バ」と文末のムード §49.4 「タナラ」 「日本語文型辞典」から §49.5 「タナラ」 「セルフマスターシリーズ7 条件表現」から §49.6 奥田靖雄他「するなら」 論文の抜粋 §49.7 「ヨウデハ」 「日本語文型辞典」から

§49.1「セルフマスターシリーズ7 条件表現」から

 
 蓮沼・有田・前田(2001)   『セルフマスターシリーズ7 条件表現』くろしお出版  この本は、「条件表現」の日本語教育用参考書としてもっともまとまったものだと 思います。これから、少しずつ内容の紹介をしていきたいと思います。  まず、「はじめに」に、基本的な分類と、扱う形式、扱わない形式の一覧があります。 p.「はじめに」   「条件表現」には、条件文、理由文、逆接の文があります。   「仮定的な事態」 まだ実現していないこと      薬を飲めば頭痛が治る        (順接)      薬を飲んでも頭痛は治らないだろう  (逆接)   「事実的な事態」 実際にあったこと      薬を飲んだら、頭痛が治った      薬を飲んだので、頭痛が治った    (順接)      薬を飲んだのに頭痛が治らなかった      薬を飲んだけれども、頭痛が治らなかった(逆接) p.   1.仮定的・順接  ト・バ・タラ・ナラ、など (仮定条件)    2.仮定的・逆接  テモ、など        (逆接条件)   3.事実的・順接  カラ・ノデ、など    (原因・理由)    4.事実的・逆接  ノニ・ケレドモ、など  (逆接の表現)  基本的な形式     条件    ば たら と なら・のなら ては     原因・理由 から・ので て ために のだから     逆接    ても でも たって     のに けれども・が   その他の応用的な形式     仮定条件  ,箸垢譴弌,箸靴拭,箸垢襪函 ´△里任           くらいなら ことなら ものなら  い覆い海箸砲           ジ造蝓  ´Δ修梁勝幣豺隋次第)     原因・理由 ,らこそ  △ら(に)は  ばかりに  い△泙蠅           イ擦い如,かげで  Δ世韻法,世韻△辰董 ´О幣紂‐紊           ┯造蠅蓮 ´ものだから もので ことだから  結果・手前           こととて・(もの)ゆえ  からか・ためか・のか           その他(にかこつけて・を口実に)(につき)(と見えて・らし            く・とあって)     逆接    ,箸靴討癲Δ砲靴討癲 ´△茲Δ箸癲Δ茲Δ函Δ茲Δ           したところで  い砲靴蹇Δ砲擦茵 ´イらといって           Δ修梁勝覆海修垢譟Δ箸呂い─ ▽この本で扱うのは、上の「基本的な形式」だけです。「その他の応用的な形式」につ  いては、「日本語文型辞典」が参考になる、と書いてあります。  本文に入ります。まず、「ば」と「たら」が扱われます。     p.1 第一部 「ば」「たら」・・・・仮定条件   ここでは「ば」「たら」を使った仮定条件の表し方を学びます。   仮定条件とはある出来事が起こった場合を仮定して、自分の考えや相手への働きかけを   表現するものです。                      p.2   バはXを条件として仮定した場合に、起こると予想される結論をYに表す。     春になれば、もう少し暖かくなるだろう。 p.8   (タラは)Xという状況を仮定した場合に、起こりそうな結果をYに表す。     受付の人に聞いたら、親切に教えてくれるよ。 p.19(まとめ1)   Xが、Yの成立する直接的な条件や状況を表す場合は、バもタラも使われる。        課長になれ バ 給料が10万円あがる。           なっ タラ   XがYの直接的な条件ではなく、単なる状況の設定を表す場合には、タラだけが使   われる。        ○この道をまっすぐ行っ タラ 右手に白い建物があります。       ×        行け  バ      (p.9では、「〜、△白い建物がある。」であった。) ▽はじめのバの「条件として」は説明が必要だと思うのですが、その説明はどこにもあ  りません。こういう基本的な概念がいちばん説明しにくいものなのですが、次のタラ  の「状況を仮定した場合」との比較上、何か説明がほしいところです。  「なれば」が「条件」で、「なったら」が「状況」だというのですが、それらはどう  違い、どう使い分けられるのか、わかりません。  「まとめ1」では、「直接的な条件や状況」か「単なる状況の設定」かどうかが問題に  なっています。「まっすぐ行く → 建物がある」という例は、いかにも「状況の設定」 らしく感じられますが、本文p.8の「受付の人に聞いたら」は、「直接的な条件」のよ  うにも思えます。  この辺の用語の定義・使われ方が十分明確でないように感じます。  説明の文の中で使われる、「〜した場合に」というのもちょっと気になります。「〜場  合」と、ここで扱う「条件表現」との関係はどうなっているのでしょうか。   はじめの形式の分類のなかで、「その他の応用的な形式」の「仮定条件」の最後、「そ  の他」の中に「場合・次第」というのがありました。「場合」自体も条件表現の形式  の一つなので、分析・記述の対象となるものなのです。 p.19からの「まとめ1」の全体を引用します。

