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[補足§62]

  §62.1 接続詞の分類     横林・下村『接続の表現』    §62.2 市川孝:文の関係の類型    §62.3 ソシテとソレカラ 新屋・姫野・守屋『日本語教科書の落とし穴』   §62.4 ワケ 五味政信(1988)から 寺村秀夫「日本語のシンタクスと意味II」 A.Alfonso 「Japanese Language Patterns」(1966) 『形式名詞がこれでわかる』から   §62.5 ノダ 『日本語文法ハンドブック』(初級)から 『現代日本語文法4 第8部モダリティ』から   §62.6 野田尚史「子文・親文」

§62.1 接続詞の分類

 接続詞(複文の接続助詞を含めて「接続の表現」)の分類にはいろいろな考え方が あると思われます。一つの例として次のものがあります。本文を書くときに参考にし ました。 横林・下村『接続の表現』荒竹出版 の分類 (分類は市川孝を参考に) 論理的関係でつなぐ  順接    条件      ハ゛、タラ(バ)、ナラ(バ)、ト   帰結(理由−結果)    A  カラ、ノテ゛、テ    B  タメ、ソノケッカ、ダカラ、シタガッテ、ユエニ       ソノタメ・コノタメ   展開    A  スルト、ソコテ゛、ソレテ゛、ソレデハ          B  ソレナラ、コウシテ、マシテ、イッポウ   解説(結論−理由)       ナゼナラ、ナゼカトイウト、ダッテ、トイウノハ、トイイマスノハ  逆接   条件       テモ/デモ、トコロデ、ト   逆接      A  シカシ、ケレドモ、ダケト゛、カ゛、ダガ、トコロカ゛    B  デモ、ソレデモ、ニモカカワラス゛、ソレニシテモ、       ソレニシテハ、ノニ、ソレナノニ    C  モノノ、モノヲ、クセニ、ソノクセ、カラトイッテ、ダカラトイッテ 別々に述べる  並列   A   オヨヒ゛、ナラビニ、マタ、カツ   B   シ、タリ、ナガラ、ツツ、ハ゛、トカ、ヤラ  累加   A   ソシテ、ソレカラ、ソレニ、ソノウエ、シカモ   B   サラニ、オマケニ、ソレバカリデナク、ソレバカリカ、       ソレドコロカ   C   テ  選択   A   アルイハ、マタハ、モシクハ、ソレトモ、ナイシハ   B   ムシロ、トイウヨリハ、ナリ、カワリニ  転換       サテ、トコロテ゛、ソレハサテオキ、ソレハソウト 拡充して述べる  換言   スナワチ、ツマリ、イワハ゛、ヨウスルニ、ケッキョク、タトエハ゛、       イワユル  補充   タタ゛、タダシ、モットモ、ナオ、チナミニ

