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52.様 子

      52.1 V−て など     52.2 V−ながら 52.3 V−まま      52.4 V−とおりに 52.5 V−ように 52.6 V−そうに 52.7 その他    補説§52   52.7 その他 52.7.1 連体節+N+デ 52.7.2 NヲNニ(シテ):付帯状況  補説§52   §52.1 村木新次郎の論文から   §52.2 寺村論文:「「付帯状況」表現の成立の条件  主節の述語の表す動作・状態などに関して、その「様子」を表わす表現には 次のようなものがあります。      足を組んで座っていた。      頭に手を当てながら、「熱がありますね」と言った。      本を手に持ったまま眠っている。      本に書いてあるとおりに作ってみました。        父がやったように、私もやってみたい。   「様子」とは、言い換えれば「どのように(して)」「どのような状態で」 という疑問に対する表現です。

52.1 V−て/V、〜/V−ないで/V−ず(に)

 「V−て」については、前に「継起」や「並列」などの用法と一緒に「様子」 の例も出しておきました。もう少しくわしく見てみましょう。  ここで問題になるのは、「Vて」がその動作のあとの様子を表わす用法です。  動詞は瞬間動詞で、その結果主体の様子が変わるようなものです。      腰に手を当てて、立っていた。      赤い服を着て、列の真ん中にいた。  「腰に手を当て」たり、「赤い服を着」たりすると、その主体の様子がそれ 以前とは変わっていて、その状態で、主節の動作や状態が実現しているのです。  ほかの動詞を「−て」の形にしてみると、      本を読んで/学校へ行って/友達と会って など、その後をどう続けても、上の例のような「様子」を表すことにはなりま せん。      網棚に荷物を載せて、眠っていた。 のような場合は「主体の様子が変わった」とはいいにくく、「状況」などとも 言えるのですが、とりあえずはここに並べておきます。      鏡を見て、化粧を直した。 のような例も、「様子」に近いのですが、「手段」を表すものとして別にしま す。「どのように」というより、「どうやって」という意味合いです。  中立形の「V、〜」の形も、当然同じように「様子」を表します。ただし、 書きことばになります。      いすに腰かけ、何か考え込んでいた。      カーテンを閉め、部屋に閉じこもっていた。  否定の「V−ないで」の形。話しことばでよく使われます。      その老人は吊革にもつかまらないで立っていた。 何も見ないですらすら答えた。      彼女は誰にも頼らないで、一人ですべてやった。 「Nも・・・ない」の形で強調したほうが安定するようです。 「V−ず(に)」は「V−ないで」とほぼ同じで、より書きことばです。 子供は、後ろを振り返らず、そのまま去っていった。      差出人の名前を見ると、封を切らずに胸のポケットにしまった。 上の「V−ないで」の例は、みな「V−ずに」で言えます。「46.並列」で あげた例文も参照して下さい。  感情を表す動詞の場合。      父はひどく怒って、私をにらんでいた。      彼は泣いて謝ったが、許してもらえなかった。      「絶対勝つぞ!」選手たちは勇んで立ち上がった。 それを聞くと、彼女はがっかりしてこう言った。  「がっかりして、それから」とも考えられますが、「がっかりした状態で」 とも言えます。      父がおみやげを見せると、弟は飛び上がって喜んだ。  本当に「飛び上がって」いるわけではないので、比喩的な表現です。

52.2 V−ながら 

 「ながら」はまえに「同時進行」という意味でとりあげました。(→46.4)  ここの例も、同時ではあるのですが、二つの動作の同時進行というよりも、 「AながらB」の形で、Bの動作が行なわれるときの主体の様子をAが示して います。Aは継続する動作で、Bは短い動作です。      泣きながら謝った。              じっと天井を見つめながら、こう言った。         頭に手をやりながら、「どうも、どうも」と笑った。

52.3 〜まま(で)

    名詞・形容詞を受ける用法は「14.形式名詞」で扱いました。ここでは動詞を 受ける用法を見てみます。  ある動作Aをした後、その状態が続いていて、Bが起こります。「〜て」に 近いのですが、その状態が変わっていないこと、変えようとしなかったことに 重点があります。      ドアの前に立ったまま、ずっと彼を待っていた。      電気を付けたままで、眠ってしまった。      窓を開けたまま、ちょっとでかけて、空き巣に入られた。      その本はそこに置かれたまま、忘れ去られた。      会の正式な名前も知らないまま、会員になってしまった。      何もわからないまま、連れていかれた。      被告が出廷しないまま、裁判が始まった。  結果の状態を表わす「−たまま」か、否定の「−ないまま」の形で使われま す。「あることが起こって、その状態で」、「あることが起こらない、その状 態で」という意味です。  この「まま」は「形式名詞」で、「ままで」の「で」は、名詞述語の「だ」 の活用形です。したがって、「ままだったら/ままに/ままの」などの形にも なります。  「V−ままだ/V−ままになる」など      そのプレゼント、まだ値札がついたままですよ。      鍵が開いたままだったら、閉めておいて下さい。      食器が水につけたままになっていた。       窓を開けたままにして、どこかへ行ってしまった。  「V−ままのN」      鍵を閉めたままの非常口      生まれたままの裸で  「指示・命令を表す動詞」+「まま(に)」という使い方があります。「〜と おりに」と同じ意味になります。「〜がままに」は古い言い方です。      彼の言うままになってはいけない。        先輩に言われるままに、入会した。      指示されるままに動いたが、後で考えると、犯罪すれすれだった。  次の例では、連用節とは言えないでしょう。「〜のこと」の省略と考えられ、 名詞相当です。      見たまま、聞いたままを話してください。  