まとめ1 仮定条件を表すバ・タラ

                    (p.19)
機。悗、Yの成立する直接的な条件や状況を表す場合は、バもタラも使われる。
         X  →  直接的関係  →  Y        課長になれ     バ     給料が10万円あがる。           なっ     タラ
供。悗Yの直接的な条件ではなく、単なる状況の設定を表す場合には、タラだけが使われる。
         X  →  単なる状況  →  Y    ○この道をまっすぐ行っ   タラ    右手に白い建物があります。    ×この道をまっすぐ行け   バ     
掘.个砲麓,里茲Δ弊限がある。タラにはこのような制限はない。
 1.Yが依頼・命令・意志・希望・勧め・許可・義務などを表すときには、Xは状態述語だけ    が使える。          X       ○時間があれ  バ   仕事を手伝ってくれ。    (依頼)       ○時間があっ  タラ  仕事を手伝いなさい。    (命令)       ×あした来れ  バ   先生の部屋に寄ろう・寄りたい。(意志・希望)       ○あした来   タラ       ×二、三分たて バ            足したほうがいい  (勧め)       ○二、三分たっ タラ  ふたをあけて水を 足していいです   (許可)                            足さなければならない(義務)  ▽このことに関しては、次のところを見てください。  §49.3 「バ」と文末のムード  2.Yに疑問の表現が現れた場合、バは使いにくい。         疑問語       ○どうすれ  バ   成績があがりますか。       ○どうし   タラ                      疑問語       ×こうすれ  バ   どうなりますか。       ○こうし   タラ    3.Yが悪い結果を表すときにはバは使いにくい。Xが否定表現の場合は、バも使うことがで    きる。                       いい結果       ○この薬を飲め  バ   すぐ気分がよくなります。       ○この薬を飲ん  ダラ                         悪い結果       ×この薬を飲め     バ   気分が悪くなります。       ○この薬を飲まなけれ  バ          ○この薬を飲ん     ダラ  ▽これに関しては、次のところを。  §49.2 「バ」と望ましい結果 
検。悗今成り立っている事実を表すときには、バもタラも使われる。
        成立している事実        ここまで来   タラ  あとは一人で帰れます。        ここまで来れ  バ   
后〇実に反する条件文には、バもタラも使われる。
 Xが動作性の述語の場合には「していれば・していたら」の形をとる。      事実に反すること    朝一番の電車に乗ってい  タラ  会議に間にあった。       (動作性述語)    6時台に電車があれ    バ   会議に間に合った。       (状態製述語)   文末に「〜のに」などが使われ、事実に反することがはっきりわかる場合には、「すれば・  したら」という形式も使われる。    朝一番の電車に乗れバ、会議に間に合ったのに。
此ゝい鬚弔韻襪海
 1.二つ以上の条件をつなげる場合        X1 テ X2 バ・タラ Y     ○読んでわかっタラ帰っていいです。     ×読んだらわかっタラ帰っていいです。  2.「ます」「です」に接続できるのはタラだけである        Xまし・でし  タラ  Y      山田に御用でしタラ、すぐに連れて参りますが。       (×ですれバ)      みなさんがお宅にお帰りになりましタラ、ぜひ、今日のことをお話下さい。       (×お帰りになりますれバ)      3.「もし」   「もし」は、仮定的であることをはっきりと表す副詞なので、Xが単なる状況、時間の経過   の場合には使えない。      ○ この道をまっすぐ行っタラ、右手に白い建物があります。      × もしこの道をまっすぐ行っタラ、右手に白い建物があります。         ○ 5時になっタラ、仕事をやめて帰っていいです。      × もし5時になっタラ、仕事をやめて帰っていいです。

まとめ2 バ・ト・タラ 

   (P.40-41)
機。悗硲戮、一般的な因果関係・法則的な関係・習慣的な関係にあることを表すのには、バ、  トが使われる。
 バが使われた場合は、Xが「Yの成立の条件」であることが特に強調される。タラはあまり使わ れない。      体温が 上がれバ 汗がでる。            (一般的因果関係)          上がるト      二十歳に なれバ 自由に結婚できる。          (法則的関係)            なるト      私はお酒を 飲めバ 気分が悪くなる。          (現在の習慣)            飲むト       子供のころ、休みに なれバ 父が海や山へ連れていってくれた。                なるト               (過去の習慣) 
供,泙誓立していないけれども、現在の時点である程度決まっていて、予測できるような出来  事を表すのにトが使われる。
     台風が来るト、この家は倒れてしまうだろう。      あなたが来てくださるト、うれしいのですが。      あまりそばへ寄るト、風邪がうつるよ。 →警告 ▽「警告」以外は「バ」でもいいと思いますが。
掘.箸砲麓,里茲Δ弊限がある。
 1.Yに命令や意志などを表すことはできない。      台風が来るト、×帰りなさい             ×帰ろう        2.Xに「もし」は使いにくい。     △もし台風が来るト、この家は倒れてしまうだろう。  3.Xに疑問語は現れにくい。              疑問語     ○こうする ト どうなりますか。            疑問語     ×どうする ト うまくいきますか。 ▽「現れにくい」のであって、「現れない(使えない)」のではありません。このへんが  難しいところです。
検.箸肇織蕕浪甬遒房尊櫃傍こった出来事をあらわすのに使われる。
    ドアを ○開けるト 父が倒れていた。         (Xが動作、Yが状態)         ○開けタラ       道を ○歩いているト 向こうから母が歩いてきた。        ○歩いていタラ             (Xが動作の持続、Yが出来事)     兄が ○殴るト  弟が泣き出した。        ○殴っタラ         (XもYも動作・出来事、XとYの主体は別)     波の音を ○聞くト  子どものころのことを思い出した。          ○聞いタラ       (Xが意志的動作で、Yが非意志的な出来事)     部屋に ○入るト  帽子をとった。          (XもYも意志的動作)         ×入っタラ  ▽この最後の場合が「過去の事実のト」が「タラ」と違う点とされます。
后.弌淵淵蕁砲蓮同時に成り立つ二つの状態・状況を並列的に表すのに使われる。また、   二つ以上の条件の並列的関係を表すのにも使われる。
    庭には梅もあれバ 桜もあった               (同時成立)     趣味がお茶ナラ 特技はお琴                  (対比)     ああ言えバこう言う、こう言えバああ言う。    (二つ以上の条件関係)                                       (p.41)