§62.2 市川孝:文の関係の類型 

 上の分類の「参考」として名前が出ていた市川孝の「文の関係の類型」というものを。  佐久間まゆみの論文からの孫引きです。 市川孝「文の連接関係の基本的類型」 (1)順接型 前文の内容を条件とするその帰結を後文に述べる型。   順当:だから・ですから・それで・したがって・そこで・そのため・そういうわけで・      それなら・とすると・してみれば・では(以上、仮定的な意)   きっかけ:すると・と・そうしたら   結果:かくて・そうして・その結果   目的:それには・そのためには (2)逆接型 前文の内容に反する内容を後文に述べる型。   反対、単純な逆接:しかし・けれども・だが・でも・が・とっても・だとしても(以      上、仮定的な意)   背反・くいちがい:それなのに・しかるに・そのくせ・それにもかかわらず   意外・へだたり:ところが・それが (3)添加型 前文の内容に付け加わる内容を後文に述べる方   累加、単純な添加:そして・そうして   序列:ついで・つぎに   追加:それから・そのうえ・それに・さらに・しかも   並列:また・と同時に   継起:そのとき・そこへ・次の瞬間 (4)対比型 前文の内容に対して対比的な内容を後文に述べる型   比較:というより・むしろ(以上、比較してあとのほうをとる)・まして・いわんや      (以上、比較されるものをふまえて、著しい場合に及ぶ)   対立:一方・他方・それに対し(以上、対照的な対立)・逆に・かえって(以上、逆      の関係での対立)・そのかわり(交換条件)   選択:それとも・あるいは・または (5)転換型 前文の内容から転じて、別個の内容を後文に述べる型。   転移:ところで・ときに・はなしかわって   推移:やがて・そのうちに   課題:さて(主要な話題を持ち出す)・そもそも・いったい(以上、原本的な事柄を      持ち出す)   区分:それでは・では   放任:ともあれ・それはそれとして (6)同列型 前文の内容と同等とみなされる内容を後文に重ねて述べる型。   反復:すなわち・つまり・要するに・換言すれば・言い換えれば・(以上、詳述・要約      換言)   限定:たとえば・現に(以上、例示・例証)」とりわけ・わけても(以上、抽出)・せめ      て・少なくとも(以上、最小限度)   換置(肯定と否定の置き換え):私の父は実業家ではありません。医師です。 (7)補足型 前文の内容を補足する内容を後文に述べる型。   根拠づけ:なぜなら・なんとなれば・というのは   制約:ただし・ただ・もっとも   補充:なお・ちなみに   充足(倒置的形式):このことはもう一度調べてみる必要がある。結果はどうなるかわ      からないが。 (8)連鎖型 前文の内容に直接結びつく内容を後文に述べる型。        (接続語句は普通用いられない)   連係(解説付加・見解付加・前置き的表現との連係・場面構成など)    (18) a. 初めて朝顔の花が咲いた。白い大きな花だ。(連係-解説付加)       b. 初めて朝顔の花が咲いた。(ソレハ)白い大きな花だ。    (19) ぼくは最近本を三冊読んだ。その中に、『友情について』というのがある。       (前置き的表現との連係)   引用関係(地の文と会話文の関係など)    (20) その人はわたしにこう話しかけた。「いつかお目にかかりましたね。」       (引用関係)   応対(問答形式)    (21) この問題はどのようにして解決されるか。(ソレハ)誠意と努力によってで       ある。(応対)   提示的表現との連鎖    (22) 八月十五日、私はこの日が忘れられない。(提示的表現との連鎖)                            (佐久間2002、p.136-8) 佐久間まゆみ(2002)「接続詞・指示詞と文連鎖」『日本語の文法4 複文と談話』岩波書店 ▽最後の連鎖型というのは、この内容・分け方がいいかどうかは別として、非常に大きな  問題を示していると思います。