52.4 V−とおり(に)

       「とおり」は「道」であり「やり方」です。「Nのとおりに」「Nどおりに」 の言い方もあります。(→14.10)  動詞は基本形・た形の両方があります。  基本形の意味は将来および現在すでに起こっていること(状態・繰り返し、 など)の場合が多くあります。      説明書のとおりに/説明どおりに 組み立てた。      これから私が説明するとおりに操作してください。      彼女の言うとおりに手紙を書き、宛名を書いた。(言ったとおりに)      書いてある/あった とおりにやってみた。        指示されたとおりに歩いていった。      これから私がいくつかの言葉を言います。私が言ったとおりに書い      てください。(言うとおりに)  最後の例の「言ったとおり」は、将来のことについて、それが実現した時点 から見て「以前」なので「タ形」を使うことができます。  言語・思考関係の動詞が使われます。      言われたとおり   思ったとおり   ねらったとおり      考えていたとおり   信じていたとおり   期待したとおり   「とおり」も形式名詞で、この「に」も名詞述語の「だ」の活用形ですから、 他の活用形もあります。  「V−とおりだ/になる」      あなたの言ったとおり でした/になりました。      地図に書いてあるとおりだったので、すぐにわかりました。  「V−とおりのN」      予想したとおりの結果になった。      占いに書いてあったとおりの人に出会い、結婚した。

52.5 V−ように

    名詞を受ける「ような・ように」は「14.形式名詞」で説明しました。  「ように」は、さまざまな用法があって、わかりにくいものです。基本的な 意味は、ある動作の「様子・ありさま」です。  「V−ように・ような」は、そのVのやり方・様子を問題にし、「それと似 たやり方・様子で」主節の動作が行われることを表します。      あわてて、弁解するようにそう言った。      彼はにらむように私を見た。 飛び出すように外へ出ていった。 呆れたように両手を広げた。      思い出したように言葉を付け加えた。  上の例のように、同じ種類の動作で、主節のほうがより広い意味範囲の場合 と、感情・思考などの動詞が精神的な状態を表す場合があります。 次は比喩的な例。      彼女は鶴が舞うように清楚に踊った。  その様子と似ている、それを思い起こさせる、そのようなやり方で踊ったの です。ある様子を典型的に持つ他の何かにたとえるこの用法はよく見られます。      狼が牙をむくように、彼女に襲いかかった。      空に星があるように、浜辺に砂があるように、・・・  「似ている」という意味では、後の「類似」の表現に近いものです。      夢を見ているように立ち上がり、外へ出ていった。           凍り付いたようにその場から動けなかった。  実際には「凍り付いた」わけではありません。「〜て」を使って、      凍り付いてその場から動けなかった。 とすると、本当に寒かったのです。  「〜かのように」という形もよく使われます。      そこに彼がいるかのように話し始めた。      誰もいないかのように振る舞うのを傍若無人という。      何もなかったかのように、また本を読み始めた。  本当はそうでないのに、そう行動します。「かのように」はこれ全体で一つ の表現です。話し手が「何もなかったか」と思ってしまうような態度で、です。      あたかも神話を歴史的事実であるかのように教科書に書き、教えた。 「まるで・あたかも・さも」などの副詞が共に使われます。      あの小説家はまるで見てきたかのように歴史小説を書く。 次に、「類似」の表現。 君がわからないように、僕もわからない。      これから私がやるようにやって下さい。      さっき曲げたように、もう一度曲げてみなさい。  「これからやる」「さっき曲げた」そのやり方で、です。  頭の中のイメージと同じように。      思うように書けない。      やりたいようにやるさ。  「〜と同じように」という、まさに同等を表す表現もあります。   私が夢を見たのと同じように、彼もまた理想を追いかけたのです。  言語や思考に関する動詞では「前触れ」や「まとめ」の表現として使われま す。前後で述べたり書いたりしたこと、それと同じだ、という意味です。 次に述べるように、この問題は・・・      以上に述べたように、この問題は・・・ ちょっと考えればわかるように、この問題は・・・      ソクラテスも言ったように、「よく生きる」ことが大切だ。  かんたんに言えば、「以上のように」「ご存知のように」のように、「Nの ように」となります。