まとめ3 ナラとタラ・バ

(p.72-75)
機ヾ靄楫繊椒淵蕁¬昌譟椒淵蕕砲浪駭鍛罎冒蠎蠅言ったことを事実として認めて、その内容を  Xに表す用法がある。
 この用法にはノナラも使うことができる。タラ、バを使うことはできない。     「明日のコンサートに行くことにしたよ」     「あなたが行くなら、私も行くわ」        ○行くノナラ  ×行っタラ  ×行けバ     「最近お隣に泥棒が入ったのよ」     「まあ、知らなかったわ。お隣に入ったナラ、あなたのところも気をつけないといけな     いわね」        ○入ったノナラ  ×入っタラ  ×入れバ 
供〔昌譟椒淵蕁基本形+ナラには、先行する談話の内容、会話中に相手が言った内容や、その  内容から予測できるようなことを主題として表す用法がある。
 基本形+ノナラを使った場合は、主題の意味ではなく、特定の人の行為の意味になる。     ビールナラ    ビアガーデンに限る。     ビールを飲むナラ         ※「飲むノナラ」の場合「飲む」の主語は「聞き手」で、主題ではなく、気痢         用法になる。
掘ヾ靄楫繊椒淵蕕砲蓮¬ね茲僚侏荵に関する予測・現在の状態に関する予測・相手の意志や予 定を表す用法がある。XナラY・XノナラYは、出来事が実際に起こる順序がX→Yの場合も Y→Xの場合も使うことができるが、タラ、バは、X→Yの場合しか使うことができない。
    今月末に引っ越しするナラ、そろそろ挨拶に来るはずだ。(未来の予測)        ○引っ越しするノナラ        ×引っ越しすれバ    「引っ越し←挨拶」のようにX←Yになっている        ×引っ越ししタラ    ので、バ、タラは使えない。           時間があるナラ、家に来るだろう。  (現在の予測)     ○時間があるノナラ     ○時間があれバ     ○時間があっタラ         デパートに行くナラ、おいしそうなお菓子を買ってきてね。 (相手の意志)          ○行くノナラ    「デパートに行っタラ」を使った場合は、単なる仮定の意味になる。    「デパートに行けバ」は、Yが行為の遂行の表現の場合に、バが動作性述語に続くこと    ができないという制限があるため使えない。          
検ヾ靄楫繊椒淵蕕砲浪甬遒僚侏荵を表す用法がある。Xが事実であることを認める用法と、  Xが事実でないことを主張する用法がある。ノナラも使うことができる。
    海外勤務になるナラ、もっと英語を勉強すべきだった。     (事実であることを認める)     ○海外勤務になるノナラ     ×海外勤務になれバ     ×海外勤務になっタラ     写真をとられて困るナラ、カメラマンからフィルムを奪っただろう。            (事実でないことを主張)            ○困るノナラ            ×困れバ               ×困っタラ  心理動詞の場合、バ・タラは使えない。     学校で勉強しただけでわかるナラ、塾に行くはずがない。               (事実でないことを主張)               ○わかるノナラ               ○わかれバ               ○わかっタラ  状態動詞・形容詞の場合、バ・タラも使える。
后.新繊椒淵蕕砲蓮▲織蕁Ε个箸眞屬換えが可能な仮定を表す用法がある。この用法にノナラ  を使うことはできない。
    今電話であの人に好きだと告白したナラ、きっと驚いてしまうだろう。                 ○告白しタラ                 ○告白すれバ                 ×告白したノナラ     もし、この箱が開かなかっタナラ、誰かが細工をしたに違いない。            ○開かなかっタラ            ○開かなけれバ            ×開かなかったノナラ
此.新繊椒淵蕕砲蓮▲織蕁Ε个箸眞屬換えが可能な反事実の仮定を表す用法がある。この用法  にもノナラを使うことはできない。
    もっと早く起きたナラ、美しい朝日を見られただろうに。          ○起きていたナラ          ○起きていタラ          ○起きていれバ          ×起きたノナラ          ×起きていたノナラ
察.新繊椒淵蕕砲蓮■悗了実を知らなかったことを悔やむ気持ちを表す用法がある。この用法  にはノナラを使うことができるが、タラ・バに置き換えることはできない。
    「先週は風邪で、三日も寝込んでしまった」     「病気だったナラ、お見舞いに行ってあげたのに」      ○病気だったノナラ      ×病気だっタラ      ×病気であれバ         
次.新繊椒淵蕕砲蓮■悗真ではないことを主張する用法がある。ノナラを使うことができるが、  タラ・バに置き換えることはできない。
    あいつが盗んだナラ、わたしの前で平気な顔でいられるはずがない。         ○盗んだノナラ         ×盗めバ         ×盗んダラ
(ノ)ナラは次のような表現には使えない。
 1.一般的、習慣的なこと。     体温が上がるト汗が出る。       ×上がったナラ       ×上がるナラ     私はお酒を飲むト気分が悪くなる。         ×飲んだナラ         ×飲むナラ   2.時間・季節の流れ、道順など、確実に起こること。     春になれバもう少し暖かくなるだろう。      ×なったナラ      ×なるナラ     この道をまっすぐ行っタラ、右手に白い建物があります。            ×行ったナラ            ×行くナラ  3.過去の事実を表すこと。     ドアをあけるト、父が倒れていた。       ×あけたナラ       ×あけるナラ  4.当然、必然の関係にあるXとY。     身体を動かさなけれバ太るのは当たり前だ。       ×動かさなかったナラ       ×動かさないナラ ▽「ナラ」はいろいろと難しい問題があります。「タナラ」については、下にもっと  詳しく書きました。  §49.4 「タナラ」 「日本語文型辞典」から  §49.5 「タナラ」 「セルフマスターシリーズ7 条件表現」から  §49.6 奥田靖雄他「するなら」 論文の抜粋  ちょっとあいだを飛ばして「まとめ7」へ。

まとめ7 ノニ・ケレドモ・ガとテモ

(p.166-167)
機.謄發浪渉蠹・反事実的な逆接条件を表せるが、ノニやケレドモ・ガは表せない。
    仮定的  ○もし雨が降っテモ、私は出かけるつもりです。          ×もし雨が降るノニ、私は出かけるつもりです。          ×もし雨が降るケレドモ、私は出かけるつもりです。     反事実的 ○もし雨が降っテモ、私は出かけていたでしょう。          ×もし雨が降ったノニ、私は出かけていたでしょう。          ×もし雨が降ったケレドモ、私は出かけていたでしょう。
供〇実的な場合は、テモ、ノニ、ケレドモ・ガはすべて使うことができる。
    事実的  ○薬を飲んデモ、熱は下がりませんでした。          ○薬を飲んだノニ、熱は下がりませんでした。          ○薬を飲んだケレドモ、熱は下がりませんでした。  3つとも「薬を飲めば熱が下がるだろう」という予測がはずれたことを意味する。  テモを使った場合は「薬を飲んだこと」以外に「他のことをしても(たとえば体を  冷やしても)熱は下がらなかった」という意味を含むことができる。  ノニを使った場合は、「予測がはずれて、おかしい・不思議だ・納得できない」と  いうニュアンスが表される。  ケレドモには、そうした特別のニュアンスがなく、予測がはずれたことを中立的に  表す。
掘.離砲裡戮砲魯謄發筌吋譽疋癲Εにはない文法的な制限がある。
       テモ     X  ケレドモ・ガ  Y         ノニ    雨が降っていテモ、外で ○遊びなさい。    (命令文)                 ○遊びますか。    (疑問文)                ○遊ぶでしょう。  (推量表現)                ○遊びました。  (事実の述べ立て)        雨が降っているケレドモ、外で ○遊びなさい。    (命令文)                    ○遊びますか。    (疑問文)                   ○遊ぶでしょう。  (推量表現)                   ○遊びました。  (事実の述べ立て)        雨が降っているノニ、外で ×遊びなさい。    (命令文)                  ×遊びますか。    (疑問文)                 ×遊ぶでしょう。  (推量表現)                 ○遊びました。  (事実の述べ立て)    ノニはYに命令文・疑問文・推量文は来ない。ノニのYは、既に実現している事実  しか表さないからであるが、次のような表現は可能である。    雨が降っているノニ、外で ○遊ぶな。     (禁止表現)                 ○遊ぶんですか。 (ノダ疑問文)  これはノニが、「雨の中、すでに遊んでいる(あるいは遊ぼうとしている)」状況  であれば使うことができるからである。 (続く)