§62.3 ソシテとソレカラ

「そして」と「それから」はどう違うのかを考えてみました。分析は途中で 止まってしまいましたが、とりあえずのせておきます。 A1「そして」は二つ以上のこと/ものを結びつけ、一つのまとまりとする。 A2「そして」は主に「並列」と「継起」の二つの用法がある。  並列(色々な述語)   これはおいしいです。そして、安いです。(「よい評価」というまとまり)   太郎は山へ行った。そして、花子は海へ行った。(「二人のしたこと」)   私は夜の仕事を選んだ。そして、昼は大学に通った。   私はアルバムを見ていた。そして故郷を思い出していた。   担当者は、田中さん、山田さん、そして私です。  継起(完結する動作)   学校へ行きました。そして、勉強しました。   彼は恋をした。そして、結婚した。   彼女は銀行から金を借りた。そして、事業を始めた。 A1-1 もともとまとまりようのないものは、結びつけにくい。   ?これは安いです。そして、あれは赤いです。   ?彼女は銀行から金を借りた。そして、居間でテレビを見た。 A2-1「継起」も広い意味で、「並列」の一種とも考えられる。時間的に続く   動作を並べたものとして。 B1「それから」は一つのこと/ものに、さらに別のものを付け加える。 B2「それから」は「順序」と「数え上げ/想起」の二つの用法がある。  順序(完結する動作)   食事をした。それから、映画を見た。   1年そこにいた。それから、タイへ行った。(状態動詞でもいい)  数え上げ/想起   そこにいたのは、山田、田中、それから、えーと、小山に大山、・・・   問題は、教師の不勉強です。それから、職員の怠惰です。   これをその棚の上に載せてください。それから、あれを降ろしてください。 B1-1 前件が後件の実現の前提となる(方法・理由など)場合は、時間的順   序があっても、「それから」は使えない。(全体で一つのまとまり)  ×この書類を持っていってください。それから、品物と引き替えてください。   (○そして)  ×一生懸命勉強した。それから、試験に通った。(○そして/それで)   一生懸命勉強した。それから、試験を受けた。 B1-2 二つの同時的状態などの描写は、「それから」は使いにくい。  ×私はアルバムを見ていた。それから、故郷を思い出していた。  ×その男は顔が真っ赤だった。それから、目が血走っていた。(そして)   (どちらも、思いだしながら一つ一つ述べるのであれば、○) B2-1 順序が逆にできない場合は、「それから」は使いにくい。  ?彼は恋をした。それから、結婚した。(○そして)  ?私は朝早く起きた。それから、すぐ外にでてみた。(○そして)  参考文献  森田良行『基礎日本語辞典』角川書店1989  浜田麻里「ソシテとソレデとソレカラ」『日本語類義表現の文法(下)』   くろしお出版1995  ひけひろし「接続詞の記述的な研究」『ことばの科学2』むぎ書房1989  守屋三千代「添加型の接続語について」(出典不詳 スミマセン)  (『日本語文型辞典』『日本語文法ハンドブック』には詳しく書いてありま   せんでした)  (「C」として、もう少し問題点を書きたかったのですが、まとまらず、書け   ませんでした。)
新屋・姫野・守屋『日本語教科書の落とし穴』
「そして・それから」 [1]「そして」VS「それから」:平叙文中の言葉を並列する  (1) 私はハンバーガー1個とポテトのS、そしてバニラシェイクを注文しました。  (2) 私はハンバーガー1個とポテトのS、それからバニラシェイクを注文しました。     平叙文の命題内部のモノ同士を並列する場合、ほぼ問題がありません。  ただし、文末に伝達的なモダリティを伴うと、「そして」では不自然となることがあり ます。  (3) *ハンバーガー1個とポテトのS、そして、バニラシェイクをください。  この例は平叙文ではなく、注文、つまり相手に行為の要求をする文です。  「それから」に替えれば適格となります。 [2]「それから」:言い足りない文を添加する  (4) ハンバーガー1個、ポテトのS1つ。あ、それからバニラシェイクもください。  (4)' *ハンバーガー1個、ポテトのS1つ。あ、そしてバニラシェイクもください。    話し相手の次の言葉を促す場合  (5)L:(泣きながら)昨日ビザの書き換えのために入国管理局に行こうと思って、地     下鉄に乗ったんですが・・・・・    T:うん。それから(どうしたの)?     *うん。そして(どうしたの)?   しかし、相手の言葉を引き取って代弁するのであれば、「そして」の出番となります。  (5)'T:そしてあの事故にあった、というわけですね。 [3] 主に時間的な前後関係にあるまとまった事態を、2つの文で並列する。  次の例は「命令/依頼/勧誘」のモダリティを伴った場合です。いずれも「そして」を はさむ2つの文の間に、時間的な前後関係が認められます。  (10) 大将:さあ行け。そして敵の首を取ってこい。  (11) 上司:先方に出向いてくれないか。そして、例の件を打診してきてもらえないか な。  (12) ねえ、いっしょに香港に行かない? そして、おいしいものをいっぱい食べてき ま しょうよ!  上の「そして」を「それから」に替えると、前文の行為の完結後に後文の行為が開始さ れる感じとなるため、不自然となりやすいようです。 [4]「そして」VS「それから」:異なる時間的前後関係を表す  (13) ゆっくり手を上げてください。そして静かに息を吸ってください。  (13)' ゆっくり手を上げてください。それから静かに息を吸ってください。    (13) が「手を上げ」はじめた段階で「吸う」が開始されてもよいような感じがするのに 対し、(13)' は「手を上げる」動作が完結してから「息を吸う」動作が開始する感じがし ますね。 (14) 窓を開けましょう。そして新鮮な空気を入れましょう。 (14)' *窓を開けましょう。それから新鮮な空気を入れましょう。  以上のことから、基本的に「そして」は接続するもの同士にある種の前後関係が認めら れ、かつ全体でひとまとまりの意味をなす場合に用いられ、一方「それから」は、出来事 や発話の時間的な前後関係に沿ってそれぞれを独立的に結びつける場合に用いる、と押さ えることができるでしょう。                                 (p.125-129)   ポイント  1.「そして」も「それから」も基本的には時間的・心理的な前後関係を表す。  2.「そして」は全体でひとまとまりの意味をなす場合に用いられる。  3.「それから」は言い足りない部分の添加を現す。                                 (p.129) ▽抜粋ですので、詳しくは同書をごらんください。  例文の(6)から(9)のところの議論はどうも賛成できなかったので省略しました。

