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ホーム文法庭三郎


                                                                      
 

  50. 理 由 

     50.1 〜から         50.2 〜ので            50.3 〜ために        50.4 〜て            50.5 〜おかげで/せいで    50.6 〜ものだから/もので 50.7 〜かといって 50.8 〜その他  50.9 疑問・否定  50.10 〜からか/ためか 50.11 まとめ 50.1 〜から  〕由 [疑問と否定] 判断の根拠 その他  [〜のだから] 50.8 その他         50.8.1 〜バカリニ 50.8.2 V−カラ(ニ)ハ 50.8.3 〜以上(ハ) 50.8.4 V−上ハ 50.11 まとめ          50.11.1 理由表現の重なり 50.11.2 理由節のテンス    50.11.3 ハとガ         理由を表す表現はいろいろありますが、基本的なものは、カラ、ノデ、タメ ニ、テの4つです。カラとノデは使用範囲が広く、頻度も高いので、どう違う かということがよく問題にされます。

50.1 〜から

 「〜から」はいちばん広く使われます。述語との接続もかんたんです。まず は述語との接続のし方から。「から」は丁寧形にも普通形にも接続できます。 これは、言い換えると、この節の独立性が強く、独立した文に近い性質をもっ ているということです。「〜が、〜」ほどではありませんが。      よく勉強しましたから、漢字も書けます。    (動詞)      よく勉強したから、漢字も書ける。      ここはうるさいですから、あちらへ行きましょう。(イ形容詞)      ここはうるさかったから、あっちへ行こう。      明日は暇ですから、明日やります。       (ナ形容詞)      明日は暇だから、明日やるよ。        私は日本人ですから、日本語しかできません。  (名詞述語)      私は日本人ではないから、日本語ができない。  否定や過去の形にも接続できます。  複合述語の類にもかなり自由に接続しますが、意志・依頼・命令などには、 そもそも意味的に付きません。      彼にさせたかったから、彼を呼んでおいた。      彼女にも来てほしいから、声をかけておいて下さい。      彼も来るだろうから、彼の分も用意しておこう。 ×一緒に行こう/行って下さい/行きなさい から、〜  主節の文末のムードは自由です。

[意味]

 「〜から」の表す意味は、大きく三つに分けられます。

理由

 「AカラB」という時、話し手がBの理由としてAをあげるという意味を示 します。上に挙げた例文は皆この例です。ただし、一般的には理由と考えにく い場合もありますが、これは文法の問題ではないでしょう。           あいつの顔が気にくわないから、殴ったんだ。      嫌だから嫌(なん)だ。  理由節を含む文は「〜のだ」が主節に出やすくなります。それは、理由節と いうのは、主節の内容が文脈ですでに明らかになっていて、その理由を説明す るということが多いからです。  理由の部分を特に示したい場合は、「Bのは、Aカラだ」という形を使うこ ともできます。この形は「強調構文」(→57.5)の一種です。      暇だったから、本を読んでいた。      本を読んでいたのは、暇だったからだ。  この「〜のは」は文脈により省略されます。      「どうして会社やめたの?」「つまんないからよ」  主節を省略して、「〜から。」の形で文を終わることがよくあります。 「帰りますか」「ええ、もう6時ですから(帰ります)」      「どうして見ないんですか」「見たことがありますから」 以上の二つの形を混同しないように注意が必要です。    a 店は客でいっぱいです。特売日だからです。    b 店は客でいっぱいです。特売日ですから。  aは「店がいっぱいなのは〜」という強調構文の一部で、従属節のほうが省 略されています。「〜だからです」の「だ」に注意して下さい。  bは主節の省略です。(あるいは、bの二つの文全体が一種の「倒置」とも 考えられます。)イ形容詞の場合は、形が似てきます。      「どうして買わないんですか」      「ちょっと大きいからです/ちょっと大きいですから」  普通体だと区別がつきません。      「どうして買わないの?」「ちょっと大きいからよ」 「買わないのは、大きいからよ」「大きいから買わないのよ」のどちらとも考 えられます。