§49.2 「ば」と望ましい結果 

条件の「ば」について、次のような指摘があります。 ◇小川・三枝(2004)  『日本語文法演習 ことがらの関係を表す表現−複文−』スリーエーネットワーク p.4 解説     「XとY」はXが起こるとYが必ず起こることを表す。   「XばY」はYが起こるにはどうすればいいかということを述べる     もので、話し手はYを望んでいる。   例の一部    1.A:大変、電車に遅れちゃう。      B:(走ると・走れば)間に合うよ。    2.A:さしみ食べないの。      B:うん、生魚を(食べると・食べれば)おなかが痛くなっちゃう        んだ。 ◇蓮沼・有田・前田(2001)  『セルフマスターシリーズ7 条件表現』くろしお出版 p.5   「ば」  Yがよくない結果を表す場合には制限がある。      この薬を飲めば、気分がよくなります。             ×気分が悪くなります。          ただし、Xが否定文の場合や、文全体が「当然だ」という意味の場合に    は、この制限はなくなる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ しかし、これは文脈次第ではないでしょうか。     この薬はやめたほうがいい。この薬を飲めば、副作用で失明する恐     れがある。       もしこの薬を飲み続ければ、三ヶ月で肝臓がやられます。     あんな映画を見れば、誰でも気分が悪くなりますよ。     火を付ければ、爆発しますよ。     雨が降れば、運動会は中止になります。     核兵器を使えば、人類は滅亡する。 仮に、そういう傾向があるとして、どういう場合はよく、どういう場合はダメ なのでしょうか。 (この問題は「日本語オンライン」にも投稿しました。誰かがいい答えを考え てくれるかもしれません。) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ◇庵・高梨・中西・山田(2000)   『日本語文法ハンドブック(初級)』スリーエーネットワーク §24.複文と接続詞(4)−条件−      条件とは、二つのことがら(前件と後件)の依存関係、すなわち、後件が  前件に依存して起こるという関係を表すものです。  (p.220)  ◆「〜と」の基本的な用法は反復的・恒常的に成り立つ依存関係(Pが起こ れば通常Qが起こるという関係)を表すものです。   自然現象や習慣、機械の操作と結果などがその典型的な例です。(p.220)  ◆以上からわかるように、「〜と」は仮定性が薄く、本質的には典型的な条  件というより、二つのことがら間の継起関係を表す表現だと言えます。                            (p.221)  ◆「〜ば」の基本的な用法も恒常的な依存関係を表すことです。ことわざに  代表されるような一般的法則によく用いられます。   「〜と」と似ている面もありますが、「〜ば」は「〜と」と違って、仮定  条件によく用いられます。     明日もし雨が{○降れば/×降ると}、どうしますか。 ▽「〜ば」も安定しないように思うのですが。  ◆「〜ば」は、後件の成立が望まれているという文脈で、そのためにどんな  前件が必要かを述べるような文(前件に焦点のある条件文)には、最もふさ  わしい形式です。    ◆上で述べた、前件に焦点のある条件を表す用法を持つことと関連すること  ですが、「〜ば」の文では後件に望ましいことがらが来ることが多く、望ま  しくないことがらの場合は「〜ば」は用いにくくなります。                             (p.222)    ▽ここにも「成立が望まれている」という分析が書かれていました。  前に読んでいるのに、すっかり忘れています。  この「バの後件の望ましさ」はいつ頃から言われていることなのでしょうか。

§49.3 バと文末のムード

主文の文末に意志や依頼のムードがあるときは、動作や変化を表す動詞+バは使えない、 というのが一般の説明ですが、次の解説はもう少し詳しいことを述べています。 かなり抜粋して引用します。詳しくは同辞典を見てください。 グループ・ジャマシイ『日本語文型辞典』くろしお出版 p.479-80  ば+意志・希望     (6)田中さんが行けば、私も行く。     (7)掃除を手伝ってくれればおこづかいをあげる。     (8)お電話くださればお迎えに上がります。     (9)もし、今学期中にこの本を読み終われば、次にこの本を読みます。     (10)もし雨が降れば中止しよう。   (6)は、聞き手と話し手が同じ動作を表すような場合であり、(7)(8)は、「あなた   がXを行えば私は代わりにYを行う」といった意味の、相手に交換条件を出して約   束する場合の表現である。(9)(10)は、それぞれ「読み終わらないかもしれないが、   もし読み終わったら」「仮に雨が降った場合は」という意味を表すもので、Xのこ   とがらが確実に成立するかどうかに疑いをもっていたり、成立しない場合を考慮に   いれて述べる場合の表現である。   (6)〜(10)のような場合は、Xが動作・変化を表すものでも「ば」の使用が可能と   なる。  ば+働きかけ   Yが「意志・希望」の表現の場合よりもさらに強い制約を受ける。     (5)お時間があれば、もう少しゆっくりしていってくださいよ。     (7)7時までに仕事が終われば、来てください。   (7)は、変化を表す動詞に「ば」の使用が可能な例で、「終わる」という変化の動   詞に依頼表現が続いている。「終わらないかもしれないが、仮に終わらせることが   できた場合」という意味で、終わる可能性に対して話しては疑いや否定的な気持ち   を持っている。このような場合には「ば」が使用できることがある。