52.6 A−そうに

 様子を表す「〜そうだ」は「38.4 〜(し)そうだ」でとりあげました。そこ でも「〜そうに」の形に触れました。そのまま連用節になりそうですが、動詞 を受ける場合は「V−そうになる」となるのがふつうです。      ボタンが取れそうになっている。      お金がなくなりそうになったので、またアルバイトをした。 ?木の葉が落ちそうにゆらゆら揺れている。(落ちそうになって)  自由に連用修飾できるのは形容詞の場合に限るようです。      彼は朝から晩まで忙しそうに走り回っている。      子供はうれしそうにおみやげを受け取った。      行員が大きなかばんを重そうに運んでいた。 喫茶店の店員が暇そうに通行人を眺めていた。 そんなに嫌そうに言わなくたっていいじゃないか。      東京で見る雪はこれが最後ねとさみしそうに君がつぶやく  まわりから見て、その主体の(内面的な)状態が推測されることを表します。 上の例の「重そうに」というのは「かばん」に対する推測ではなく、それを運 ぶ「行員」の心理状態の推測です。

52.7 その他

 連用節ではありませんが、「様子」およびそれに近いものを表す形式をとり あげます。

52.7.1 連体節+N+で

 「6.補語のまとめ」の中で「様子:Nで」をとりあげたときに、修飾語が付 くことが多いことを述べましたが、その修飾部分が連体節の形になっている場 合が多くあります。  形の上からは連用節の一つとは言えませんが、「様子」を表す複文の構造と してここにあげておきます。「形」を問題にすれば、「時」の連用節のほとん どは「連体節+形式名詞+助詞」の構造です。      うれしそうな声で、「あら!」と叫んだ。  この「うれしそうな」を省略することはできません。「必須の」修飾語です。 人の様子を表す「声で・顔で・足どりで・手つきで・身振りで・態度で・恰好 で・姿で・歩き方で」など、みな修飾語を必要とします。      がっかりした顔で      疲れたような足どりで     いかにも手慣れた、簡単なことだという手つきで      俺に任せろという態度で      浮浪者のようなみすぼらしい恰好で   人以外でも使われます。      鶴が見学者の心を奪う優美な姿で舞い降りてきた。      カタツムリがこれ以上はゆっくりできないという進み方で歩く。      戦闘機が機首を海に突っ込んだ状態で墜落していた。      再建案が予想もしなかった形でまとまった。     

52.7.2 NをNに(して):付帯状況

 これは「様子」ではなく、「付帯状況」とよく言われるものです。「様子」 はある事柄の中で、その時の主体の動きや状態などを描写するものですが、 「付帯状況」はその事柄を包み込むような周りの状況、また、その事柄が起き るに至った状況などを補足的に述べるものです。事実の描写になり、書きこと ばで多く使われます。      今回の公演を機会に交流が深まってほしい。      「もう疲れました。」その言葉を最後に、彼女は職場を去った。      美しい田園風景を背景に若い男女の恋愛が展開する。      若い貴族の女性、マリーを中心にして、その家庭や友人が描かれる。      その年をピークに、地価は下がり始めた。      何よりも住民の安全を基本に、開発事業を進めていきたい。      地域の発展を名目に、税金の無駄遣いを続けている。      一人の小学生を主人公に、その生活をゆったり描いた映画。  「NをNに」の順を逆にすることはできません。     ×背景に田園風景を〜。      cf.彼女に手紙を/手紙を彼女に 渡した。  その意味で、この形は型として固まったものです。     この「付帯状況」は「様子」よりもずっと広いもので、「条件」「理由」 「目的」などを表すこともできます。      年俸アップを条件に再契約に応じた。      担当者の不在を理由に取材を断られた。      交渉再開を目的に来日した。 年内達成を目標に各支店が競い合った。  この「AをBにV」は、多くの場合「AがVのBだ」という意味関係にあり ます。そしてBは、「何かの」B、であるような意味を持った名詞です。最初 の例(「〜を機会に」)で言えば、      今回の公演が交流が深まる機会になってほしい。 と言えますし、「機会」は常に「何かのための機会」です。上の「〜を条件に」 の例は、 年俸アップが再契約に応じた条件だ。 となります。これらの名詞が修飾節を受ける形は「56.連体節」で扱います。 補説§52へ [参考文献] 前田直子1994「「比況」を表わす従属節「〜ように」の意味・用法」『東京大学留学生センター紀要』第4号 前田直子1996「必須成分として機能する「〜ように」節の意味・用法」『東京大学留学生センター紀要』第6号 前田直子1993「「目的」を表す従属節「〜するように」の意味・用法」日本語教育79号 安田芳子1997「連体修飾形式「ような」における〈例示〉の意味の現れ」日本語教育92号 寺村秀夫1983「「付帯状況」表現の成立の条件−「XヲYニ・・・スル」という文型をめぐって」『日本語学』10月号(『寺村秀夫論文集機戮忘届拭北声書院 村木新次郎1983「『地図をたよりに、人をたずねる』という言いかた」『副用語の研究』明治書院 吉永尚1997?「付帯状況を表すテ形動詞と意味分類」『日本語教育』95 三宅知宏1995「〜ナガラと〜タママと〜テ」宮島他編『類義下』くろしお出版 花田康紀1993「同時的な複数の運動の表現−「〜しながら」と「〜したまま」−」