[疑問と否定]

 理由を聞く疑問表現は「なぜ/どうして〜か」ですが、これまでの例でもわ かるように「〜のだ」をつけることがよくあります。      なぜ来たのですか。  これは、「来たかどうか」つまり述語の内容が実現したかどうかを聞いてい るのではなく、来た理由を聞いています。このような場合に「〜のか」がよく 使われることは、「42.疑問文」で述べました。  その答えにも、      ちょっと心配だったから、見に来ました/見に来たんです。 のように「〜のだ」がよくつきます。  ある理由を否定する場合も、この「〜のだ」あるいは「〜わけだ」が使われ ます。      嫌だから行かないのではありません。行く必要がないから行かない      のです。

判断の根拠

 例えば、次のような例で、「理由」を表すと考えると、少し変です。      だんだん空が暗くなって来たから、もうすぐ降り出すでしょう。  「だんだん空が暗くなって来た」は「もうすぐ降り出す」理由と言えるでし ょうか。雨が降る理由(原因)は何かよくわかりませんが、「暗くなって来たか ら」降るわけではありません。  この場合の「から」は、「もうすぐ降り出す」と判断するのに、「暗くなっ た」ことが材料(根拠)となったことを表します。      「田中さんはもう帰りましたか」      (机を見て)「まだかばんがあるから、その辺にいるでしょう」 「その辺にいる」理由は、何かの用事でしょう。「から」は、「かばんがある」 ことから「まだいる」と判断した、ことを示します。      彼女は、「興味ない」って言ってたから、来ないよ。      「今何時かなあ」「さっき、鐘が鳴っていたから、12時半ぐらい      じゃないか」 「なぜ12時半か」という問いに答えはないでしょう。日本標準時のシステ ムでそう決めているから?「なぜ12時半と推測するか/言えるか」なら答え られます。「さっき鐘が鳴っていた」はそのための根拠になります。

その他

 「〜から」には理由・根拠を表すとは言えない例が意外に多くあります。ふ だんは意識することなく使っているのですが、あらためて考えると説明に困る ような例です。      ビールが冷やしてあるから、お風呂のあとで飲んでね。 隣の部屋にいますから、何かあったら呼んで下さいね。      以下の部品が入っていますから、まず確認して下さい。 バスがあるそうだから、それに乗りましょう。  「ビールが冷やしてある」のは「飲む」理由にはなりません。「のどが渇い たから」あるいは「飲みたいから」飲むのでしょう。「隣の部屋にいる」こと も、「呼ぶ」理由にはなりません。「何か問題があり、自分では解決できない から」、人を呼ぶのでしょう。「何かあったら」という表現がちょうどそのこ とを示しています。      何かあったら呼ぶ → 何か(問題が)あった → 呼ぶ  では、「隣の部屋にいる」ことはどういう関係があるのでしょうか。「呼ん で下さいね」という依頼表現が意味を持つためには、「呼べる」ところにいな ければなりません。  つまり、依頼というムードを成り立たせるのが、この「〜から」の部分です。 「(ビールを)飲んでね」と言うためには、どこかにビールが用意してなければ なりませんが、聞き手はそれを知りません。それを教え、この文に意味を持た せるのが、「(冷蔵庫に)ビールが冷やしてあるから」という部分です。  「部品」や「バス」も、「確認」や「乗る」対象として必要なものです。そ れがあることを保証して、「〜て下さい」「〜ましょう」という依頼や勧誘を 成り立たせるのが、「〜から」です。  もっと説明しにくい例もあります。 嘘でもいいから、許すと言って。      頼むから、泣かないでくれよ。  「お願いだから、〜」というのもよくある言い方です。  この「理由と言えないカラ」の例は、主節が依頼・命令・勧誘などの、聞き 手への働きかけを意味するムードを持つことが特徴です。依頼などの「理由」 ではないのですが、その依頼などを成り立たせる状況を示しています。 次の例などは、上の例に似ていますが、もう少し一般の理由表現に近いもの です。   名前を呼びますから、呼ばれた人は返事をして下さい。 昼休みになったから、何か食べに行こう。  これらの表現の底にあるのは、次のような論理です。      名前を呼ばれる → 返事をするのが当然      昼休みになる → いつも食事に行く 「何か食べに行く」理由が「昼休みになった」ことではありませんが、上のよ うな論理があり、それに従って結びつけられているのです。