§49.4 「タナラ」『日本語文型辞典』から

 「〜タナラ」は使い方の難しい文型です。私が良いと思った解説を引用します。 グループ・ジャマシイ『日本語文型辞典』(1998)くろしお出版 から タ(ノ)ナラ 2-1 仮定条件(過去の事柄に関する)   「実情がそのようであれば」「それが事実であれば」という意味     沖縄ではもう梅雨に入ったそうですよ。」「沖縄で梅雨に入ったの     なら、九州の梅雨入りも間近ですね。     二人が昼からこの店で会っていたのなら、二人には午前中のアリバイ     はないことになる。 2-2 反事実     神戸に来ていたのなら、電話してくれればよかったのに。 3-4 スル/シタナラ(バ) [「ノナラ」の形にならない]  仮定条件   イ形容詞、動詞の辞書形またはタ形を受け「もしそのような状況が成立   した場合は」という意味を表す。「スルナラ」「シタナラ」のどちらを   使っても大きな意味の違いはない。   文語的な言い方で、論説調の文章などで用いられる。「ば」「たら」で   言い換えが可能で、口語的な言い方では、こちらを使うことの方が多い。     今年も真夏の日照時間が 短い/短かったならば 米不足の問題は     深刻だ。     この機会を 逃す/逃したならば もう2度と彼には会えないだろう。     このまま不況が 続く/続いたなら 失業問題は深刻になる。     今後1週間雨が 降らない/降らなかったならば 水不足になる。 3-5 タナラ  [「ノナラ」の形にならない]   「タラ」を強調した、やや古風な言い方で、仮定条件や、反事実条件を   表す場合に用いられる。歌謡曲の歌詞などでよく使われるが、日常の話し   言葉では普通「タラ」を使う。     私が全能の神様だったなら、あなたを助けてあげられるのに。     もう少し発見が早かったなら助かったのに。     困ることがあったならいつでも相談に来い。     もしも私に翼があったなら大空を自由にかけまわりたい。     <歌詞>あの坂を越えたなら幸せが待っている

§49.5 「タナラ」『セルフマスターシリーズ7条件表現』から

 もう一つの解説を。こちらは私にはまだよくわかりません。 セルフマスターシリーズ7『条件表現』(2001)くろしお出版 から 13-2 タ(ノ)ナラ (p.47)   対話相手から聞いたばかりの過去の事実に基づいて判断を表したり、相手   に働きかけたりする場合     「実は最近お隣に泥棒が入ったのよ」「まあ、知らなかったわ。お隣     に入ったなら、あなたのところも気をつけないといけないわね」     「たいへんだ。取引先のA社が倒産した。」「なんだって。A社が倒     産したなら、子会社のB社も危ない。すぐに対策を考えよう。」     「昨日の同窓会で、めずらしく小島に会ったよ。」「へえー。あいつ     が来てたんなら、多分、山田さんも一緒のはずだ。あの二人、つき合     っているんだ。」     「昨日の川田先生の授業、休講だったそうよ。」「なんだ。休講だっ     たなら、映画に行っててよかったね。授業をさぼったことにならない     でしょ。」 16-1 タナラ (p.58)   Xに未来の仮定を表し、Yにその仮定に基づく判断や、自分の意志・依頼   などを表す。     今、電話で彼に告白したなら、あの人はきっと驚いてしまうだろう。     今回の数学の試験で60点以上とったなら数学科に進むことにするよ。     興味を持ったなら、先方に問い合わせてくれ。     もし、財布を見つけることができなかったなら、帰りの切符はどうや     って買うつもりですか。     もし、明日の会議で、山田課長がわれわれのプロジェクトに理解を示     してくれなかったなら、他の手だてを考えなければならない。     あなたのやさしさに包まれたなら、わたしは何も怖くない。 16-3 タナラ(p.59)   過去の仮定や、過去の事実に反する仮定     時間通りに家を出たなら、もうそろそろ着く頃だ。玄関の前で待つこ     とにしよう。     もっと注意していたなら事故は起こらなかっただろう。   Xが事実に反する仮定で、動作や変化の動詞が使われている場合でも、   「テイタナラ」という表現を使わなくてもよい。     もっと注意をしていたなら 事故は起こらなかっただろう        注意をした  なら 事故は起こらなかっただろう       ただし、テイタナラの方が反事実の意味がより強くなる。     あの人の前で自分をさらけ出すことができたなら、今、こうして悩む     ことはないのに。     もっとまじめに勉強したなら、希望していた高校に入学できたはずだ。     昨日の夜、あの人と仲良く食事をしていたなら、明日の日曜日は二人     で映画に行っていただろうに。 16-4 仮定を表すナラには使用制限がある。   ナラは、XとYが一般的、習慣的関係を表す場合には使えない。     ×このボタンを押したなら、電気がつきます     ×ぼくは人前に出たなら、緊張してしまいます   ナラは時間の経過など、起こることが確実なことを表す場合には使えない。     ×午後になったなら、晴れてくるだろう。     ×この道をまっすぐ行ったなら、やがて右に白い建物が見えてきます。 17-1 タ(ノ)ナラ(p.62)   タナラも、Xを知らなかったために適切な行動がとれなかったことを悔や   む気持ちを表す文に使われる。      「先週は風邪で、三日も寝込んでしまった」「病気だったのなら、      お見舞いに行ってあげたのに」      「実はあのあとすぐに財布が見つかったの」「なーんだ。そんなに      簡単に見つかったなら、あちこち探すんじゃなかった」      「君が部屋を訪ねてくれた時には、田舎から母親が来ていたんだ。      それであんな冷たい態度をとってしまった」「お母さんがいらっ      しゃってたなら、なぜあの時言ってくれなかったの。わたし、あの      あと、何日も暗い気持ちで過ごしていたのよ」   この場合、YはXを知っていればすることができたこと(またはしないで   すんだこと)を表す。出来事の順序関係は「X→Y」である。   17-2 タ(ノ)ナラ(p.62)   ナラは、Xが事実であるという判断を表す。Yにはその判断を根拠にして、   当然の帰結、判断を表す。      死体がほかの場所から運ばれてきた(ノ)ナラ犯行は複数で行われ      たのだ   タラ、バは、事実かどうかの判断を仮定することはできないので、このよ   うな表現には使われない。      和夫が犯行時刻に殺人現場にいなかったなら、犯人は他にいるはず      だ。      この物語が本当に15歳の少年によって書かれたのなら、史上最年      少の文学賞作家誕生も夢ではない。      男が心から妻を愛していたのなら、苦しい胸のうちを真っ先に妻に      告白したのではないだろうか。 17-3 タ(ノ)ナラ(p.63)       タナラは、Xが事実でないことを主張するような表現に使われる。     あいつが盗んだ(ノ)ナラ私の前で平気な顔でいられるはずはない   この用法は、Xが事実であるという判断を仮定して、そこからの当然の帰   結・判断をYに表す。それが事実と違っていることから判断Xが間違って   いることを主張する。このような表現もタラ、バで言い換えることはでき   ない。     彼女を本当に愛していたなら、あんなにあっさりと別れるはずがない。     彼に少しでも反省する気持があったなら、そういう態度を見せたはず     だ。   この用法にはノナラという形もよく使われる。特に、聞き手の発言を受け   て言うような場合には、ノナラがよく使われ、聞き手の発言内容を話し手   が疑っていることを表す。     この作文、生徒が自分で書いたのなら、こんなに難しい漢字や表現を     使うはずがない。     「手紙、一週間ぐらい前に出しましたよ」「一週間も前に出したのな     ら、もうとっくに届いてるはずでしょ」     「このレポート、だれにも手伝ってもらっていません。自力で書き上     げました」「自力で書いたのなら、なぜ、三日前に受け取った、木村     君のレポートとそっくりなんでしょうね。誤字まで同じですよ」