§62.4 ワケ

 使い方の整理が難しい「わけ」について。まず2つの文献から。私のノートです。  読みにくくてすみませんが、今日はコピーするだけということで。 五味政信(1988)から。 (NAFL Institute日本語教師養成通信講座「日本語の文法3」) 1. 因果関係 P→Q Qわけだ。 (Qを知り、それからPを知る) 「学校の中が静かですね」「ええ、夏休みに入ったんです」「ああ、それで静かなわけ    ですね」 「夜遅くまで勉強していますね」「あした試験があるんです」「それでがんばっている    わけですね」 因果関係を納得 疑問の解答が見つけられた時 (Alfonso) それで、〜わけですね 2. 帰結 P→Q Qわけだ。(Pを知り、Qという一つの帰結を述べる) 「停電だそうですよ」「じゃ、テレビを使った授業はできないわけですね」    「Aさんが新しい首相になりましたよ」「Bさんはなれなかったわけですね」 Pから展開された帰結を伝える =ことになる(寺村) すると、当然〜 3. 解説 Pは事実 Qは解説 Qわけだ 事実の解釈 つまり?    「Kは、〜し、〜し続けた。後で、役立ててもらおうというわけである」    「雨の中で大丈夫でしょうか」「雨でも練習していますので」「いろんな練習をしてい    るわけですね」 (この二つの例は別なのでは? 上は「ナセ゛ソウスルカトイウト」 ぐらいか) 4. 展開 P→Q→R→S→ 展開の根拠を示す?    「昨日駅で彼に会っちゃってね、映画でも見ようってことになったわけ。そしたら、    その映画がつまんなかったわけ。〜」 乱用されやすい (寺村参照) 「わけだ」の元の意味はひとつで、「理由」「事情」を伝えることに発している 「学校の中が静かでしょう」「ええ、あっ、わかりました。夏休みに張ったわけですね」 P→Q Pわけだ 事実Qを知り、Pに思い至る 「ぼく、ちょっと顔色が悪いでしょ」「昨日、緊張して眠れなかったわけね」 (これは1.の一部?) これだけが「Pわけだ」 寺村秀夫「日本語のシンタクスと意味II」p.285 (i)あるQという事実に対し、なぜそうなのかを説明するために、明らかな既定の 事実Pをあげ、そこから推論すれば当然Qになる、ということをいう言い方。 「・・・・コトニナル」と言いかえができる。 信吾は東向きに座る。〜菊子は西向きだから、信吾と向かい合っているわけだ。   「それに対しまして、もし黙っていればね、私もそれを支持するってことになる      わけでございますよね」 (ii)Pという聞き手に身近な事実をあげ、その事実は、ある角度、観点から見ると Qという意味、意義がある、ということを聞き手に気付かせようとする言い方。 「言いかえると・・・・」というぐらいの軽い感じの場合もある。 こうして尊氏は彼の運を開いてくれた恩人に報いることができたわけである。 〜他社の6割5分引き。米国と欧州との間がまた近づいたわけだが、〜 (iii)P→Qという推論の過程は示さず、Qということを、自分はただ主観的にそう 言っているのではなく、ある確かな根拠があっての立言なのだということを言外 に言おうとする言い方。乱用すると独断的な、押し付け的な印象を与える。 教習所で落第すれば、楽しめないわけで、同じようなところが数学にもあるわけだ。 (五味の2.3.4.に当たるか。) ▽最近の先生方は知らないかもしれませんが、昔はこの本が最高の文法書でした。  「アルフォンソのJLP」と呼んでいました。 A.Alfonso 「Japanese Language Patterns」(1966) A THE SITUATION --THE FACT BEING EXPLAINED REASON or MOTIVE -thing done A REASON or MOTIVE for doing something is expressed, and then the thing done is expressed; WAKE is used the same way NO should be used. B Somehting is mentioned that explains something a person might have been wondering about, or couldn't understand before; WAKE is used in a phrase that is equivalent to '(so) THAT'S WHY!'