[〜のだから]

 「〜から」の前の述語が「〜のだ」の形をとると、「〜のだから」となりま す。話しことばでは「〜んだから」ともなります。  Aを事実として認め、それを理由としてBの主張を述べます。  Bは単に事実を述べる文ではなく、話し手の気持ちを表す文になります。命 令・依頼・勧めなどのムードや、評価を示す表現などが来ます。「こんなに」 「せっかく」などの副詞的表現が一緒によく使われます。           ここまでがんばったんだから、あと少しやろう。 がんばってもできなかったんだから、仕方ないじゃないか。      せっかく来たんだから、ゆっくりして行きなさいよ。      あんな失敗をしたのだから、顔を出せるはずがなかった。      はっきりそう言ったのだから、彼を信じてやりたかった。      彼女が来たのだから、私は帰ることができた。しかし帰らなかった。  Aが話し手の気持ちをその場で示すような表現だと、「〜のだから」は使え ません。      じゃあ、私もやりますから、あなたも少しはやって下さい。     ×じゃあ、私もやるんですから、あなたも少しはやって下さい。      彼がやっているんだから、お前も少しはやれよ。 「私もやる」のは、今表明された事柄で、「彼がやっている」のは事実です。 「は」の付いた「〜から(に)は」の形はあとでとりあげます。

50.2 〜ので

    ノデとカラの違いはよく問題とされますが、初級でこの二つを教えてみて大 切だと思うのは意味の違いよりも接続の違いです。  まず、動詞とイ形容詞の丁寧体との接続ですが、次の四つを見て下さい。      雨が降ったから、涼しくなりました。      雨が降ったので、涼しくなりました。      雨が降りましたから、涼しくなりました。      雨が降りましたので、涼しくなりました。      ここはうるさいから、あちらへ行きましょう。      ここはうるさいので、あちらへ行きましょう。      ここはうるさいですから、あちらへ行きましょう。      ここはうるさいですので、あちらへ行きましょう。  初級のレベルでは「−ますので」は丁寧過ぎるように感じられます。  文全体が非常に丁寧な文体なら、「−ますので」も使われます。      すぐ車が参りますので、ここで少々お待ち下さい。      こちらにございますので、どうぞご自由にお使い下さい。  「ので」の使い方で注意すべきなのは、ナ形容詞と名詞述語の場合です。  丁寧体の場合は、丁寧過ぎることを除けば、形の上では何も問題ありません。      あしたは暇ですので、あした行くことにしようと思います。      この部分が木製ですので、とても軽くなっています。  普通体では「だ」が「な」になります。ナ形容詞だけではなく、名詞述語も 「−な」になる点が注意すべき所です。      とても元気なので、安心しています。      まだ子供なので、速く走れません。  名詞述語でも「な」になるのは、「〜のです」の場合と同じです。   複合述語にも接続します。      雨が降りそうなので  降るそうなので  行きたいので      雨が降るそうですので、かさをお持ちになった方が・・・  ただし、「×〜だろうので」は言えないところが「〜から」と違います。  ノデはカラに比べると、文末制限があります。命令・意志・勧誘など、強い ムードの文末を持つ文では使われにくいと言われています。     ?たくさんあるので、どんどん使おう!      たくさんあるので、どんどん使ってしまいましょう!      たくさんあるから、どんどん使おう!     ?ここにあるので、これを使え/使いなさい。      ここにあるから、これを使え/使いなさい。     ?ここにたくさんあるので、これを使って下さい。      ここにございますので、これをお使い下さい。  しかし、単にムードの制限というよりも、丁寧さの違いという解釈も成り立 ちます。つまり、普通体の意志形や命令形は相手に対する配慮という点で、か なり強い口調なので、「ので」の柔らかさとは合わない、という解釈です。  学習者のよくやる誤用は、     ×おいしいだから、おいしいなので       ×きれいだので、きれいので という形にしてしまうことです。初級の段階でしっかり身につけておかないと、 かなり後まで治らずに残ってしまいがちです。  「は」が付いたように見える「〜のでは」の形は、「の+ては」で、条件表 現です。「49.7.2 〜のでは」ですでに取り扱いました。

