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62.文どうしの関係

62.1 概観                62.2 並列・継起・逆接       62.3 論理的関係           62.4 言い換え        62.5 補足   62.6 転換   62.7 接続助詞と接続詞   62.8 理由説明 からだ・ためだ   62.9 文脈説明 のだ・わけだ      [補足§62] 62.2 並列・継起・逆接など  62.2.1 ソシテ  62.2.2 ソレカラ 62.2.3 スルト 62.2.4 シカシ・ダガ・ケレドモ・トコロガ 62.2.5 ソレトモ・アルイハ・マタハ   62.2.6 ソレニ・ソノウエ・シカモ・マタ  62.3 論理的関係:理由・条件  62.3.1 ダカラ・ソレデ・デ・ソコデ  62.3.2 スルト・ソレナラ    62.3.3 ナゼナラ・ダッテ・ナゼカトイウト・トイウノハ 62.4 言いかえ:ツマリ・スナワチ・ヨウスルニ  62.5 補足:タダシ・タダ・モットモ・ナオ 62.6 転換:ソレデハ・サテ・トコロデ 62.8 理由説明    62.8.1 〜カラダ/タメダ   62.8.2 〜タメダ 62.8.3 〜セイダ/オカゲダ  62.9 文脈説明        62.9.1 〜ノダ       62.9.2 〜ワケダ      [補足§62]   §62.1 接続詞の分類     横林・下村『接続の表現』    §62.2 市川孝:文の関係の類型    §62.3 ソシテとソレカラ 新屋・姫野・守屋『日本語教科書の落とし穴』   §62.4 ワケ 五味政信(1988)から 寺村秀夫「日本語のシンタクスと意味II」 A.Alfonso 「Japanese Language Patterns」(1966) 『形式名詞がこれでわかる』から   §62.5 ノダ 『日本語文法ハンドブック』(初級)から 『現代日本語文法4 第8部モダリティ』から   §62.6 野田尚史「子文・親文」

62.1 概観

 文と文の関係とそれを表す表現を見ていきます。その中心は、もちろん接続 詞です。接続詞には、名詞などの一つの単語をつなぐもの、節と節をつなぐも のがあり、それらについてはすでに見ました。(→ 5.10 、55.3)  ここでは、独立した文と文との間に現われるものを見ていきます。 接続詞は文と文との関係を示すためのものですから、一つの文を記述するた めの文法では、本来説明できないものです。一つの文の中の文法規則を越える ものなので、この本では最後になってとりあげることになってしまいました。  実際の日本語教科書では、もっと早く提出されています。この本の「基本述 語型」、つまり名詞文や動詞文が一応わかり、とにもかくにもかんたんな文が 作れるようになった段階で、すぐ接続詞が使われます。初級のごく初めの作文 を例にした「60.2 文のつながり方」の中でも、接続詞を使いました。      わたしは毎日あさからばんまで日本語をべんきょうします。      けれども、日本語はとてもむずかしいです。      ですから、わたしはまだ日本語があまりじょうずではありません。 日本語を少しずつ習いながら、それを実際に使って行こうとする学習者たち は、基本述語型のだいたいを理解しただけで、かなりのことを表現できます。  しかし、ただ単文を並べて行くだけでは、文の間の論理関係がはっきりしま せん。そこで、接続詞が必要になります。接続詞をうまく使えば、基本的な単 文を並べることで、(複文の構造や、その基礎となる普通形などの活用の難し さを気にすることなく)一応の会話をすることもできます。あとは話の内容に 応じた単語力の問題です。  しかし、適切に接続詞を使うためには、前後の文の意味内容、そしてその文 の間の意味関係を正確につかみ、それに合う接続詞が選べることが必要です。  これは、実はかなり難しいことなのです。それで、微妙に意味のずれた使い 方になってしまいがちです。基本的なものほど、意外に使い方が難しいという ことは、接続詞にも当てはまることです。  初級でよく出される接続詞の主なものは、      そして それから だから しかし すると では さて・・・・ などですが、接続表現として実際に使われるのは、一般に接続詞とされるもの よりもずっと広く、様々な形が使われます。  ここではそれらを「接続詞相当句」として接続詞と同様に扱います。  また、接続詞にも接続詞相当句にも指示語を含んだものがかなりあり、一つ のグループとしてまとめられます。  さらに、前の文の内容を受ける形として、「だ」や「する」を含んだ接続表 現があり、独特のグループを形作ります。  以下でとりあげる接続表現の中には、ほとんど従属節に近いものがあります が、「文の接続」という観点から、接続詞相当句として扱います。  具体的な議論の方法としては、まず初めに、従属節を形作る形式との比較の 中で、接続表現の問題点を考えてみます。「複文」と「連文」とは、いったい 何が違うのかということです。      図書館へ行って、本を借りた。      図書館へ行った。そして、本を借りた。    とても難しかったので、あまりできなかった。      とても難しかった。それで、あまりできなかった。 手紙をもらったが、返事を出さなかった。      手紙をもらった。しかし、返事を出さなかった。      窓を開けると、子どもたちの遊ぶ声が聞こえた。      窓を開けた。すると、子どもたちの遊ぶ声が聞こえた。  接続詞の中のかなりのものが、上の例のように意味的に対応する従属節があ ります。従属節と対応しないのは、      さて、そろそろ始めましょうか。      つまり、まだぜんぜんできていないというわけですね。 のような接続詞です。それらのいくつかを取り上げて用法を調べる中で、従属 節と、つまり複文と対応しない接続の型とはどういうものかを考えます。  次に、指示語を含んだ接続表現をとりあげ、なぜそのようなものが多いのか を考えます。最後に、以上のことを考える中で浮かび上がってくる、文を接続 するとはどういうことか、という問題を考えてみます。   では、接続表現の用法を一つ一つ見ていきながら、そこにある問題を考えて いきましょう。類似の複文との対応に注意します。

62.2 並べる・続ける・加える・反対する

 基本的な、二つの文を「並べる」形から見ていきます。それから、それに近 いものをいろいろと。一つの接続詞がいくつかの関連する用法を持っているの で、それぞれ比較対照する接続詞をあげていくと、どんどん広がっていきます。  

62.2.1 そして(そうして):継起・並列

 連用節の最初に「〜て、〜」をとりあげましたが、最初にとりあげる接続詞 もそれに対応する「そして」です。  辞書などを見ると、「そして→そうして」とあり、「そうして」の項を見る と、「そして」とも言う、と書いてあることが多いのですが、現在ではこれは 全く逆でしょう。「そして」が「そうして」の「くだけた言い方」なのではな く、「そうして」のほうが書きことば、あるいは、何らかの効果をねらった言 い方なのでしょう。 それはともかく、最も基本的な接続詞です。    A 前の文に続いて次の文の内容が起こることを表す か、または、    B 前の文の内容に次の文の内容を並べて述べる 場合に使われます。 (A) 学校へ行きました。そして、日本語を勉強しました。   彼は恋をした。そして、結婚した。      彼は銀行から金を借りた。そして、事業を始めた。  これは当然、前の動作は完結していて、述語は動詞に限ります。それに対し て、Bは動詞に限りません。    (B) 太郎は山へ行った。そして、花子は海へ行った。      彼女は昼は会社で働いた。そして、夜は大学に通った。      私はアルバムを見ていた。そして、ふるさとを思い出していた。   これは私の本です。そして、それは田中さんのです。   これは安い。そして、とびきりおいしい。  (A)(B)の用法は、「〜て、〜」の用法の「継起」「並列」と並行していま す。ただし、こちらのほうがいちど文を言い切っているだけ、後から「付け加 えている」という感じが強くなります。      彼は恋をして、結婚した。 というと、それ全体で「一つの事柄」という意味合いが強くなります。それに 対して、      彼は恋をした。 でいちど文を切ると、その後「しかし」などで受ける可能性が生まれ、そこに ほんの少し、緊張感が生まれます。ちょっと間をもたせる、と言ってもいいで しょう。  そこを「そして」で受けると、物事が順調に進んで、二つの文で一つの事柄 が完成する、ということになります。ただし、「〜。そして失恋した」とも続 けられますが、その場合は「恋→失恋」で「一つの成り行き」が完成したと考 えるわけでしょう。 上のBの後の二つの例では、「そして」で結ぶのはちょっとわざとらしい感 じがします。「〜て、〜」で結んでしまって、複文にしたほうが自然でしょう。  「そして」で結ばれる二つの事柄は、全体で一つのまとまりを持つものであ ることが必要です。時間的関係なり、対比的関係なりを持った、「同質の」内 容でなければなりません。関係のない事柄を結ぶと、奇妙な文章になります。     ?これは安いです。そして、あれは赤いです。     ?彼は銀行から金を借りた。そして、居間でテレビを見た。  「〜て、〜」の用法の中で、理由・手段・様子は、「そして」では表しにく いようです。      おなかが空いて、力が出ませんでした。      おなかが空いていました。そして、力が出ませんでした。      おなかが空いていました。それで、力が出ませんでした。  「〜て」の従属節は理由と解釈されますが、「そして」の例はそれぞれ別の (しかし、その時の状況を表すという点では一つの)ことと解釈されやすいで しょう。  前の文をあとの文の理由としたいなら、理由を表す他の接続詞「だから」や 「それで」を使うことになります。 手段・様子は、ある一つの状況から一つの面を「手段+動作、様子+動作」 として取り出して表現する用法なので、二つの文にして「そして」で結ぶだけ では表せません。 日本人はナイフやフォークのかわりに箸を使います。そして、肉で      も魚でも食べます。 毎朝バスに乗ります。そして、学校へ行きます。   鏡を見ました。そして、自画像を描きました。      いすに座っています。そして、新聞を読んでいます。  それぞれを、「〜て、〜」でつないだ文を考えてみて下さい。「そして」に すると二つの文が並ぶだけで、「手段・様子」などといった用法とは別のもの になってしまい、微妙なずれを感じます。  ここで「そうして」を使うと、「そう」の「様子」という元の意味が生きて、 前の文の内容を指示することができます。      日本人は箸を使います。そうして、肉でも魚でも食べます。      鏡を見ました。そうして、自画像を描きました。 「そして」と「そうして」の違いは、ここに多少現れます。 「〜て、〜」で結ばれた二つの文が同じことを表す言い換えにすぎない場合、 「そして」は使えません。      担当者は彼で、私ではありません。     ×担当者は彼です。そして、私ではありません。   担当者は私ではなくて、田中さんです。 「〜て、〜」には「逆接」という用法も例外的にありますが、これは意味の 問題で、形式としては同じになります。あとで「しかし」などをとりあげると きに「逆接」の問題に触れます。