§49.6 奥田靖雄他「するなら」

 
「言語学研究会」の論文より  長い論文で、例文が山のようにあります。   (説明は抜粋。例文も簡略化してあります) 言語学研究会・構文論グループ1985「条件付けを表現するつきそい・あわせ文(三)   −その3・条件的なつきそい・あわせ文−」『教育国語』83むぎ書房  基本的な枠組み 文の分類 1. のべたてる文(伝達文) a ものがたり文(平叙文) narrative sentence b まちのぞみ文(希求文) optative sentence c さそいかけ文(勧誘文) hortative sentence 2. たずねる文(疑問文) ひとえ文・・・単文? あわせ文・・・複文? つきそい文・・・従属文 いいおわり文・・・主文 第二節 するなら (39) ・・・・ ところで、つきそい文の述語が「するなら」のかたちをとるばあいでも、そこにさしだ される出来事は、状況あるいは場面のなかに可能性としてすでにあたえられている。おお くのばあい、その実現はほとんど確定的である。しかし、まだ実現していないとすれば、 やはりポテンシャルであるとしなければならない。こうして、「するなら」をともなうば あいでも、「すれば」をともなうばあいでも、いずれもつきそい文が条件的な出来事をさ しだすということではひとしい。したがって、仮定性の程度は、「すれば」と「するな ら」とを区別するよりどころにはならない。つきそい文にさしだされる条件的な出来事が はなし手に状況からあたえられているか、そうではなく、はなし手自身が積極的に設定す るか、ということのちがいが重大なのである。 「するなら」のかたちをとる条件的なつきそい・あわせ文では、その条件のもとにあら われてくるものは客観的な世界の出来事ではなく、はなし手自身の内部の出来事、 私 の積極的な態度である。つまり、つきそい文が「するなら」のかたちをとるばあいでは、 いいおわり文の位置には、 私 の意欲とか意志とか期待、あい手への命令とかねがいを いいあらわしているまちのぞみ文、あるいはさそいかけ文があらわれてくる。・・・ ・・・以上のべたことをひとくちにいえば、つきそい文に「すれば」のかたちをとらせれ ば、いいおわり文は「こうなる」と、客観的な、法則的なむすびつきをいいあらわす。そ れにたいして、「するなら」のかたちをとらせれば、「こうする」と私の積極的な態度を いいあらわす、ということになる。 (40) a いいおわり文がまちのぞみ文であるばあい ・三吉がいくなら、俺もいっしょにお墓まいりをしたいが、・・・ ・きみ、ほしいのなら、ゆずってあげよう。 ・菊子がおきないなら、妻の保子をおこそうと信吾はおもったが、・・ ・娘のだらしなくなるのがおいやなら、嫁にやるさきがだらしがないかどうかよくしら べていただきたかったわ b いいおわり文がさそいかけ文であるばあい ・おまえ、あしたにでも病院へいくなら、これを由雄のところへもってっておやり。 ・東京見物をするなら、お前もついていってやれ。 ・おまえもある谷中へいくなら、そういっておくれ。 ・そんなに心配なら、自分でかついでいけ。 c いいおわり文が意志表示的なものがたり文であるばあい ・君かえるんなら、自転車のうしろにのっけていくよ。 ・ええ、のましてくださるなら、一升でも二升でも、のんでみせます。 ・こりゃ国鉄、どうした。うごかんなら、わしもあるいてやるぞ。 ・ちょっと手をだしてみて、すぐまたやめてしまうなんで、そんないき方をするくらい なら、はじめからわたしは関係しません。 ・それほどの決心があるなら、きみのおもうようにやってみるさ。 (41) つきそい文にとりあげられる条件的な出来事は、すでに状況のなかにレアルに存在 していることもある。このようなばあいは、条件的なつきそい・あわせ文は原因的なつ きそい・あわせ文へちかづいていって、「するなら」を「するから」におきかえること が可能になる。 ・そうか、きみがそういってくれるなら、ぼくはやるよ。きっとやるよ。 ・おい、こどもがひどくないているぜ。そうしてやすんでいるなら、みておやりよ。 ・そのくらいよくしってるなら、はじめからおどかさなければいいのに。 ・そんなにしゃくにさわるなら、引っ越せばいいじゃないか。 こんなふうにみてくるなら、「するなら」が 仮定条件 を表現するといういい方は、 いかにもおかしくなる。 確定条件 そのものである。 ・もし我が輩のごとく、風呂というものをみたことがないなら、はやくみるがいい。 ・もしそれでもいいなら、そこで一ページほどよんで、その意味を私にはなしてきかせ てもらいたい。 いいおわり文がさそいかけ文であるばあいでも、ごくわずかであるが、つきそい文が「 すれば」のかたちをとっていることもある。つぎにあげる例では、「すれば」を「するな ら」におきかえると、ごくふつうのいい方になるだろう。 ・売るものがなければ、自分の血をうれ、とどなられた。 ・こなければ、もっていったらどうだ。 ・取りにいかなければ、国へ電報でもかけるんだな。 あい手の欲望をいいあらわす文がつきそい文の位置にあらわれてくるときには、「すれ ば」のかたちを採用することがおおくなる。いいおわり文とつきそい文とに、おなじ動詞 があらわれてくるのも特徴である。 ・だから、おまえはおいでよ、いきたければ。 ・そんなに買いたければね、おばさんに買っておもらい。 ・警察へうったえたければ、かってにうったえろ。 ・かえりたければ、おかえりよ。 はなし手がいいおわり文のなかにみずからの感情・評価的な態度をいいあらわしている ばあいがあるが、このときもつきそい文は「するなら」のかたちをとる。ここでの感情・ 評価的な態度は、意欲とか意志とか決心、命令とかねがいとか期待とならんで、はなし手 の積極的な態度のわくのなかにおさまる。 ・きみのものの考え方はすべて逆だ。もっともその調子で世間をおしとおすというなら またりっぱだがね。 ・いったい中学の先生なんて、どこへいっても、こんなものをあい手にするなら、気の 毒なものだ。 ・もとをわすれるくらいな人間なら、だめのこった。 ・私をあい手に考えているのなら、むだなことだ。 ・お気の毒だって、好んでいくんなら、しかたがないですね。 ・ところが、おどろくような女なら、しおらしいんだが、おどろくどころじゃねえ。 はなし手がみずからの評価的な判断をいいおわり文にさしだすばあいも、その条件にな る出来事は、やはり、「するなら」のかたちをとるつきそい文によっていいあらわされて いる。評価的な判断の文は、その意味に/当然/を表現しているわけだが、そこには/は なし手は期待する/という意味あいがつきまとっている。したがって、この種の条件的な つきそい・あわせ文は、いいおわり文の位置にまちのぞみ文、さそいかけ文が現れてくる 場合にひとしいとみていい。しかし、また、いいおわり文にさしだされる評価的な判断が はなし手の論理の帰結であるとすれば、つきそい文は 前提 をさしだしていて、「する なら」のかたちをとるのもとうぜんだといえる。 ・由紀が平川家としりあいなら、由紀とならんで、ぼくをメイン・テーブルにつけるべ きだ。それで公平なあつかいだ。 ・女が必要なら、素人の、ちゃんとした婦人を相談あい手にすべきだわ。 ・日本が差別のない社会なら、その人の能力に応じた職業を選べばいいわけである。 ・郷里へかえるのなら、なるべくはやいほうがいいという、医者の忠告であった。 ・医者をよぶなら、ウシトラの方角で、屋敷内におおきな木がある医者がいいぞ。 ・牛馬をころす人を侮蔑するなら、殺人道具をもっている人はより侮蔑されねばならな い。 (42)つきそい文が「するなら」のかたちをとっているばあいでも、いいおわり文の位置に ものがたり文があらわれてこないというわけではない。 ・君が味方についてくれるなら、ぼくはほんとうに百万の味方をえたことになる。君の ほんとうの考えを聞かせてくれないか。 ・あの娘さんがこの寺にきてくださるなら、お寺の感じがいっぺんにかわってしまう。 あかるくなるよ。 ・母がただしく生きるなら、娘もいずれはわかってくれますわ。 ・もし、これが吉川夫人かだれかの口からでるなら、それがもっとずっとつまらない説 でも、君はえりを正してきくにちがいないんだ。 ここでも、「もしも」がしきりにつかわれていて、つきそい文にさしだされる出来事の 仮定性のつよさを表現している。そして、それがはなし手の想像の所産であれば、ポテン シャルであるか、非レアルであるかということは、それほど重大なことにはならなくな る。しかし、つきそい文が「したなら」のかたちをとりながら、非レアルな出来事を表現 していれば、いいおわり文も すぎさり のかたちをとって、非レアルな出来事をさしだ すことになる。そうであれば、この種の条件的なつきそい・あわせ文は、つきそい文の述 語を「すれば」にとりかえても、意味に大きなちがいはおこってこないということになる だろう。 ・・・ ところが、「・・したなら・・した」というかたちの条件的なつきそ い・あわせ文では、そこにさしただれる出来事は、はなし手の想像の所産である。ときと して、「したなら」というかたちは、はなし手のかって気ままな空想の表現形式になる。 ・朝子にすこしても愛情がもてたならば、金をうけとる気持ちもまたちがってきたであ ろう。愛してはいないのだ。 ・もし大正年代にそれが確認されていたなら、この研究はもっとはやくからはじまって いたであろう。 ・もし札幌の「話」が進行していなかったなら、あい手に手をださせるような言動は啄 木といえども示さなかったであろう。 ・あの夜、九鬼に身をまかせていたならば、私は勇気がもてたかもしれないのだ。 ・この見当だと心えてさえいたならば、ああ不意打ちをくうんじゃなかったのに ・もし今夜あの婦人にあわなかったなら、最愛の夫にたいして、これほど不愉快な感じ をいだかずにすんだろうに、という気ばかりつよくした。 つきそい文にさしだされる非レアルな出来事が現在にかかわっているときには、つきそ い文の述語は「しているなら」というかたちをとるだろう。 ・あい手がいつもこづかいをもっている女なら、かわり番に支払うように鳥居は要求し ただろう。 ・姉が東京に嫁しているなら、九鬼はときどき姉を訪ねて、話をきいてもらったろう。 しかし、「したなら」がたんに 完了 と 先行 の意味を表現しているにすぎないば あいもある。このばあいでは、いいおわり文にさしだされる出来事は未来にかかわってい て、ポテンシャルである。 ・皆をまえにして、もしあなたが私との秘密を告白することができたなら、そのときか ら、私はあなたから離れることになります。・・いま、こんなことは考えられない・・ ・朝子のことが知れたなら、私は嫌悪される。排斥されるだろう。 ・朝子のことがしれたなら、山路はなにかの復讐にでるだろう。 ・義母が今後十年も生きていたならば、世間のおばさんのように、だんだんおだやかな 人にもどってくれることと信じています。 さらに、「したなら」が完全に過去完了の意味をたもっているばあいもある。このばあ いでは、過去のある時間にレアルに存在していた出来事を、はなし手はつきそい文にさし だして、このレアルな出来事を前提に、自分の態度なり、判断をいいおわり文にいいあら わす。このばあいの「したなら」は「したのだから」におきかることができるが、「した なら」を採用するには、それなりの理由があるだろう。次の例では、既知の、レアルな出 来事を前提にして、そこから未知の出来事をおしはかっている。したがて、そこに表現さ れているのは、条件・結果の関係ではなく、前提・結論の関係である。 ・きみ、行ったんなら、みてきたろう、あの鼻を。 ・「まあ私は人ひとりをあわれむような了見をおこしたんですね。」「関係なしに、そ ういう了見をおこしたなら、そりゃ聞える−−そりゃりっぱなものだ」 ・港へかえったんなら、そうと手紙をよこせばいいじゃないか。 ・「ゆうべ、そうことわっておいて、けさきたのだわ。」「だんなにことわってきたの なら、ひるもこっちでたべていけばいい」 過去の未知の出来事を、「したなら」のかたちをとるつきそい文に条件として設置し て、その条件のもとにおこってくる事態をおしはかっている、というような論理的な手つ づきが、この種の文に表現されていることもある。 ・彼がじっさい乗船していたなら、その名簿がのこっていなければならない。 (43)つきそい文が「するなら」のかたちを採用する、条件的なつきとい・あわせ文の観察 から、つきそい文にさしだされる出来事の仮定性の程度はそれほど重要な意味をもってい ないことがあきらかになる。むしろ、その本質的な特徴は、それが状況の中にあろうと、 なかろうと、はなし手がある出来事を条件としてつきそい文のなかにとりあげる、という ことである。こうして、「するなら」というかたちをとる、条件的なつきそい・あわせ文 は現実の世界の過程をえがきだすというよりも、それをたらえていく思考の運動をえがき だしているということになる。このことが、もっともあからさまなかたちであらわれてく るのは、この種のつきそい・あわせ文が論理の操作、論理の展開を表現しているときのこ とである。 ・他人につかえる一切のおこないが奉公なら、捨吉の奉公は、彼がごくおさないころか らはじまった。 ・神様があるなら、自分にもっとあかるい道をひらいてくださってもよさそうなものだ ・手工業によって生きる人の血統がけがれているなら、刀を二本腰にさした血統はより 劣等だ。 ・主人のようなむさくるしい男にこのぐらいな影響をあたえるなら、我輩には、もう すこしききめがあるに相違ない。 ・もし嫁にくる前からはげているなら、だまされたのである、と心のうちでおもう。 ・九鬼と結婚できないのなら、どなたと結ばれてもおなじこと、とおもいました。 ・・・前提が条件からとおざかっていけば、つぎにあげる例のように、前提と条件とが ひとつの文のなかでことなる役割をはたしながら、共存できるようになる。 ・すでに、二時間も前に彼女が出発しているのなら、もっとちかい距離を、もっとはや い時間でおいかけなければ、まにあわない。 ・敵が来襲するなら、台湾、比島の基地航空兵力と協力すれば、有効な攻撃を実施でき るはずであった。 さて、このようにみてくれば、「するなら」のかたちをとるつきそい・あわせ文は、い いおわり文にものがたり文があらわれてくるかぎり、「するとすれば」をともなう条件的 なつきそい・あわせ文と意味的にはまったくひとしいということになるだろう。「すると すれば」がおもおもしい文章語をおもわせるなら、「するなら」とのあいだには、文体的 なちがいがあるだけのことになるだろう。しかし、「するなら」のばあいでは、はなし手 個人の心理のなかの主観的な論理が展開さてているとすれば、「するとすれば」のばあい では、はなし手の心理からとおざかって、手段化された、客観的な論理が展開されている ともかんがえられる。だが、このことはまだ事実のなかに確認されているわけではない。 ところで、「するなら」とならんで、いくらかおもおもしい感じをあたえる「するならば 」というかたちがあって、このかたちは地の文にもちいられている。したがって、その使 用の範囲は、主として前提・結論の関係を表現しているばあいにかぎられてくる。なお、 「するのなら」というかたちがあるが、このかたちは「するなら」とまったくひとしく、 このことについてはとくべつにふれる必要はない。 ・男女が平等であるならば、愛もわかれも平等でなければならない。 ・もしも教育をたいせつにおもうならば、教師はたたかうひとでなくてはならない。 (奥田・湯本他12名)   