50.3 〜ため(に)

 「〜ために」は理由を表わす場合と、目的を表わす場合があります。ここで は理由を表わすものだけを扱います。書き言葉では「に」が省略されて「ため」 となることがよくあります。  述語の普通体に接続します。ナ形容詞は「−な」、名詞述語では「−の」ま たは「−である」の形に接続します。その際、単なる名詞か名詞述語かの見分 けの問題があります。      それを知らなかったために、失敗した。      国土が狭いため(に)、人口密度が高い。       事故のために、列車が遅れている。       夫が外国人であるために、いろいろとめんどうなことが多い。  「事故」はある事態を表し、その事態が原因となって「列車が遅れる」ので すが、「(何かが)事故だ」という名詞述語ではありませんから、     ×事故であるために、列車が遅れている。 とは言えません。  逆に「外国人」のほうは、「外国人のために」とすると「恩恵」の意味にも なります。  「AためにB」のAが「確定したこと」であることが必要です。過去のこと か、現在の状態、または将来のことでも、実現がほぼ確実な予定などです。      台風が来るため、明日から天気が崩れるでしょう。      来年留学するため、日本語を学ばなければならなくなった。      来月皇太子がこの町を訪問するため、道路が整備されている。  もし、意志や将来のことの表現だと、「目的」の意味を表わすことになって しまいます。      将来日本に留学するために日本語を勉強しています。      平和な世界を実現するために力を合わせよう。  これらの文は、目的の意味に理解されます。  推量や伝聞の複合述語はAに使えません。     ×彼女が来るそうなため、〜   (来るそうだから)     ×彼女が来るらしいため、〜   (来るらしいから)  主節の述語は、意志や依頼などのムードになりません。     ×寒いため(に)、何か暖かいものを食べよう。(○寒いから) ×雨が降るため、かさを持っていって下さい。(○降るから)  上の例にもあるように、「〜だろう」「〜なければならない」などのムード は可能です。  以上のような制限のため、客観的な因果関係を示すことが多く、書きことば でよく使われます。  「AためにB」を「Bのは、Aためだ」の形にすることがよくあります。形 式名詞なので「と」でつなぐことができます。(→「57.5 強調構文」)      昇進が遅かったのは、私が女であるためです。      太ったのは、食べ過ぎたためと、ジョギングをさぼったためだ。     ×太ったのは、食べ過ぎたためで、ジョギングをさぼったためだ。 「〜で」で結べないのは、Aが一つの要素でなければならないためです。  「〜ためのN」の形で名詞を修飾することができます。      それを知らなかったための失敗  疑問は、「〜から/ので」と同じように「なぜ/どうして」で聞きます。  「何のために」という形は、目的の意味になってしまいます。      なぜ/どうして 雨が降るのか。      何のために雨が降るのか。(目的)  「は」をつけて「〜ためには」とすると、目的になり、理由の表現としては 使えません。「〜ためは」という形はありません。 ?来年留学するためには、日本語を学ばなければならなくなった。