[ソシテとムード]

 「〜て、」はそれ自体のムードを持たず、主節のムードと同じものと解釈さ れます。(→ 46.1.5)      それを持って、ここに立ちなさい/立ってください。      これから散歩に行って、本を買うつもりだ/買ってこよう。 「持って」は、「持ちなさい」「持ってください」に、「行って」は、「行 くつもりだ」「行ってこよう」の意味になります。  「そして」も、その両側の文のムードに似たような制限があります。例えば、 前が命令文なら、「そして」に続く文も命令文です。      それを持ちなさい。そして、ここに立ちなさい。     ?それを持ったね。そして、ここに立ちなさい。     ?彼が来ました。そして、彼に会ってください。  疑問文を二つ「そして」でつなぐ場合は、多少特別な文体的効果を感じます。      これがあなたので、こっちが彼のですか。      これがあなたのですか。そして、こっちが彼のですか。 明日の委員会にお出になって、ご意見を発表なさいますか。 明日の委員会にお出になりますか。そして、ご意見を発表なさいま      すか。  一度文を切って、相手の反応を待ち、さらに畳みかけるようです。  意志表現の場合。前の「〜て、」の例文と比べてみてください。 ?これから散歩に行こう。そして、ついでに本を買ってくるつもりだ。      これから散歩に行こう。そして、ついでに本を買ってこよう。 「しよう」と「つもりだ」では、同じ意志表現と言っても、ムードとしてはず いぶん違います。その場の、直接的な意志表明と、少し前に考えてあった心づ もりの違いです。「しようと思う」なら、「つもりだ」と共に使えます。      これから散歩に行こうと思う。そして、ついでに本を買ってくるつ      もりだ。

62.2.2 それから:継起・数え上げ

「それから」は「そして」の二つの用法に対応する用法があります。まず、 二つの事柄が続いて起こることを表します。もちろん複文の「V−てから」と 関連があります。「そして」の継起の用法と近いものです。      食事をしてから、映画を見た。      食事をした。それから、映画を見た。      食事をした。そして、映画を見た。 まず、この仕事を片づけてしまおう。それから、食事に行こう。      「昨日は5時に会社を出ました」「それからどうしましたか」  「それから」は二つの動きの前後関係・順序を問題にする文型ですから、逆 の順序もあり得ます。      映画を見た。それから、食事をした。  逆の順序があり得ない場合に使うと不自然です。この点は「〜てから」と同 じです。     ?彼は恋をした。それから、結婚した。(○そして)     ?彼は恋をしてから、結婚した。 (○て)  「そして」は状態動詞や「Vーている」で表された同時に起こる二つの動作 を結ぶことができますが、「それから」ではできません。 ?私はアルバムを見ていた。それから、ふるさとを思い出していた。 ?彼は一人で部屋にいた。それから、手紙を書いていた。 前後・順序に近い用法で、「V−てから」と同様に、「それ以来ずっと」の 意味も表せます。あとの文は時間の幅を表します。      5年前、日本に来ました。それからずっと日本にいます。      先週、難しい幾何の宿題を出された。それから毎日考え続けている。  「それから」のもう一つの用法は、名詞の接続でとりあげた「数え上げる」 用法に近いものです。これは「〜てから」にはない用法です。      問題は、教員の不勉強です。それから、職員の怠惰です。      送別会には田中が来た。それから、山田も来た。  この「それから」は、時間の前後ではありません。次の例と比べて下さい。      2時ごろ田中が来た。それから、山田も来た。 前の文で時間が示されているので、前後関係にとられやすくなっています。そ れでも、「数え上げ」ととれないとは言えませんが。  「それから」には「そして」と同じようなムードの制限はありません。「〜 てから」と同じです。      お母さんが帰ってきてから、遊びに行きなさい。      もうすぐお母さんが帰ってくる。それから遊びに行きなさい。  主体が同じ場合には、どちらも命令文になります。      まず宿題をやってから、遊びに行きなさい。      まず宿題をやりなさい。それから、遊びに行きなさい。 「命令文+それから」のあとにはやはり命令文が来るのがいいようです。  意志を表す文も、続けられます。      初めに、例の問題を片付けよう。それから、今日の仕事に取りかか      ろう。  疑問文を二つ続けるのは、あまり自然ではありません。      結果を見てから、次の手を考えますか。      まず、結果を見ますか。それから、次の手を考えますか。  むしろ、次のように言うでしょう。      まず、結果を見て、それから、次の手を考えますか。

62.2.3 すると:継起

 連用節の「〜と」と密接な関係があります。「継起」の用法はほぼ同じです。 条件を表す用法が、連文になると少し変わってきます。  それと、「論理的帰結」という大げさな名前の用法がつけ加わります。それ らの用法はまた別の項で扱います。  「継起」の用法では「そうすると」の形もあります。「と」だけで使うのは、 小説調の書きことばです。 基本的な使い方は連続した事実の描写です。  私はお風呂に入りました。すると、電話のベルが鳴りました。      私は風呂に入った。と、電話のベルが鳴った。 太郎は箱を開けました。すると、中から煙が出てきました。      朝が来た。すると、鳥たちがいっせいに鳴き始めた。      彼女は、彼の言葉の嘘に気がついた。すると、急にそこにいること      に耐えられなくなった。  ただし、同一主体の意志的な動作はだめです。     ×彼は部屋に入ってきました。すると、いすに腰かけました。 cf.彼は部屋に入ってくると、いすに腰かけました。 「そして」や「それから」との違いは、「すると」の場合は、その二つの事 柄があらかじめ予定・予想されていたことではないという点です。多少の意外 性があります。  「は」と「が」のかかり方について、「複文のまとめ」で出した「〜と」と 「〜て」の比較のための例文を、「すると」と「そして」に替えてみましょう。      太郎は上着を脱いだ。すると、彼はそれをハンガーにかけた。      太郎は上着を脱いだ。そして、彼はそれをハンガーにかけた。 「すると」のほうは、「太郎」と「彼」が違う人を指しているように感じま す。主題の「Nは」でも「すると」を越えて後ろの述語にかかれないことがわ かります。ここは、複文と連文の違うところです。  「〜と」の「発見」に対応する用法もあります。 私は目を開けました。すると、ベッドの横に母が立っていました。 いつものようにドアを開けた。すると、前の廊下に猫がいた。  逆に、前の文が継続性の例。複文の「〜シテイルト、シタ」に当たります。      私は部屋で本を読んでいた。すると、ドアをノックする音がした。

62.2.4 しかし・だが・けれども・ところが:逆接

これまた最も基本的なものです。「逆接」の接続詞、と言われます。直感的 には、「そして」と反対の関係を表しますが、「そして」はふつう「累加・継 起」とされ、「逆接」の反対概念である「順接」の接続詞というと「だから・ それで・したがって」などがあげられます。このずれについては後で考えてみ ます。  「しかし」は少し書き言葉的なところがあります。「けれども」は「けれど」 「けど」などの形にもなります。「だが」は「が」だけの形もあります。これ らは用法がかなり似ています。代表として「しかし」を少しくわしく見ます。

[しかし]