§49.7 「ヨウデハ」 「日本語文型辞典」から

 「〜ては」に類する文型で、「〜ようでは」というものがあります。  「〜のでは」に近いところもあります。  グループ・ジャマシイ「日本語文型辞典」から ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ては」 1d V−る/V−ない ようでは (1) 最初の日から、仕事に遅刻するようでは困る。 (2) この程度の練習にまいるようでは、もうやめたほうがいい。 (3) そんなささいなことで傷ついて泣くようでは、これから先が思いやられる。 (4) こんなかんたんな文書も書けないようでは、店長の仕事はつとまらない。 (5) こんな短い距離も歩けないようでは夏の登山はとても無理だ。 「困る」「いけない」「無理だ」のような否定的な意味の表現とともに使って、 「こんな様子では困る」という意味を表す。 人を批判したり避難したりする場合に用いることが多い。文脈によっては、 相手を直接叱責するのにも使う。 ・・・・・・・・・・・・・ 「ようだ 2」 4...ようでは (1) こんな問題が解けないようではそれこそ困る。 (2) 君が行かないようでは誰も行くわけがない。 (3) こんなことができないようでは、話にならない。 (4) こんな質問をするようでは、まだまだ勉強が足りない。 「そのような様子では」という意味。後ろに期待に反することがらや、 「困る/だめだ」のようなマイナス評価の表現を伴う。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 例文追加 ・ひらがなが覚えられないようでは、漢字はとても無理だ。 ・今そんなことを言っているようでは、間に合わないよ。 ・キャプテンまでがそう言うようでは、明日の試合は負けだな。 ・天気予報は雨? 雨が降るようでは日食の観測はできないな。 ・兄にも無理なようでは、僕にはとても解けない問題だろう。 ▽今現在の様子を元にして言う例文が多いのですが、将来の予測では言えないかどうか。  もう一つは動詞とその否定形以外はダメか。  上の「ようだ2」のほうは、「...ようでは」となっていて、動詞には限定していません。  「ようだ」+「ては」というだけでは、説明できない文型です。 §49.補説(このページのいちばん上)へ 「49.条件」へ 主要目次へ