50.4 〜て

    「〜て」の用法については、「並列」のところで紹介しました。「〜て」自 体は二つの節を結ぶだけで、それがどんな意味になるかは前後の節の意味内容 の関係による、とよく言われます。  「原因・理由」の意味になるのは、まさに前の事がらによって後のことが起 こっているという見方を話し手がしていることによります。      おなかが空いて、死にそうだ。      彼女が来てくれて助かった。      暑くて、仕事ができないだろう。      おもしろくて止められなかった。      とても親切で、評判がいい。      この子はまだ小学生で、中学の数学は何も知らない。  最後の例は「並列」ともとれます。境界ははっきりつけられません。  後の節は話し手の意志や依頼・希望などのムードを含まない事実の描写(推 量を含む)に限られます。     ×おなかがすいて、ご飯を食べよう。     ×これは汚くて、食べてはいけません。(○汚いから)         ?おなかがすいて、ご飯を食べた。     ?おなかがすいて、ご飯が食べたい。(○ご飯が食べたくなった)  「は」の付いた「〜ては」という形はまったく違った文型になります。その 一つの用法は「条件」のところで扱いました。

50.5 〜おかげで/せいで

 「〜おかげで」は、好ましい結果がもたらされた原因となる人・事柄に対し て感謝する気持ちがあることを表しますが、わざと皮肉に使うことがよくあり ます。その場合、次の「〜せいで」と近くなります。      彼女がきてくれたおかげで、みんなが助かった。      たまたまバスが遅れたおかげで命拾いした。      こんなにうまく行ったのは、君が手伝ってくれたおかげだよ。      まったく、あいつのおかげで、ひどいことになっちゃったよ。(せ      いで)  「V−てくれた/くださった」の形でその主体に対する感謝の気持ちを表す ことが多いです。  「せいで」も原因を示しますが、悪い結果をもたらした、好ましくない事柄 を示します。          いやな奴が来たせいで、パーティーがすっかりつまらなくなった。      こんな結果になったのは、準備がいい加減だったせいだ。      事故を起こしたのは、会社が無理に急がせたせいだ。      体に力が入らないのはダイエットをしているせいかもしれない。  「〜のは、〜せいだ」の形で原因追求をすることが多いです。形容詞や名詞 述語も受けます。      それがわからなかったのは、まだ幼かったせいだろう。      入社試験に落ちたのは、彼が外国人であるせいだ。

50.6 〜ものだから/もので

 形式名詞の「もの」を使うと、ある種の意味合いが加わります。話し言葉で は「もん」の形がよく使われます。       ちょっと忘れ物をしたもんで、遅れちゃってすみません。   あの人は、よくそういうことを言うものだから、皆に嫌われて・・・      ちょっと近くまで来たものだから、寄ってみました。  忘れっぽいものだから、いつも家内に怒られています。  自分に関して、言い訳っぽく理由を言うことが多いです。主節はある事実を 述べていて、その理由を説明します。     

50.7 〜からといって

 「Aを理由としてBする(というのはよくない)」ということを表します。 話しことばでは短く「〜からって」となります。   宝くじが当たったからといって、ぜいたくしたらすぐなくなるよ。      おいしいからといって、冷たいものを食べ過ぎてはいけません。      まだ子供だからといって、何でも許されるわけではない。      わざとじゃないからといって、謝らないのはよくない。      暑いからって、こんなに冷房しちゃ、かえって体に良くないよ。  「宝くじが当たったからぜいたくする」という考え方を批判しています。こ こで「〜から」を使うと、おかしなことになります。   ?おいしいから、冷たいものを食べ過ぎてはいけません。  ?暑いから、こんなに冷房しちゃ、体に良くないよ。 「おいしいからいけない」「暑いから体に良くない」ことになってしまいます。

50.8 その他

理由を表す表現は他にもいろいろあります。いくつかを見てみます。理由に 入れるか、他の表現のところに入れたほうがいいか迷うものもあります。

50.8.1 〜ばかりに

 そのことのために悪い結果になってしまったことを表します。動きの動詞は 過去形です。状態動詞や形容詞は現在形でも可です。      小さなうそを言ったばかりに、うそをつき続ける羽目になった。      なまじ英語ができる/た ばかりに、難しい役をやらされている。      規則を知らなかったばかりに、高い罰金を取られそうだ。      この魚は、味がいいばかりに、人に追いかけ回され、獲りつくされ      た。