 複文の「〜が、〜」に対応し、前の文の内容に反するような文が続きます。 1 私は学校へ行きました。しかし、勉強はしませんでした。 2 彼はすばらしい恋をした。しかし、結婚はしなかった。 3 これはおいしいです。しかし、それはおいしくないです。 4 これは私の本です。しかし、それは田中さんのです。 例1・2・3の場合は、前の文と後の文の内容が反対なので、「逆接」とい う呼び名にぴったりです。 さて、例4の場合は「私の本」と「田中さんの」が相反する内容ですから、 「しかし」が使われるのですが、この例は「そして」の例としても使ったもの です。また、例3も「そして」を使うことができます。 これは私の本です。そして、それは田中さんのです。      これはおいしいです。そして、それはおいしくないです。 同じ文の連続に「そして」も「しかし」も使いうるというのは、どういうこ とでしょうか。   「前の文の内容に反する」ということについて考えてみましょう。いろいろ な場合がありますが、基本的なものから。   。繊В舛糧歡      これは赤だ。しかし、それは赤ではない。   ■繊В臓殖叩殖帖ΑΑ      これは赤だ。しかし、それは青だ/黒だ/白だ/朱だ。 以上の二つの場合は、「そして」を使うことができます。二つの文を「対比」 の関係と見れば「しかし」が使われ、両者がまとまって一つの事態を表してい ると見れば「そして」が使われるのでしょう。  その意味で、この「しかし」は「逆接」というより、「対比」としておくの がいいでしょう。   「AかつB」が否定される      これはおいしい。しかし、高い。  「おいしい・安い」が望まれる一つの組合せで、それに反しています。      これは安い。しかし、おいしくない。 と対になります。では、次の例はどう考えるのでしょうか。      これはおいしい。しかし、安い。 この場合、「おいしい→高いはずだ」という常識的な論理が裏にあるのでし ょう。次のい任后   ぁ孱羨a」の「A」「→」「a」のどれかが違う。   (勉強すれば、試験の点はいい)      勉強した。しかし、試験の点はよくなかった。      勉強しなかった。しかし、試験の点はよかった。       勉強した。だから、試験の点はよかった。      試験の点はよかった。しかし、勉強したからよかったわけではない。 一つの文の内容の否定ではなく、二つの文の間にある論理を何らかの形で否 定するものです。これらは「そして」と対応せず、「だから」などと対応しま す。  なお、い虜埜紊領磴蓮◆嵎拔しなかったけれどよかった」と、「勉強はし たけれど、よかったのは別の理由による」という場合と、二つの可能性があり ます。これは否定のかかり方の問題です。  以上の例は、かなり人工的に基本的な形にしたものです。実際には「対比」 「逆接」関係がわかりにくいものがいろいろあります。      朝になった。しかし、夫は帰ってこなかった。  「朝になる→夫は当然帰っているはず→しかし、帰ってこない」の真ん中の 部分が省略されています。このような省略はごくふつうのことです。      子どもはかわいかった。しかし、彼はなぜか抱くのが怖かった。       「かわいい→抱きたくなるはず→しかし〜」」 私はアンチ巨人だ。しかし、巨人が弱すぎるとつまらない。       「アンチ巨人だ→巨人が弱いとうれしいはず→しかし〜」  このぐらいの推論は当然のこととして、「しかし」が使われます。しかし、 この推論の部分がわからないと、日本語学習者はつまづいてしまいます。      これは安い。しかし、こっちのはもっと安い。  これはなぜ「しかし」なのでしょうか。「これで満足かも知れない。しかし、 満足してはいけない」というような論理でしょうか。   「しかし」には、以上の用法のほかに、話を切り替える用法があります。      「もうすぐ頂上だぞ」「ああ。しかし、腹減ったなあ」      よし。レポートができた。これで単位はもらえる。しかし、我なが      ら汚い字だねえ。      「いやあ、満開だねえ」「きれいねえ」「さて、どこがいいかな。      しかしまあ、人がいっぱいだねえ」       これらの例は直接の論理的な関係はありませんが、「望ましいこと:望まし くないこと」という対比があると言えるかもしれません。  連用節の「〜が、〜」の後に重ねて使うこともあります。      確かに彼のいうとおりだが、しかし、それを認めては負けになる。 「ね・ですね」などをつけて、相手の意見に反対であることを示す言い方も よく使われます。      「これで絶対大丈夫です」「しかしね、そううまく行くかねえ」

[逆接とムード]

後の文はさまざまなムードになり得ます。      田中は来なくていい。しかし、お前は来い。      確かに、箱はここにある。しかし、中身はどこだ? 前に命令が来ると、後の文はその内容の否定、つまり禁止に類するムードに なります。違った命令にもなります。      これをやりなさい。しかし、人に助けてもらってはいけないよ。      この荷物を片付けろ。しかし、この箱は置いておけ。 なるべく早く帰ってこいよ。しかしまあ、夕方でもいいや。  「命令文+しかし」の後に、ふつうの断定・描写のような文を続けようとす ると、うまく行きません。      レポートを早く提出しなさい。しかし、締め切りまで十日ある。 この後に、「〜から、そんなに急がなくてもよい」のような、禁止の反対の許 容の表現を付けたくなります。  疑問文を二つつなぐのは変な感じがします。     ?あした行きますか。しかし、彼とは会いませんか。  逆接というのは、前の文(節)に対して反対のことを言うわけで、前の内容が ある程度はっきり決まらないことには言えない性質のものです。ですから、      あした行きますか。しかし、彼はいないと思いますが。 のように、「行く」ことを仮定して、それに対して「しかし」と逆接的内容を 続けていくのです。   なお、話しことばとしては「しかし」はずいぶん改まった、あるいは硬い感 じがします。以上の例でも「けれども・だが」などのほうがぴったりします。 以上、逆接の接続詞の代表として「しかし」について少しくわしく見てみま した。以下では、「しかし」に意味が近い「だが・が・けれども・ところが・ でも」をかんたんに見てみます。

[だが/ですが]

 「だが」は、ナ形容詞・名詞述語の「だ」+「〜が、〜」ですが、動詞文を 接続することができます。硬い言い方です。「しかし」にあった、話を切り替 える用法はありません。      彼女は優秀な研究者だ。だが、今回の実験には失敗した。      実験は失敗した。だが、我々はあきらめない。  「だ」は丁寧形の「です」と交替します。丁寧体の中で使われ、柔らかい言い 方になります。      実験は失敗しました。ですが、私達はあきらめません。      「この話はちょっと無理ですね」「ですが、そこを何とか・・・」  さらに丁寧な話し方では、「ではございますが」という形も可能です。  これは、他の接続詞にも多く見られることですが、述語の語尾を含み、その丁 寧形もあるということは、日本語の接続詞の一つの大きな特徴です。  複文の「〜が、〜」の「前置き」の用法は、「だが」にはありません。

[が]

 「だ/です」のない「が、〜」の形は、書きことばで、文体的効果をねらっ ている感じがします。一度言い切った後から付け加える感じです。      この仕事は非常に難しい。が、やりがいがある。 この仕事は非常に難しいが、やりがいがある。 彼はその日、やってきた。が、時間に間に合わなかった。

[けれども]

「しかし」よりも話しことば的で、「けれど」「けど」「だけど」など、い ろいろな形で使われます。 田中君の家へ行きました。けれども、田中君はいませんでした。 これはなかなかいいね。だけど、値段も高いねえ。  この形も、元は複文の接続助詞によるものです。「声はすれども姿は見えず」 などと言うときの「すれども」に名残が見られます。  複文を作る場合にも同じ形で使われます。 田中君の家へ行ったけれども、田中君はいなかった。  「だが」と同じように、「だ・です」を付けた形があります。「で(は)ござ いますけれど(も)」を別にすれば、次のような形がすべて使えます。   ┌───────┬──────┬─────┬─────┐   │けれども   │けれど   │けど │ │   │だけれども  │だけれど  │だけど  │だけども │ │ですけれども │ですけれど │ですけど │ │ └───────┴──────┴─────┴─────┘  「けれども」以外は話しことばです。「〜けど(も)」はかなりくだけた言い 方です。「だ・です」を含む形は、「だが/ですが」と同じように使い分けら れます。「ですけども」は、「です」の丁寧さと「けども」のぞんざいさが合 わないように感じますが、実際には使われているかもしれません。

[ところが]

 「ところが」は、以上のものと少し違った特徴を持っています。  ある状況を受けて、予想されたこととは違ったことが起こったことを表しま す。後の文が、確定したことであることが大きな特徴です。連用節の「〜した ところ(が)」よりも使用範囲が広く、多く使われます。      彼は金庫を開けた。ところが、中には何もなかった。      彼らは、我々をつかまえようと待っているだろう。ところが、あい      にくなことに、我々はそこへは行かないのである。     ×彼女は毎年優勝している。ところが、今年は優勝できないだろう。 (○しかし/だが/けれども) ×これからパーティがある。ところが、私は行かないつもりだ。  推量や話し手の意志のある文とは使えません。

[でも]

 話しことばでよく使われます。その前の内容を一応認めて、しかしなお言っ ておきたい、ということで、言い訳・不承諾の理由などにも使われます。  逆接の条件表現「〜ても、〜」ともともとは関係があるのでしょうが、それ とは多少違った用法になっています。      急いでも間に合わなかった。      急いだ。でも、間に合わなかった。      遊びに行きたい。でも、行けない。明日試験だから。      これ、いいねえ。でも、ちょっと小さいかな。      「これで大丈夫だね」「でも、もう一度確かめたら?」 ちょっと言い過ぎたかなあ。でもまあ、あのぐらい言わないと、本      気でやらないからなあ、あいつは。 負けちゃってごめん。でもね、これでも必死でがんばったんだよ。      「何度も言ってるでしょ、何で片付けないの!」「でもぉ・・・」  「それ」のついた「それでも」という形もあります。      9回裏、7点差で負けていた。それでも、我々はあきらめなかった。      何にもお礼はできないよ。それでも、僕等を助けてくれるかい?