. C THE SITUATION---ONE'S EXPLANATION OF THAT From a given fact or statement one concludes to a reasonable consequence of it or to the significance of the fact; WAKE is used in a phrase equiva- lent to the English: 'IT MEANS THAT'. D SOME STATEMENT---ANOTEHER WAY OF PUTTING IT WAKE DESU is used in phrases equivalent to something like: 'WHAT IS MEANT IS','WHAT YOU MEAN IS','WHAT THAT MEANS IS'; something is said, and the party listening explains it in other words. A・すぐそこまで来ましたのでちょっとおじゃましたわけです。 ・このことを皆に知ってもらいたいと思って書いたわけです。 ・そのことで皆さんと相談したいと思いましてお呼びしたわけです。 ・私はこの人のためを思ってそれを言ったわけです。 ・自分でいろいろやってみたが、うまく出来ないので相談に来たわけです。 B・「今日は学校はお休みだそうですね」「なるほど、だから朝から静かなわけですね」 ・「山田さん明日から旅行だそうですよ」「それでにこにこしているわけか」 ・「駅の前で自動車事故があったそうですね」「それで騒いでいるわけか」 ・「この電話いくらダイヤルを回してもかからないんです」「あ、その電話は故障して います」「なるほど、それじゃかからないわけですね」 C・「お勤めはどちらですか」「東京の会社です」「すると毎日ここから通っているわけ ですね。大変でしょう」「いいえ、慣れると何でもありません」 ・「大阪まで三時間ぐらいで行かれるようになるそうですね。」 「じゃあ、日帰りで行って来られるわけですね。」 ・「また運賃が上がるんだね。」「そうなんだ。二割も上がるというじゃないか。」 「すると他の物も上がるわけだね。」「そういうわけだ。ひどいね、まったく。」 ・「箱根は雪が1メートルも積もっているそうです。」「それじゃ車は通れないわけで すね。困ったことになりましたね。」 ・「台風で西日本は相当やられていますね。」「うちが倒れるくらいだからずいぶん強 かったわけですね。」 D・「わかってみれば簡単です」「つまりコロンブスの卵というわけですね」 ・「進は迎えに行ってまだ帰って来ないね」「ミイラ取りがミイラになったというわけだ ・「経済状態はあまりよくありませんね」「お先真っ暗というわけですよ」 ・(ある人の話を聞いて)「そういうことも考えられるわけですね」 ▽より最近の本から 『形式名詞がこれでわかる』ひつじ書房 2003 から 「わけだ」 1 論理の流れに沿った発言であることを表す。 1-1 結果   Y→Z Zが未知の場合は「ことになる」「はずだ」と言い換えられる。         (例)波が荒い。船が出せないわけだ。 1-2 原因・理由 X←Y 「からだ」と言い換えられる。         (例)波が荒い。台風が近づいているわけだ。 1-3 納得    X⊂Y 「はずだ」と言い換えられる。           [「⊂」の記号の下は先端が矢印。Yに戻る意味の記号]         (例)台風が近づいている。どうりで波が荒いわけだ。 2 別の視点からのとらえ直しであることを表す。 2-1 とらえ直し  「つまり」「言い換えると」「要するに」などのことばが論理の展開           のマーカーとして入ることもある。         (例)波が荒い。海水浴シーズンも終わりというわけだ。 2-2 まとめ上げ  「このように」「要するに」などのことばと共に用いられることが多い。         (例)「あした、シンポジウム行く?」「あさってまでにレポートを書            いたり、発表の準備をしたりしなくちゃ行けないし、お金もない            し・・・・」「行かないってわけね。」  2-3 補足説明  「具体的にいうと」「というのは」などのことばを補うとわかりやすい。 3 論理をふまえた発言であることをほのめかす。(話しことばで多用される)         (例)台風が近づいているわけだから、つりは無理だろう。