50.8.2 V−から(に)は

 意志的な動作を受けて、そのためには次のことが必要になる、という表現で す。主節には、必要・意志・命令などのムードの表現が来ます。次の「〜以上 (は)」の例もだいたい「からには」で言えます。  「V−からは」は古い言い方になり、歌詞などに現れるようです。      人を批判するからには、それなりの覚悟が必要だ。      外国人に教えるからには、相手の文化を知ろうとすべきだ。         会員であるからには、あなたにも責任の一部はある。       引き受けたからには、最後までやりなさい。      明日は東京へ出ていくからは、何が何でも勝たねばならぬ。

50.8.3 〜以上(は)

    「V−からには」とかなり近い表現です。上の例はみな「以上は」で言い換 えられます。      高い辞書を買った以上は、使わないと損だ。      このことを知られた以上は、生かしてはおけない。      証人となる以上は、全部話すつもりです。  次の例は否定を受けていて、少し意味合いが違います。否定的な状況を受け て、主節も否定的な内容が来ます。これは「からには」では落ち着きません。      彼女にその気がない以上、お見合いを勧めてもムダですよ。      彼が証人台に立ってくれない以上、我々としては打つ手がない。 「〜のでは」に近い用法です。

50.8.4 V−上は

   「〜からには」に近い表現です。ある特別な状況の下で、決意を表す、ある いはうながす感じです。      秘密を知られた上は、生かしてはおけない。      こうなった上は、逃げも隠れもしない。どうにでもしろ。  会長に立候補する上は、はっきりした方針を打ち出すべきだ。

50.9 疑問・否定

理由表現の疑問・否定にはちょっと問題があります。疑問や否定の焦点がど こに来るのかという問題です。      雨が降ってきたから、中止にしますか。  試合を続けようかどうか考えて、雨を理由に「中止」を決定するかどうか質 問しています。別に問題はなさそうですが、過去にすると、     ?雨が降ってきたから、中止にしましたか。 なんとなく落ち着きません。疑問文でなければ安定しています。      (この前の試合は)雨が降ってきたから、中止にしました。 「〜のだ」を使った疑問文にすると安定しますが、      雨が降ってきたから、中止にしたんですか。 とすると、「中止にしたかどうか」ではなく、「中止にした」理由が「雨かど うか」を質問しています。つまり、従属節が疑問の焦点になっています。これ は「〜のだ」の用法の一つです。(→42.4)  上の不自然な例は、「中止にした」ことがすでに知られているような状況し か想定できないために、不自然に感じられるのです。「中止にしたかどうか」 を問うなら、理由節は不要です。      この前の試合は、中止にしましたか。  理由節をわざわざ言う以上、そこが質問の焦点になるはずで、文末を「〜の ですか」としなければなりません。(→「42.4 疑問の焦点と前提」)  これは、「〜ので」でも同じです。 ?雨が降ってきたので、中止にしましたか。      雨が降ってきたので、中止にしたんですか。  「〜て」はAとBの結びつきが単純なので少し違います。  お金がなくてバスに乗れませんでしたか。  これは、「お金がない→バスに乗れない」全体が一つの事柄として受け取ら れ、そのことが起こったかどうかを聞いています。「〜のですか」を使って、      お金がなくてバスに乗れなかったんですか。 とすると、「バスに乗れなかった」理由は「お金がなかった」ことかどうかを 聞く意味にもなります。イントネーションやポーズの取り方によっても違うよ うです。  理由節が否定の焦点になる場合を考えます。つまり、その理由でなく、外の 理由で主節のことが起こったのだ、という場合です。      勉強が嫌いだから学校へ行きたくないんじゃないんだ。友だちにい      じめられるから行きたくないんだ。 理由の否定は「〜のではない/わけではない」などによって表されます。  「〜ので」ではちょっと言いにくいようです。     ?彼女が金持ちなので結婚したのではありません。      彼女が金持ちだから結婚したのではありません。      