62.2.5 それとも・あるいは・または:選択

 いくつかの選択肢を示す表現です。基本的に疑問文を結びつけます。複文の 場合は「55.3 連用節をつなぐ接続詞」でとりあげました。

[それとも]

疑問文を結びます。次の「あるいは」「または」との違いは、一つの疑問文 を言ったあとで、さらに付け加えているという感じがすることです。話しこと ばでよく使われます。      コーヒーは先にお持ちしますか。それとも、お食事のあとにいたし      ましょうか。 今から行こうか? それとも、明日にする? どれがいいかなあ。これもいいねえ。それとも、こっちかなあ。

[あるいは]

 名詞・疑問文をつなぐことができます。硬い言い方です。それぞれの文が独 立しているという感じが弱く、二つの文で組になっていると見なせます。      生きるべきか、あるいは、死ぬべきか。      このまま続けたほうがいいか。あるいは、止めたほうがいいのか。 卒業してすぐ就職するか。あるいは、大学院へ進むか。そろそろ考      えておきなさい。      ここでじっと助けを待つ。あるいは、道を探して歩き回る。どちら      を選ぶか。  最後の例は、二つの文が名詞節に近くなっています。 次の例は、推量のムードで、内容が確定していないために「あるいは」で結 べるのでしょう。   あと50年生きるかもしれない。あるいは、明日死んでしまうかも      しれない。

[または]

名詞・疑問文を結びますが、「あるいは」と同じく、二つの文が一組になっ ています。      バスに乗ってみるか、またはタクシーで行くか。どちらにせよ、金      が要る。  AとBを結んでください。または、AをBに結び、BをCに結んで      ください。 この例はちょっと不自然に感じる人がいるかもしれません。

62.2.6 それに・そのうえ・しかも・また:累加

[それに]

 前の文の内容と同じ類のことを付け加えます。複文の「〜し、〜」に近いも のです。何かの理由として述べることが多いです。      日が傾いてきた。それに、風も出てきた。早く帰ったほうがいい。      (日が傾いてきたし、風も出てきたし、〜)      これがいいよ。なんたって安いし。それに、おまけまで付いている      よ。  数え上げるような用法もあります。      田中や山田がいたな。それに、田山と中田もいたな。      

[そのうえ]

 複文の「〜うえに(54.1.5b)」と対応する接続詞です。前の文と同じような評 価の内容を付け加えますが、後の文のほうが程度がより「上」であることが多 いです。 父にひどく叱られた。その上、こづかいを没収された。      彼はなかなか男前だ。その上、頭が切れて、金があるんだから、い      やになる。 最近、輸出が伸び悩んでいる。その上、株価が下落してきた。

[しかも]

 「そのうえ」と同じような意味を表しますが、前の事柄(のよさ、ひどさ) をさらに強調するような内容を補足する用法もあります。      この本は薄くて高い。しかも、内容がない。      彼女は子どもが6人いた。しかも、ふたごが二組いた。大変だった。 よくまあ、こんなすごいことをやったもんだ。しかも一人で。 妹が朝早くから電話をかけてきた。しかも、つまらない用事だった。  最後の二つの例は、「そのうえ」では少し合いません。 「しかも、その上」と二つを続けて使うこともあります。      私の妻は家事が大嫌いだ。しかも、その上、おしゃべりで買い物好      きだ。

[また]

 これも、後の文が前の文の内容につけ加わるのですが、同じ類のことでなく ともよいのが特徴です。少し違った方面のことや、反対のことなどでもかまい ません。また、上の三つに比べると、その事柄に対する評価の含みが特にあり ません。客観的に並べるだけです。 この公園は木がたくさんある。また、花も植えられている。      この公園は木がたくさんある。それに/その上/しかも、花も植え      られている。(大変よい公園だ)  「また」の例では、事実として述べているだけですが、「その上」などでは 積極的によい評価を与えています。    彼は、日曜にはテニスをすることが多い。また、ゴルフにもときど      き行くことがある。      彼女はしっかりしていて働き者だ。また、子ども好きでもある。  「しかしまた」という言い方もあります。     この小説は、まず読んで面白い。しかしまた、人生について深く考      えさせるところもある。広く推奨する次第である。

62.3 論理的関係:理由・条件

 次に、二つの文が論理的関係を持っているものを見ます。まず、前の文が後 の文の理由を表すもの。次に、前の文が条件を表す関係。最後に、後の文が前 の文の理由になっているもの。そして、それに関連して、接続詞ではなくて、 後の文の文末の形式が二つの文を関連づけるような表現を見ます。 

62.3.1 だから・それで・そこで・で:理由(1)

[だから]

 連用節の「〜から」と関係があります。前の文が、後の文の原因・理由を表 わします。「だ」+「から」ですが、前の文が動詞文でもかまいません。  「ですから」は丁寧体専用の形です。「だから」は普通体・丁寧体のどちら にも使えます。丁寧な話し方では、「でございますから」という形も使えます。 きのう、財布を落としました。だから、今お金がありません。 きのう、財布を落としました。ですから、今お金がありません。 高気圧が近づいています。ですから、明日はよく晴れるでしょう。 上の例のような「事実」だけでなく、意志や命令を表す文を続けることもで きます。これも、「〜から」と似ています。 明日は休みだ。だから、ゆっくり朝寝坊しよう!      勉強すれば受かるよ。だから、がんばりなさい。      中学の同窓会は久しぶりだ。だから、ぜひ出席したい。  述語に焦点のある疑問文はふつう付けられません。 ?雨が強くなってきました。ですから、外出は取りやめにしますか。     ?明日は久しぶりの同窓会だね。だから、出席するかい?   これらの場合、接続詞は何もないほうが自然でしょう。  「出席するかどうか」という質問はできませんが、「出席する」ことがわか っていて、その理由を聞くのなら言えます。      今日は例の彼女が来るんだってね。だから、君も来たのかい?      雨が強くなってきましたね。だから、外出しなかったんですか。  これは、複文で、疑問の焦点が従属節になることと並行しています。     ?あの人に会いたくないから行きませんか?      あの人に会いたくないから行かないんですか?      (行かないことは既定。その理由が「会いたくない」)  質問ではなく、理由を納得する場合。文末は下降調です。      台風が来てるって? だから、雨が強いのか。  勧誘の「〜ないか」。      今日、みんな集まるんだ。だから、君も来ないか?  相手を非難するように強く言う場合。続く文は聞き手の知っていることです。 確認を表す「〜のだ」「〜じゃないか/の」が付いています。      「切符忘れてきた!」「だから言ったじゃないの。かばんに入れて      おきなさいって」      みんな君のことが心配なんだ。だからこうして集まってきたんじゃ      ないか。(集まってきたんだよ)  相手のことばAに対して、「A。だからB」のBを反語的に問う場合があり ます。      「これはあなたの責任だ」「だからどうした/何だって言うの?」  また、「〜から、〜」と同様に、「判断の根拠」も表せます。      窓が開いているね。だから、(彼女は)外出はしていないよ。  その理由を強調し、ほかの理由ではないという意味で「だからこそ」という 形もよく使われます。     科学は進歩しすぎて、我々の理解を越えてしまった。だからこそ、宗     教が再び人々の心をとらえているのだ。 「〜から」に対して「〜からといって」という形があったように、「だから といって」という接続詞があります。     今年の夏は例年より暑い。しかし、だからといって、いつも冷房の中     にいては健康に良くない。外で汗をかくべきだ。     子どもはかわいいが、だからといって、かわいがってばかりでは子ど     もがだめになる。

[それで]