§62.5 ノダ

『日本語文法ハンドブック』(初級)から

『日本語文法ハンドブック』(初級)から「§28.関連づけ」(p.270-)の「のだ」の解説を 紹介します。
関連づけの「のだ」(1)
  (1) 昨日は学校を休みました。頭が痛かったんです。   (2) 昨夜2時間ぐらい停電した。発電所に雷が落ちたのだ。   (3) (朝起きて道路がぬれているのを見て)ゆうべ、雨が降ったんだ。   (4) (一人で泣いている子供を見て)きっと、迷子になったんだ。  関連づけとは、ある発話がそれを取り巻く状況と関連があることを示すという ことで、図示すると次のようになります。このうち、状況は(1)(2)のように先行 文として表現されることもあれば、(3)(4)のように言語的には表現されないこと もあります。       [ 状況 ]−−−−−−[ 発話 ]            関連づけ  (1)(2) 先行文の理由を表す  (のだ・のです・のである)  (3)(4) 状況に対する話し手の解釈を表す  (のだ)     どうしてPであるのかというと、Qなのだ。  「からだ」は(1)(2)では使えるが、(3)(4)では使えない。
関連づけの「のだ」(2)
  (1) 今日、私は大学を卒業した。明日からは学生ではないのだ。   (2) 彼女は日本人の父親とは日本語で、アメリカ人の母親とは英語で話す。     彼女はバイリンガルなのである。   (3) (それまでわからなかった機械の使い方がわかったとき)なんだ、このボ     タンを押せばいいんだ。   (4) (なくしたと思っていた傘を見つけたとき)なんだ、こんなところにあっ     たんだ。   (1)(2)では、QがPの意味することを表したり、Pの言い換えになっている。     Pというのは、どういうことかというと、Q  (3)(4)は、それまでわからなかったことがその時に初めてわかったということ を示す発見の用法       [ 先行する状況 ]−−−−−−[ 解答 ] 関連づけ
関連づけの「のだ」(3)
(1) 田中くんからいっしょに帰ろうと誘われたが、忙しかったので断った。     彼は一人で帰ったのだろう。 (2) 日曜日で会社は休みのはずだが、吉田君は電話に出ない。洋子さんとデ     ートをしているのかもしれない。  (1)(2)のようにモダリティ表現(だろう、かもしれない)の前に「の」が付いて  いる場合  意味的に「のだ+モダリティ表現」    [吉田くんは電話に出ない]−−−−[吉田くんは洋子さん〜をしている]                関連づけ                  確信→デートをしているのだ                  可能性→デートをしているのかもしれない  「ようだ、なければならない」などは「のだ」といっしょに使えない  「にちがいない」は「のだ」と共に使えるが、意味の違いはあまり生じない     部屋の電気が消えている。彼は出かけているにちがいない。     部屋の電気が消えている。彼は出かけているのにちがいない。  逆順の「モダリティ表現+のだ」という語順もある。  ほとんどのモダリティ表現が使えるが、「だろうのだ」は使われない。     今日は雨が降るかもしれないんだ。だから、早く帰ろう。     こんばんは雨が降るんだ。だから、早く帰ろう。  後者は、話し手はその文の内容を確信している。前者はそうでない。 ☆なお、この「のだ」は関連づけを表していない。(→『中上級編』)
関連づけの「のだ」(4)
(1)a. 田中さんは大学生ですか。     b. 田中さんは大学生なんですか。   (2)a. 洋子さんは背が高いですか。 b. 洋子さんは背が高いんですか。   (3)a. 吉田さんはこの本を買いましたか。 b. 吉田さんはこの本を買ったんですか。     「のだ」には前提を表す用法がある(→§29) ▽以下、説明があるが、ここは「§29」の「2.疑問文に使われる「のだ」」の  ところを理解していないとなんだかわからないので省略。 (続く)