50.10 〜からか/ためか

 理由表現には、他の連用節とは違った特徴があります。「か」を付けて不確 定な表現にすることができるのです。「それが理由かどうかはわからないが」 という気持ちです。      宣伝が足りなかったからか、会場はがらがらだった。      何もしてあげなかったためか、彼女の態度は冷たかった。      おさい銭をはずんだおかげか、しばらくいいことが続いた。      前の晩に雨が降ったせいか、空気がしっとりとしている。 何を思ってか、彼は突然こんなことを言いだした。      そのことが災いしてか、彼の昇進は取り消された。  「〜てか」はあまり使われませんが、他の形はよく見るものです。「〜ので か」という形はありません。「〜のか」という形がありますが、これは以上の 理由表現とは違うようです。上の例は、多く「〜から/ために」などの形にし ても意味が通りますが、「〜のか」は対応する理由表現が成り立ちません。      目覚ましが鳴らなかったのか、目が覚めたら9時だった。      どこへ行ったのか、部屋には彼女の姿はなかった。      cf. 宣伝が足りなかったから、会場はがらがらだった。       ?目覚ましが鳴らなかったので、目が覚めたら9時だった。  「理由」が不確かなことを表すのではなくて、単に状況の説明の一つを疑問 の形で出しているだけです。これは「59.複文のまとめ」でとりあげます。

50.11 まとめ

50.11.1 理由表現の重なり

理由が二つ重なる場合、つまり、理由となる事柄が成り立つためにまた別の ことが理由となっている場合を考えます。     雨が降って涼しくなったので/から、二人で散歩に出た。  「散歩に出た」のは「涼しくなった」からですが、では「涼しくなった」の はなぜかというと、「雨が降った」からです。この「〜て」と「〜ので/から」 を逆に使うことはできません。「〜て」のほうがかかる範囲が狭い、と言うこ とができます。    ×雨が降ったので/から 涼しくなって散歩に出た。  次の例も同じです。     お金がなくてバスに乗れなかったから、歩かざるを得なかった。  「〜ために」と「〜ので」を使った例。     会社が倒産したため、収入がなくなってしまったので、苦しい状態が     しばらく続いた。 「収入がなくなってしまい、〜」の形にして、文構造としては並列にし、そ こに理由の意味合いを持たせたほうがいいでしょう。 ちょっと無理のある例かもしれませんが、「〜て」「〜ために」「〜ので」 を一緒に使った例。     この冬は暖かくて氷が十分厚く張らなかったためにスケート場が使え    なかったので、十分な練習ができなかった。  さらに、「〜できなかったから、大会の成績はひどかった」などとするのは 無理でしょう。