 「それ」は指示語で、前の文脈をさします。連用節の「〜ので」に対応する ところがあります。短く「で、〜」と言う場合もあります。 〜阿諒犬鮓彊として次の文が起こることを表わすのですが、前のことの自然  な結果として考えます。 けさ電車の事故がありました。それで、授業に遅れました。 初めてで、道がわかりませんでした。それで、交番で聞きました。      この村は空気も水もきれいです。それで、長生きが多いのです。      恋人から手紙が来た。それで、彼は一日中うきうきしていた。      何とか荷物を届けられました。で、帰ろうとしたんですが、・・  以上の例はみな「〜ので」で書き換えられます。 「自然な結果」ですから、意志や命令の文には使えません。ここが「だから」 との違いです。(「〜ので」の制限はもう少しゆるいです) ?明日は休みです。それで、ゆっくり朝寝坊をします。(○ですから     ×明日は休みだ。それで、ゆっくり休みなさい。(○だから)  意志でなく、単なる事実の説明なら、将来に関することでもかまいません。 明日は休みです。それで、ゆっくり朝寝坊ができます。 接続詞の「それで」は、名詞「それ」+助詞「で」とは違います。 けさお金を拾いました。それで、バスで学校へ行きました。 この「それで」は、「そのお金で」(名詞「それ」+助詞「で」)なのか、 「よぶんなお金が入ったので」という理由を表わすのかはっきりしません。 ∩蠎蠅慮斥佞鮗けて言う場合は、少し違った用法になります。「だから」や  「そこで」はふつうの疑問文に使えませんが、「それで」は相手が言ったこ  との続きとして、事態の続きを問うことができます。      「昨日、電車が事故で止まっちゃってね」「へえ、それで、試験に      は間に合ったの?」      「その時、急に頭が痛くなったんです」「それで、どうなさいまし      た?」(「で、どうしたの?」)  また、「それで」だけで話の続きを促します。      「財布を落としちゃったんです」「それで?」「ちょっとお金を・・」  話しことばでは、「で」が「それで」の代わりによく使われます。話の続き をうながしたりする場合に使われます。      「やれやれ、やっと終わったな」「ああ。で、これからどうする?」      「まいったなあ。カンニングばれちゃった」「え?そりゃまずいな。      で、どうなった?停学?」 この用法は、あとで見る「帰結」の「すると」や「それでは」に近いもので す。

[そこで]

 「そこ」はもちろん場所を示す指示語ですが、ここでは「場面・状況」を表 します。ある状況の中で、主体が考え、判断してある行動をとります。主節の 動詞は意志動詞です。無意志動詞・形容詞などは使えません。      給料日の前に金がなくなった。そこで、サラ金から借りた。      どうもいい例文が浮かばない。そこで、辞書を調べてみた。     ×試験は中止になった。そこで、みんな助かった。(○それで)  これを「で」だけで言うと、「それで」か「そこで」かはっきりしなくなり ます。どちらでも似たような意味ですが。      どうすればいいかわからなくなった。で、彼に電話した。  「それで」と同じく、意志や命令の文には使えません。事実のみです。     ×こんなにお金が余った。そこで、おいしいものを食べに行こう。      (○だから)    場所を表す「そこ+デ」はもちろん別です。      橋を渡ると、そこで道が二つに分かれていました。そこで、私は地      図を取り出しました。  この例の場合、初めのほうは「その場所で」ですが、二番目の「そこで」は、 「状況の解決のために」です。 

[そのため(に)]

これは接続詞とは言えないのですが、複文の「〜ため(に)」と対応する形で す。話しことばではあまり使われません。      台風が近づいてきたために、風雨が強くなってきた。      台風が近づいてきた。そのため、風雨が強くなってきた。  このような客観的な事実関係の報告を「だから」でつなぐと、あまり落ち着 いた文になりません。      台風が近づいてきた。だから、風雨が強くなってきた。  風雨の強さの原因を、話し手が特に説明している、という印象になります。 文末に「〜のだ」をつけて、「だから、風雨が強くなってきたのだ」としたく なります。ニュースに「そのため」が多く使われるのはそのためでしょう。  

62.3.2 なぜなら・だって・なぜかというと・というのは:理由(2)

 以上見てきた「理由」の接続詞は、「A。だから、B」のように、AがBの 理由となるものでしたが、以下でとりあげるのは、「B。なぜなら、A」の形 で、前の文の理由を後から述べるものです。  複文で言えば、「BのはAからだ」という強調構文の形と同じような順序に なります。あとの文が「〜からだ」となることが多いです。  なお、「〜からだ」は、「62.9 理由説明」の中で再びとりあげます。

[なぜなら]

 書きことばです。「なぜならば」とすると、さらに硬い表現になります。      このレポートはダメだ。なぜなら、自分の主張がないからだ。      実験は即刻中止すべきだ。なぜなら、安全性に疑義があるからだ。

[なぜ/どうして かと言うと/言えば]

 同じ「なぜ」を使った表現として、「なぜかと言うと/言えば」もよく使わ れます。「どうしてかと言うと/言えば」も同じです。敬語を使って、「〜と 申しますと」と言うこともできます。話しことばでは「〜と」が「〜って」に なることがあります。      私はその運動に参加しませんでした。なぜかと言うと、政治的な意      図が感じられたからです。      こっちのほうが好きだなあ。どうしてかって言うと、デザインもい      いし、軽そうだし。  強調構文の焦点のところにこの「なぜ」を続けると、      私がその運動に参加しなかったのはなぜかと言うと、〜からです。 という形になります。  

[というのは]

上の「なぜ/どうして か」を省略した形と言えます。同じ「言う」を使っ た表現です。「〜と言う理由・根拠は」ということでしょう。      彼は絶対戻って来る。というのは、ここに彼の車の鍵があるからだ。      この方法では無理です。というのは、前にやってみて、失敗したこ      とがあるからです。  

[だって]

 話しことばで非常によく使われます。理由を説明する表現ですが、いいわけ をするときにもよく使われます。文末に「〜もの」が使われることがよくあり ます。子どもがよく使います。      「こんなのイヤだよ」「どうして」「だってさ、安っぽいよ」      「どうして授業さぼったの」「だってえ、つまんないんだもの」  はっきり理由を聞かれていなくても、自分から言うことができます。      「ママ、お金ちょうだい」「もうおこづかいないの?」「だって、      CD買っちゃったんだもん」 「お金がない。その理由は・・・」の説明です。  以上、「A。だから、B。」に対応する表現として、「B。〜、A。」の形 になる接続詞を見ましたが、実際には「〜から(だ)」だけで十分ですから、い つも使われるわけではありません。(言いわけの「だって」はよく使われます) 彼は絶対戻ってくる。ここに車の鍵があるからだ。

62.3.3 すると・それなら:条件

[すると]

「〜と」の一般的条件の文は、そのままでは連文にできません。      春になると、花が咲きます。     ?春になります。すると、花が咲きます。  「すると」の前の文が安定しません。複文では、主節を導くための条件の節 だったので、実際に実現した事柄ではありません。それを、独立した文として 言い切ってしまうと、現実の事柄として提示することになるからです。      今は寒いけれど、もうすぐ春になります。すると、あたり一面花が      咲きます。それは見事ですよ。 というふうに、具体的な話の中に入れると安定します。(「もうすぐ春になる と、〜」とは言えません。)      その角を右に曲がると、郵便局があります。      その角を右に曲がります。すると、郵便局があります。      その角を右に曲がって下さい。すると、郵便局があります。  二番目の例は、不自然と言うほどではないかもしれませんが、最後の例のよ うに、具体的な場面の中で「V−てください」のような形にすると、文として のムードをはっきりと持ち、安定します。      塩をちょっと入れてください。すると、とてもいい味になります。      ここで、塩をちょっと入れます。すると、とてもいい味になります。 現在形で言うのは、実際にやって見せながら手順を説明するような場合でし ょう。 水は100度になると、沸騰します。     ?水は100度になります。すると、沸騰します。

[論理的帰結]

 「すると」のもう一つの用法で、前の文から推論して、ある結論を得たこと を表します。これは「〜と、〜」では言えないものです。「〜とすると」に対 応しますが、そうすると前の節の内容は確定しているかどうかわかりません。      「病気で一月寝ていました」「すると、会社は休んでいたんだね」 「彼女とは幼なじみです」「すると、親同士も知り合いですね」      妻は部屋にいた。すると、今トイレにいるのは誰だ?       5人で3万円ですか。すると、一人6千円払ったわけですね。  これらは「それでは」を使うこともできます。次の例ではダメです。      山田はずる休みをするだろう。すると、仕事はこっちに回ってくる      だろう。(×それでは)

[とすると]

 上の「論理的帰結」を表し、「すると」で置き換えられます。 彼女は犯人ではない。とすると、彼を殺したのは誰だ?  複文の「〜とすると」ともちろん関係があります。      彼女が犯人でないとすると、彼を殺したのは誰だ?  こうすると、「犯人でない」かどうかははっきりしません。

[それなら]