『現代日本語文法4 第8部モダリティ』から

『現代日本語文法4 第8部モダリティ』  第5章 説明のモダリティ  2節「のだ」(p.195-p.207)   用法の分類  説明のモダリティを表す「のだ」は、2つの軸によって4つに分類できる。 [提示の「のだ」と把握の「のだ」]   提示:話し手が認識していたことを聞き手に提示して認識させようとすると      きに用いられる   把握:話し手自身が認識していなかったことを把握したときに用いられる     私、明日は来ません。用事があるんです。(提示)     あいつ、来ないなあ。きっと用事があるんだ。(把握)   把握の「のだ」は、独話でも用いられ、「のだと思う」のように「と思う」の中に 入ることもできる。  提示の「のだ」は、聞き手を必要とする。  「んです」や「の」の形(終助詞を伴わない形)をとるのは、提示の「のだ」だけ     私、明日は来ない。用事があるの。(提示)     あの人、来ないね。きっと用事があるの。(把握)   [関係づけの「のだ」と非関係づけの「のだ」]   関係づけ:先行文脈や状況について、その事情などを提示・把握する   非関係づけ:事態をそのまま提示したり把握したりする    以上の組み合わせで、「のだ」は4種類に分類される。     私、明日は来ません。用事があるんです。  (提示・関係づけ)     あいつ、来ないなあ。きっと用事があるんだ。(把握・関係づけ)     このスイッチを押すんだ!         (提示・非関係づけ)      そうか、このスイッチを押すんだ。     (把握・非関係づけ)    ▽なるほど、という感じです。これですべてうまく説明できるのか、、、。

§62.6 野田尚史「子文・親文」

野田尚史の論文から、文と文の関係について興味深い提案を紹介します。  野田尚史「単文・複文とテキスト」『日本語の文法4 複文と談話』岩波書 店 2002  文と文の従属的な関係  (p.17)  テキスト(text)はふつう複数の文で構成されているが、テキストを構成する 複数の文はすべてたがいに対等な関係で結びついているわけではない。文とし ての独立性が高い文もあれば、他の文に従属しているような独立性の低い文も ある。  ここでは、文と文が従属的な関係でつながっているものをみる。次の(65)は、 最初の文がその後の文に従属的な関係でつながっている例である。  (65) 国際身障者年の来年、アメリカを訪れ、各地の障害者の施設で日本の 折り紙を教えたい。そういう全盲の人の小さな夢を主婦や学生が支援し、実ら せようとしている。           (『朝日新聞』1980.8.9 朝刊 p.1「天声人語」)  ここでは仮に、(65)で実線の下線を引いた文のように、他の文に従属してい る文を子文(あるいは従属文)、点線の下線を引いた文のように他の文に従属 していない文を親文(あるいは独立文)と呼ぶことにしよう。  (65)の最初の文が後の文に従属していることは、これら二つの文を、次の(66) のように、一つの文にしても、意味がほとんどかわらないことからもわかる。 一つの文にすると、子文は節になり、親文は主文になる。  (66) 国際身障者年の来年、アメリカを訪れ、各地の障害者の施設で日本の 折り紙を教えたいという全盲の人の小さな夢を主婦や学生が支援し、実らせよ うとしている。 ▽こういう軽い冗談は大いに好きです。  「子文」と従属節の並行性ということは、もっと詳しく調べる必要がある問 題です。野田尚史はいろいろな例を出して議論しています。
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