50.11.2 理由節のテンス

 「理由−行動」「原因−結果」という論理的順序からすれば、次の順序は当 然のことと言えます。      人に会ったので、帰りが遅くなった。[会った→遅くなった] けがをしたので、足が痛い。 [けがをした→痛い] しかし、次のような文も珍しくありません。   人に会うので、急いで会社を出た。 [出た→会う]  つまり、従属節の現在形が、主節より以後、将来を表しています。「急いで 出た」理由は、「人に会う」という(その時点では)将来の予定です。  次の文もふつうの文です。従属節の現在形が将来のことを表しています。 明日試験があるので、勉強している。[勉強する→試験がある]  次の例はちょっと特殊なものです。      (今日で全部終わったつもりだったけれど、)      明日まだ試験があったので、今から勉強しなきゃならない。  発話時より将来のことに過去形が使われていますが、この「あった」は「想 起」です。「ある」と同じです。一般的に従属節の過去形が将来のことを表せ るわけではありません。(それができるのは連体節です。「明日早く来た人に あげる」→ 56.5) 従属節の過去形は、過去のことを表すのがふつうです。ただし、最初の例の ように主節より以前のこととは限りません。      昨日9時から試験があったので、朝早く起きた。[起きた→あった]  動きの動詞の現在形が、主節より以後を表すとも限りません。      犬がしきりに吠えるので、窓から外を見た。  [吠える→見た]  「吠えた」とももちろん言えます。  状態性の述語の現在形は、主節の過去と同時を指すことができます。   暇な/だった のでぶらぶらしていた。      大きすぎる/た ので中に入らなかった。  最初の「理由−行動」という「順序」の話に戻ります。理由節の現在形が主 節より後のことを表すのは、一見この順序に反するように見えます。しかし、 その場合、将来の「予定」が確定していると話し手が思っている、ということ が大事なのです。 友だちが来るので、ビールを買っておいた。 というとき、「買った」時点で、「友だちが来る」ことは確定しているのです。 言い換えれば、「来るから買う」とは「来ることになっているから買う」とい うことを表しています。  

50.11.3 「は」と「が」

 主体が同一の場合、「Nは」がふつうです。      私は、疲れて/疲れたので/疲れたから/疲れたため、休んでいた。  「Nが」は数が少ないでしょう。      兄が、受験勉強で疲れて、倒れてしまった。 次の例のように、両方に同一主体の「Nが」が使われる場合もあります。      彼が責任者なので、すべて彼が責任を持って事にあたらねばならな      かった。 主体が違う場合、従属節は「Nが」が基本ですが、「Nは」になる例がけっ こうあります。状態性の述語の場合、それに対比の意味合いが強い場合などで す。      今日は3日ですから、返却日は10日ですね。       店長は風邪で休んでいたので、彼女が全部取り仕切った。      こっちは終わったから、あとはあれを運ぶだけだ。 参考文献 森田良行・松木正恵1989『日本語表現文型』アルク出版      グループ・ジャマシイ編著1998『日本語文型辞典』くろしお出版   野田春美1995「「のだから」の特異性」『複文の研究(上)』 岩崎卓1993「ノデ節、カラ節のテンスについて──従属節事態後続型のルノデ/ルカラ──」待兼山論叢 日本学篇27号 岩崎卓1996「ノデの視点とノニの視点−トイウノデとトイウノニから−」『現代日本語研究』3大阪大学 岩崎卓「ノダカラ」の統語的特徴について小泉古稀記念『言語探求の領域』 賈朝勃「カラ・ノデ節中の述語の「同時型スル形」」不明・紀要 神永正史「ノデ節、カラ節の、ル形とタ形について」不明・紀要 三枝令子1993「語形から機能を知る−ので、のに、だけで、だけに、の分析を通して−」『言語文化』30一橋大学 塩入すみ1995「カラとカラニハ」宮島他編『類義下』くろしお出版 白川博之1996「理由を表さない「カラ」」『複文の研究(上)』くろしお出版 宗田安巳「日本語の原因・理由表現について−命題性からみた複文と単文の相互関係」小泉古稀記念『言語探求の領域』 趙順文1989「国語辞書に見る「もので」の記述」『吉沢典男教授追悼論文集』 張麟声1998「原因・理由を表す「して」の使用実態について−「ので」との比較を通して−」『日本語教育』96 豊田豊子「理由を表す「て」」NAFL通信講座 中畠孝幸1995「ダケニとダケアッテ」宮島他編『類義下』くろしお出版 姫野伴子1995「「から」と文の階層性−演述型の場合−」阪田記念 前田直子1997「原因・理由を表す「ばかりに」と「からこそ」」『東京大学留学生センター紀要第7号』 望月通子1990「条件づけをめぐって−「理由」の「シテ」と「カラ」−」『日本学報』9大阪大学 青山文啓1995「ある複文の中の助動詞」『阪田雪子先生古稀記念論文集 日本語と日本語教育』三省堂