「〜なら」に対応する接続詞です。前の文が相手のことばか態度を表すこと が多いです。      「もうあんたにはやめてもらうよ」「そうか。それなら、こっちに      も考えがある」      「これは俺にもできない」「それなら、母さんに聞いてみる」      もう5時になりましたか。それなら、私は帰りましょう。      食べないの? それなら、僕がもらっちゃうよ。 「そういうわけなら」「そういうことなら」などの形でもよく使われます。  次のような「それなら」はもちろんまったく別です。      「こっちはいくら?」「それなら、百円だよ」(それは)

62.4 つまり・すなわち・ようするに:言い換え

 前の文の内容を別のことばで言い換えるときの表現です。「言い換えると・ 言い換えれば」「他のことばで言えば」などの言い方もあります。  連用節とは特に対応しません。

[つまり]

 「つまりは」という形もあります。あることを、もう少しわかりやすい、は っきりした言い方で述べるときのことばです。   今回のことは、営業担当者の判断ミスによるものです。つまり、営      業部に責任があります。      予算は5万円です。つまり、一人当たり5千円しかありません。 詳しく言えば長くなっちゃうんだけど、まあ、つまりは、相手に対      する配慮がちょっと欠けていた、ってことなんだよね。  論理的な結論を言うときにも使われます。細かい説明を省いて、多少短絡的 な言い方にもなります。      この問題に関して言えば、彼は多少知識と経験に欠けるところがあ      ります。つまり、彼には無理だということです。      彼女はそのとき私と一緒にいました。つまり、犯行現場にいたはず      がないのです。

[すなわち]

   「つまり」とほぼ同じような言い換えの表現ですが、かなり硬い言い方です。 名詞を言い換える用法が基本です。      十年前の知事、すなわち田中氏が私に語ったところによれば、・・・   言語は音声による伝達のための道具である。すなわち、記号体系の      一種である。 二番目の例でも、「すなわち」が言いかえているのは「音声による伝達のため の道具」という名詞句の部分です。      

[ようするに]

 文字通り、要約して要点を述べます。      何かあればすぐ休む。来てもだらだらとやる。要するに、あいつは      根っからの怠け者なんだ。        要するに、何が言いたいの?    単なる言い換えではいけない点が「つまり」とは違います。

62.5 ただし・ただ・もっとも・なお:補足説明

 並列、特にその中の逆接に似たところがありますが、後の文の内容が前の文 と対等な関係でなく、付け足し的な内容で、例外的な条件、補足などを表しま す。「〜が。」「〜けれど。」などの文末で終わることがよくあります。

[ただし]

   基本的な規則、決定に対する例外的条件を聞き手に示します。命令文が使え ます。硬い表現です。 本堂に入ってもよい。ただし、履き物を脱ぐこと。(〜よいが、)      参考書をよく調べること。ただし、人のは見るな。      雨天決行。ただし、台風が来た場合は別(だが)。 「〜が、〜」で置き換えることもできますが、その場合もさらに付け加えて、      本堂に入ってもよいが、ただし、履き物を脱ぐこと。 のようにも言えます。注釈を付ける副詞のようです。

[ただ]

「ただし」とほとんど同じですが、話しことばです。例外的条件というより、 話し手の感想を付け加える程度の軽い場合があります。なお、限定の副詞の 「ただ・・だけだ/ばかりだ/しかない」とは違います。 一応できたよ。ただ、最後のところがまだ終わらないんだ。 なかなかいいね。ただ、ここが持ちにくいのが欠点だな。      面白い映画だったよ。ただ、ヒロインがもっと美人だとよかったん      だけど。 もう帰っていいよ。ただ、明日はちゃんと来てよ。  複文の場合。      負けたんだけど、ただ、いくつかいい場面はあったね。

[もっとも]

 前の文の内容を一応認めた上で、少し割り引いた批評などを付け足します。 「ただ(し)」に近いのですが、命令・依頼などには使えません。      提案には皆が賛成した。もっとも、心の中まではわからない。 相手の責任なんだから、もっと金を要求してもいいんですよ。もっ      とも、あなた自身がそうしたくないと言うんなら別ですが。  「最も」や「もっともだ」とはもちろん違います。

[なお]

  一つの事柄を伝えた後、追加的な情報、例外的条件の対処方法などを付け足 します。副詞の用法とつながっています。      ワープロソフトは3種類入っています。なお、計算ソフトは入れて      ありません。必要な人は言ってください。 以上で委員会を終わります。なお、幹事の人はこの後ちょっと相談      したいことがありますので、ここに残ってください。  次は副詞。「さらに」という意味合いです。  これまで、長くこの問題について述べてきたが、なお、述べておき      たいことが一つある。

62.6 それでは・さて・ところで:話題の転換

 新たな展開、または転換を表す接続詞です。このような意味関係は、複文で は表せません。

[それでは・では]

 形の上では、「それ」+「で」+「は」ですが、接続詞以外の形と関連づけ ることができません。「それでは」という形は、単文でも使われますが。      「このナイフはどうですか」「それでは切れません」 この「それでは」は、「それ(=そのナイフ)+では」です。  「では」だけでもほぼ同じ用法です。話しことばでは、「それじゃ(あ)/じ ゃ(あ)」の形がよく使われます。  接続詞としてはいくつかの使い方があります。基本的には、文脈を受けて、 自分の考えを提出する場合と、新しい行動に移る場合があります。      「先生、終わりました」「それでは、帰ってもけっこうです」   時間になりました。では、始めましょう。 「では、ここで失礼します」「そうですか。では、さようなら」  「じゃあね」「じゃ」など、別れのあいさつとして使われるようになります。  論理的に考えて結論を導く場合。「(そう)すると」で言い換えられます。 「参加者は私と太郎と二郎です」「では、全部で三人ですね」      「私達は旅館で休んでいました」「では、松井は一人で行動してい      たんだね」      「薬を飲んだら、すっかり治りました」「それでは、もう心配は要      りませんね」  否定的内容が後に続く場合。複文の「〜のでは」に近い用法です。これは、 「では」が使えない場合があります。 「山田も田中も休みだって」「え?それじゃ、麻雀できないなあ」 「あと5本しかないそうです」「それではとても足りません」  「それ」がはっきりと前の事柄を受けていて、それに「で」+「は」がつい たものと考えられる場合があります。      「条件はこういうことでいかがでしょうか」「それではね、困るん      ですよ」 「それでいい」の反対の表現で、「それで」は述語の表す内容の実現に必要 な要素、つまり補語です。上の例では「それ」は「条件がこういうことである こと」です。つまり、      条件がそういうことでは困るんですよ。 という意味になります。

[さて]

 一つのことが終わって、気分を改めて次の動作に移るときの表現です。ある いは、一つの話が終わって、次の話に移ります。複文の中でも使えますが、新 たに文を始めるのがふつうです。「それでは」と共に使うこともできます。      以上で、この議題を終わります。さて、次の議題ですが、・・・      暗くなってきたな。さて、それでは帰るかな。      パソコンが突然止まってしまった。さて、どうしたらいいんだろう。      説明書を読んで、さて電源を入れてみたが、何も起こらない。  考えたり、迷ったりしているときにも使われますが、品詞としては感動詞に 入れられます。   「リモコン、どこに置いた?」「さて、どこに置いたっけな」

[ところで]

関連する別の話題に移ったり、まったく別の話題を始めたりするときに使わ れます。アスペクトの「V−ところ(だ)」や、連用節の「V−たところで」 (逆接)とは関係ありません。しいて言えば、「話がここまで進んだところで、 私には話したいことがある」というような用法に近いでしょうか。      「やあ、久しぶり、元気?」「まあ、何とかね」「そう。ところで、      最近山田さんに会った?」      「最近、銀行が倒産しますね」「そうですね。銀行も信用できませ      んね」「ところで、この前お貸ししたお金は・・・」      君の私に対する批判はよくわかった。ところで、君自身の責任はど      うなるのかね? 話題を転換して、それに対する相手の反応を見るような感じで、疑問文や、 いい差しの文などがよくあとに続きます。  以上の転換を表す接続詞も、前置きの「が」などを含む複文の中では使うこ とができます。      ここがよくないことはわかったけど、じゃあ、どうすればいいのか      なあ。 で、この金が余ってしまったんだが、さて、もらっちゃってもいい      のかな。      あなたの言いたいことはわかりましたが、ところで、私にどうして      ほしいというんですか。  やはり疑問文になります。次は「から」の例ですが、 時間になりましたから、では、始めましょうか。 これは、「では」を文頭に持ってくることができます。      では、時間になりましたから、始めましょうか。

62.7 接続詞と接続助詞

以上見てきたように、複文と連文は多くの場合に対応します。文をつなぐ文 接続詞には国文法で接続助詞と言われるもの、つまり連用節を作る形式に関係 の深いものが数多くあります。いくつか例をあげてみましょう。   そして(そうして)←そう+する+て(「て」は国文法では接続助詞) ドアをしめて、鍵をかけた。 ドアを閉めた。そして、鍵をかけた。  だから←だ+から(接続助詞) 彼は中国人だから、日本の漢字の意味がだいたいわかる。 彼は中国人だ。だから、日本の漢字の意味がだいたいわかる。  だが←だ+が(接続助詞) 彼は女性に親切だが、男性には冷たい。 彼は女性に親切だ。だが、男性には冷たい。  すると←する+と(接続助詞) ドアを開けると、涼しい風が入ってきた。 ドアを開けた。すると、涼しい風が入ってきた。  格助詞の場合もあります。  それから←それ+から(格助詞) いっしょに映画を見てから、食事をした。 いっしょに映画を見た。それから、食事をした。 以上の例からもわかるように、形に共通性があり、 1. 「そ−」のもの    そ(う)して・それから・それに・それで・それでは・それでも・それ     だから・それなのに・それなら・そこで・そうすると・そうしたら・そ    のうえ 2. 「だ−」のもの    だから・だが・だけど・だって・だったら・だのに が多くあります。「で」を「だ」の活用形と考えると、「でも」「では」も関 係があると言えます。  その他にも、「である」の形から「であれば」「であるから」などの形も生 まれます。  それと、「だ系統」のものは「丁寧形」があります。    ですから・ですが・ですけど・でしたら さらに丁寧に「でございますから」などと言うこともできます。 このように、日本語の接続詞は「そ−」系列の指示語と述語の活用部分を含 んだ形をしたものが多いということが大きな特徴です。  「接続」とは、前の文と後ろの文を何らかの形で「つなぐ」ことですが、そ の機能の一つに、前の文を「受ける」という側面があります。 上で注目した「そ-」や「だ-」は、それによって前の文を受けるための形式 と言えます。(三上章は接続詞を「承前詞」と名付けています)  どちらも、最も短い形から少しずつ長くして前の文を繰り返すことができま す。 彼はとても親切だ。だから、人に慕われる。 彼はとても親切だ。親切だから、人に慕われる。 彼はとても親切だ。とても親切だから、人に慕われる。      彼はとても親切だ。それだから、人に慕われる。  もちろん、「だ」がナ形容詞文や名詞述語文を受けるとは決まっていません し、「そうして」のつづまった「そして」が動詞文だけを受けるわけでもあり ません。下の二番目の例のように、「だから」が推量の「だろう」の文を受け ることもできます。      彼は5時に来た。だから、出発に間に合わなかった。 彼は5時に来るだろう。だから、出発に間に合わないだろう。  ムードの形式だけを繰り返すこともあります。      確かに、今からでは間に合わないかもしれない。かもしれないが、      ともかくやってみることが重要だ。 これは「だが」と言ってもほとんど同じです。「だが」の「だ」は断定を表す わけではありません。しかし、上の例のように「かもしれない」を繰り返すと、 それによって、そのようになる可能性を否定できない、という気持ちが強く表 されます。

62.8 理由説明:〜からだ/ためだ

「理由」のところですでに出てきた「〜からだ」のような形をとりあげます。 「原因−結果」あるいは「理由−行動」のようなつながりの原因・理由を表す 部分を、独立した文として、結果・行動の後におくものです。  「説明」という点では「〜のだ/わけだ」に近いものですが、もっとはっき りした、言語化できる理由を表します。

62.8.1 〜からだ

   「AからB」のBが先に文として言い表され、その後に補足として「Aから だ」が付け加えられます。 この計画は無理です。予算がかかりすぎるからです。      次の日、会社を休みました。二日酔いで頭が痛かったからです。 試験はひどかった。甘く見て、勉強しなかったからだ。      私たちは中に入れませんでした。許可をもらっていなかったからで      す。(完了のテイル)      私は先に帰った。会いたくない人間が来るからだ。  最後の例の「来る」は「帰った」より後です。これを「来たから」にすると、 「帰った」より前になります。どちらにしても発話時を基準にしたものではあ りません。複文の場合と同じ相対テンスです。      〜来るから、私は先に帰った。      〜来たから、私は帰った。  強調構文の形にもできます。      私が先に帰ったのは、〜来るからだ。 Aが状態性の述語の場合、過去のことでも現在形で言えます。      私は書類を金庫にいれた。大切なものだからだ。      彼は続けておかわりをした。とてもおいしい/かった からである。 この辺のことは、「50.11.2 理由節のテンス」を参考にしてください。  理由節の「〜から」でも、強いムードがある場合は、「〜からだ」では言い にくいようです。      時間がないから、急いでください。     ?急いでください。時間がないからです。(時間がないんです。)  言えるような気もしますが、それは、2番目のセンテンスを、「なぜ私がそ う言うのかというと」という弁明の意味合いで受け取る場合でしょう。「急ぐ」 理由の説明としては、「〜んです」のほうがいいでしょう。     ?少し休もう。疲れたからだ。  また、「判断の根拠」や「その他」の用法でも「〜からだ」とはなりにくく なります。(→ 50.1) ?田中さんはまだいるでしょう。机にカバンがあるからです。 ?何かあったら呼んでください。隣の部屋にいるからです。      たくさんあるから、どんどん使いましょう。     ?どんどん使いましょう。たくさんあるからです。   

62.8.2 〜ためだ

 理由節で「〜から」と「〜ために」の違いは、「〜から」の用法が広いとい うことと、「〜ために」は確定したことに限るという点にありました。上に述 べたように、その点の違いは連文では小さくなります。それでも、「〜ためだ」 のほうが書きことば的であるという違いは残ります。 今年の成績はひどかった。遊んでばかりいたためだ。 俺はひどく怒られたよ。おまえが逃げちゃったからだぞ。(?ため)  「〜ため」は原因のほかに、目的を表す用法もありました。どちらも「〜た めだ」の形にできます。   原因      昨日風邪を引いたため、久しぶりに休んでしまった。       昨日久しぶりに休んでしまった。風邪を引いたためだ。 雨が強くなってきました。台風が近づいてきたためです。 雨戸をしっかり閉めた。台風が近づいてくるためだ。   目的      私が急いで来たのは、あなたに会うためだ。      私は急いで来た。あなたに会うためだ。        国から母が上京してきた。私に見合いを勧めるためだ。      私は会社を辞職した。会社という組織を守るためだ。                     組織のためだ。(利益・恩恵)      長い間貯金しています。留学という目標のためです。  目的はむろん現在形に限られます。原因は「〜からだ」と同様、現在形・過 去形が使われます。  「Nのためだ」という形ができる点が、「〜からだ」と違います。      クラスに遅れた。バスの事故のためだ。(事故があったからだ/の      だ)

62.8.3 〜せいだ/おかげだ

 同じ理由を表す「〜せいだ」「〜おかげだ」なども同様に考えられます。      部屋の掃除が大変だ。子供たちが散らかすせいだ。      私は幸せに生きてきた。いつも妻がいてくれたおかげだ。  「Nのせいだ/おかげだ」という形にもなります。

62.9 文脈説明:〜のだ/わけだ

ここで取り扱う「説明」はよく「ムード」の中に入れられることが多いので すが、私の考えでは「説明」をムードの一種とするのは無理があると思います。  もちろん、それぞれの文法体系の中で「ムード」をどう定義するは、その論 者の考え方によるので、かんたんにはどうこう言えませんが。それはともかく、 この本では「説明のムード」と言われているものを、文を越えた文法事項の一 つと考え、文と場面(状況)、および文と文との間に成り立つ関係、つまり連 文の問題の一つと考えて、その後者をここで扱うことにします。 さて、では「説明」とはどんなことを言うのか、ということから考えていき ましょう。「指示語」のところで「現場指示」と「文脈指示」を分けたように、 「説明」を「状況説明」と「文脈説明」に分けます。「状況説明」の「〜のだ」 は「40.その他のムード」で扱いました。  その発話の場の状況を「文の外にあるもの」と考えれば、これまで扱ってき た「文を越えた文法事項」と言えます。  その状況が言語化されれば、「文脈」になるわけです。ここでは「文脈説明」 の「〜のだ」と、それに非常に近い「〜わけだ」をまずとりあげます。  「文脈説明」は「〜のだ」と「〜わけだ」が代表的なものです。例文を見て みましょう。    1 とうとう夢がかなった。留学が実現したのだ。 2 彼はそのまま列車に乗ってしまった。故郷を捨てたわけである。 例のそれぞれ2番目の文は、前の文を受けて「〜のだ」「〜わけである」を 使っています。何らかの状況や文脈がなければ、これらの用法は浮き上がって しまいます。  まず、上の例1の「留学が実現したのだ」という形は、「夢」の内容を表し ています。次のように連体節にして一つの文にすることができます。 とうとう留学という夢が実現した。 次の例2の「〜わけである」の場合、   彼は故郷を捨てた。 だけなら、それだけで独立して意味が安定します。この文を読んだ(聞いた) 人は(「彼」が誰を指すのかわからなくても)、「彼」で示される男がいて、 その男が自分の故郷を捨てたんだな、と理解できます。ところが、   彼は故郷を捨てたわけである。 となると、「わけである」の部分が気になります。何かこの文の前にあったの だろうと思います。それを言い換えたか、結論付けたかしたのがこの文だ、と 感じます。 このような、前の文とのつながりを、適当な用語かどうかわかりませんが、 「文脈説明」と呼ぶことにします。「文脈説明」の主な形式は「〜のだ」「〜 わけだ」です。次にそのそれぞれについて少しくわしく見てみましょう。

62.9.1 〜のだ/んだ

 「〜のだ/んだ」は前に「40.3 状況説明」のところでとりあげました。そ の場合は、特にことばで表されていない状況を前提にして、「〜のです(か)」 が使われていました。      (職場で、隣の人が帰り支度を始めたので) 「もう帰るんですか」 のような例です。それに対して、ここでの「〜のだ」は、はっきりとことばに 出された文の「説明」として働くようなものです。前に出した、      とうとう夢がかなった。留学が実現したのだ。 という例の「のだ」をとってしまうと、      とうとう夢がかなった。留学が実現した。 となりますが、これでは何か物足りない感じがします。  これは順序を変えて、      留学が実現した。とうとう夢がかなったのだ。 とも言うことができます。これは、「留学が実現した」ということを「夢がか なった」ことと言い換え、説明しています。 この例は、前の文の言い換えの例ですが、前の文の事情・状況を次の文が説 明する例が多く見られます。      私はもう歩けなかった。それほど疲れていたのだ。      結局誰も手をあげなかった。回りの目を恐れて、手があげられなか      ったのだ。  これらは、後の文が前の文の理由の説明になっているので、「〜ので」を使 って言い換えることができます。      私は疲れていたので、もう歩けなかった。 まわりの目を恐れていた(手があげられなかった)ので、結局誰も      手をあげなかった。  これらにさらに「〜のだ」が付けられた文。      (私はそこでリタイアした。)私は疲れていたので、もう歩けなか      ったのだ。 これを一文にすれば、      私は疲れていて、もう歩けなかったので、そこでリタイアした。 となります。

[〜のだった]

 「〜のだ」を過去の形にすると、過去の事実にたいする反省・後悔を表す ことがあります。      私は後悔した。(今思えば)やっぱりあの時行くんだった。      こんなことになるなら、あいつに頼むんじゃなかった。  もう一つは、「想起」の用法です。(→「23.1 動詞文のテンス」) そうだ、今日は会議があるんだった。(〜あったんだ) これらは、「文脈説明」ということからは少しはずれます。  さらに「〜のだった」は、書きことばで次の用法があります。  一つは、回想的に述べる用法です。「〜のだ」は、説明する話し手の意識は 現在にありますが、この用法では、話し手がその事柄の時間に意識を移してい るような表現になります。      われわれは強く反対した。しかし、彼女は結局行ったのだった。

62.9.2 〜わけだ

 形式名詞「わけ」は「14.4」でかんたんに紹介したあと、いくつかの文型で 断片的にとりあげてきました。ここでやっと、の基本的な用法である「〜わけ だ」を紹介することができます。   「〜わけだ」は「〜のだ」に近いものですが、いくつかの用法があります。 \茲曚匹領磴里茲Δ福△△觧実を別のことばで言いかえるような例。      彼女はそのまま戻らなかった。(つまり)故郷を捨てたわけである。      来週は創立記念日で休みです。授業がないわけです。        これは「〜のだ」で言い換えることができます。 ∀斥的な関係がある時、結論につけて「〜わけだ」とします。いくつかの場 合があります。  ある事柄から推論して、結論を得るような場合。「では」 「すると」など の接続詞が使われることが多いです。      「彼のほうが家に来てくれました」「では/すると、あなたは家を      出なかったわけですね」      この数は7で割り切れません。すると、こうなるわけです。いいで      すか・・・(算数の問題解説)  計算などをして、結局どうなるか、を説明する。      大人が一人400円、子どもは200円だから、全部で、えーと、      1600円になるわけです。  その他、何かの説明で、結論的なことを言う場合。 冷蔵庫のドアというのは、普通左側に手でつかむところがあって、      右側の角の所を中心としてドアが回転して開くようになっています。      どうしてそうなっているのでしょうか。これは、右手で開けやすい      ように、つまり、右利きの人に開けやすいように作られているわけ      です。 ある事実があり、その原因を発見したとき、その事実の方に「わけ」をつけ ていいます。「〜はずだ」で言いかえられる用法で、イントネーションが他の 用法と違います。      もう休みに入ったんですか。どうりで学生がいないわけだ。      解けないわけだ。問題の数字が間違ってるんだよ。      寒いわけだ。窓が開いているよ。 ぜ分の行動など、そうする(なる)に至った事情を説明する場合。      実は、以上のような事情があったので、今日うかがったわけです。 (みかん・未完) 主要目次へ 参考文献 有賀千佳子1993「対話における接続詞の機能について−「それで」の用法を手が  かりに−」『日本語教育』79号 庵功雄1996「「それが」とテキストの構造−接続詞と指示詞の関係に関する一考察−」  『阪大日本語研究』8大阪大学文学部 石黒圭2001「換言を表す接続語について−「すなわち」「つまり」「要するに」を  中心に」『日本語教育』110 岩澤治美1985「逆接の接続詞の用法」『日本語教育』56号 岡部寛1998「ダカラとソレデの違いについて」『現代日本語研究』5大阪大学 岡本・多聞1998「談話におけるダカラの諸用法」『日本語教育』98 沖裕子1998「接続詞と接続助詞の「ところで」−「転換」と「逆接」の関係性」  『日本語教育』98 金子比呂子1998「「論の流れ」をつくるための指導−「だからといって」をめぐっ  て−」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』24 黄淑燕1998「《累加》から《展開》へ−いわゆる接続詞分類の一試案−」『現代日  本語研究』5大阪大学 甲田直美1996「選択を表す接続詞について」『日本語教育』89 田中章夫1987「接続の表現と語法(供法廖愼本語・日本文化』14大阪外国語大学 田中章夫「接続の表現と語法」『日本語・日本文化』10大阪外国語大学 中溝朋子1997「「逆接」の接続表現の「対比用法」と「展開用法」について−会話  における「けど」を例に−」『日本研究教育年報』1997東京外国語大学 長谷川哲子2000「転換の接続詞「さて」について」『日本語教育』105 浜田麻里1995「サテ、トコロデ、デハ、シカシ」宮島他編『類義下』くろしお出版 浜田麻里1995「ソシテとソレデとソレカラ」宮島他編『類義下』くろしお出版 浜田麻里1995「トコロガとシカシ・デモなど」宮島他編『類義下』くろしお出版 比毛博1989「接続詞の記述的な研究 」『ことばの科学2』むぎ書房 ひけひろし1996「接続詞のはなし(2)−「それから」と「そして」−」『教育国語』  2・22むぎ書房 ひけひろし1997「接続詞のはなし(4)−「それで」と「そこで」−」『教育国語』  2・24むぎ書房 ひけひろし1997「接続詞のはなし(5)−「だから」−」『教育国語』2・26むぎ書房 ひけひろし「「そして」と「それから」」『教育国語』むぎ書房 ひけひろし「接続詞「そこで」「それで」」『教育国語』むぎ書房 ひけひろし「「それで」「だから」「したがって」」『教育国語』むぎ書房 福島佐知1996「話しことばにおける「添加」の継続表現について」『日本研究教育  年報』1996東京外国語大学 守屋三千代「添加型の接続語について」不明・紀要 渡辺学1995「ケレドモ類とシカシ類」宮島他編『類義下』くろしお出版 青山文啓「因果関係とその説明」 清水佳子1997「主題連鎖と「のだ」との関連」『現代日本語研究』4大阪大学 市川保子1998「接続詞と外国人日本語学習者の誤用」『九州大学留学生センター紀要』9 林謙太郎1986「現代語における接続詞の用法(機法廖惴豎惴Φ罅45拓殖大学語研 吉原博克1998「日本語の連文における直接受動文の一機能−「非主語主題化能動文」  との対照から−」『日本学報』17大阪大学 青山文啓1992「説明をめぐる日本語の文末表現」 『東海大学文明研究所紀要』12 井上和子「文−文法と談話文法の接点」『言語研究』84 甲田直美「転換を表す接続詞「さて」「ところで」「では」をめぐって」不明・紀要 佐久間まゆみ2002「接続詞・指示詞と文連鎖」『複文と談話』岩波書店 砂川有里子「談話主題の導入形式に関する研究ノート」 土井真美1987「説明付加型の連文の構造と機能」『日本語と日本文学』7筑波大学 野田尚史1998「「ていねいさ」からみた文章・談話の構造」『国語学』194集 カレル フィアラ「文と文章との間」